11 『画人戦士』
少年の案内によってレオーネとロメオが現場に到着すると。
そこには、まだなにかを叫んでいる老人がいた。
「人間たちよ! 聞きたまえ! このままではエッグから生まれたモンスターたちが人間を駆逐してしまう! 環境問題に目を向けよ! 改めよ! 今この時も環境汚染は進んでいるのだ! なぜ目を背け続ける! モンスターが恐ろしくないのか!」
レオーネは真面目な顔で「ふむ」とあごに手をやり、話を聞いた。
「なるほど。確かに、環境問題を提起するだけならばそうした類いの活動家というだけで済むが、エッグやモンスターなんて叫んでいるから周りも奇人だと思っている様子だな」
「ああ」
ロメオはただうなずく。
二人に気づき、マノーラ騎士がやってきた。
「あっ! こんにちは! レオーネさん、ロメオさん!」
「やあ」
「こんにちは。エルメーテさん」
エルメーテは、マノーラ騎士団に入ってまだ二年目の新人である。年はレオーネとロメオより二つ下の十八歳。
本名を智江来選召手といって、背は一七三センチほど、中肉中背で、まだ顔に幼さも残るが、剣の腕もなかなかに立つ。
異名は『画人戦士』。
絵に関する魔法を持つことからそう呼ばれていた。
互いに挨拶を交わして、さっそく本題に入る。
「興味深いことを言ってるね。状況は?」
とレオーネが尋ね、エルメーテが答える。
「はい。市民へ手を出したりはしていないのですが、喚いている老人がいると何件も通報がありました。狂人だと噂になっています」
「特定のだれかに語りかけることはしましたか?」
ロメオの問いに、エルメーテは首を横に振った。
「いいえ。ごらんの通り、たくさんの人にしゃべりかけようとしている様子です。やはり活動家かと思われますが」
「そうですね。しかし、ただの活動家であったとしても、このまま放置するわけにはいきません。我々が話を聞きましょう」
「僕も試しましたが、とても話を聞いてくれるような様子ではありませんよ……?」
困ったようにエルメーテは肩を落とす。
相当手こずったのだろう。
レオーネは爽やかに微笑みかけて、
「ちなみに、あの『マノーラの巨匠』、オリンピオさんはいらっしゃるのかな?」
「別件がありますから、来るとしてもしばらくしてからになるかと思います」
「では、オレとロメオがこの場を預かろうか」
「大丈夫ですか?」
「まずはやってみないとね」
そんなレオーネの元に、一人の青年がやってきた。エルメーテと同じく、マノーラ騎士団の服装である。
「オリンピオさんは少し遅れるそうです」
「お疲れ様です」
とエルメーテは騎士に挨拶した。
騎士は、軽く手をあげエルメーテに微笑みかけ、その顔を今度はレオーネとロメオに向け直し、淀みなくしゃべる。
「あのご老人のおっしゃることも、環境問題についてはもっともです。我々が意識すべき人類の大いなる課題といえます。しかし、モンスターやエッグといった単語など、不可解なこともある。彼のお話をどれだけ聞き出せるかが肝かと思われます」
「あなたは……」
ロメオは、その騎士に覚えがあった。
最近入ったばかりの騎士であり、エルメーテよりも十歳以上年上の二十九歳だが、エリートとしてすでにオリンピオに次ぐ指揮権を持つらしい。まだ三十歳になる前なのに立派なことだ。
「昌露雁須斗さん、でしたね」
「覚えていただけて光栄です。ロメオさん」
騎士カリストは、エリートらしいパリッとした佇まいだが、人当たりのよさがある。仕事の実行能力もあり、マノーラ騎士団になったばかりながら、急に彼の部下になったエルメーテたちにも面倒見よく接していて、慕われている印象がある。
「カリストさんもあのご老人についてご存知だったんですね」
「自分たちマノーラ騎士団では情報が共有されています。昨日もエルメーテくんとここに来て見ていました。ただ、自分が話を聞こうとしても、騎士服を見ただけで拒まれてしまいましたがね」
苦笑するカリストに、ロメオも同じ表情を返す。
「仕方ないことです」
「それなら、オレとロメオは話を聞くのにちょうどいいってことですね。では、お話を聞いてきます」
レオーネとロメオは二人の騎士をその場に残し、老人の元へと歩み寄った。