12 『老人の叫び』
「失礼。お話をいいですか?」
レオーネが老人に声をかける。
さっきまでのレオーネとロメオを見ていた老人にとって、二人は自分の演説を止めようとしていたマノーラ騎士団の仲間だ。そんなレオーネと会話するつもりはなさそうだった。
普段はレオーネが交渉役を務めることが多いが、ロメオ自身気になることもあるため、今度はロメオが口を開いた。
「ワタシたちは、あなたの行動を止めようとしているわけではありません。お話を聞きたいのです」
この言葉に、老人はロメオを見た。
しかし、やはり会話をする気はなさそうで、顔を横に向けてまたなにか市民へと語りかける。
「こんな真夏に雪が降るなんて、理由がある! みんなそう思っているはずだ! もちろん、理由はある! 異常気象は理由があって引き起こされているものだ! 世界では、今も世界の海水温は上昇している!」
今度は身体を逆に向けて、老人は訴える。
「このままでは、不安定になった天候が災害を連鎖させ、やがては氷河期のような気象になるだろう! 世界は滅亡する! 人類は滅亡する! このゼロからは、人類にとっての次の一はない! その原因が――」
そこに、ロメオは単語を口にした。
「《気象ノ卵》」
「……」
老人がロメオに向き直った。
「以前、ワタシはどこかでそれを聞いたことがある。そんな気がしているんです」
「……まさか、マンフレード博士を知ってるのか」
唐突に、老人のほうから質問がきた。
演説をしていたときの狂人の声ではない。学者のような理知的な声だった。
ロメオは老人の顔を見返す。
よく見れば、それほど年老いた人でもないらしい。ロメオが観察したところでは、まだ五十代であろうか。お世辞にも身なりがよくないため、ぼさぼさの髪と伸ばしたひげで年齢がわかりにくかっただけなのだ。
ロメオは正直に答える。
「その名前も、聞いたことがあったかもしれません。ただ、もう何年も前だったような……」
「そうだ。五年前になる。あの人が処刑されたのは」
レオーネは話を聞いていたのかいなかったのか、ずっと明後日のほうを見ながらカードをいじっていた。その手を止めて、
「まだ来ない、か。真実を知るには、ロメオの記憶を照合すべきだが、まずは挨拶をしよう」
「そうだな」
と言って、ロメオは老人に一礼した。
「改めてご挨拶させてください。ワタシは狩合呂芽緒と申します。そして、こっちが振作令央音です」
「よろしくお願いします」
老人も名乗る。
「わしは気候学者の浦留浦羅洩延だ」