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10 『盗賊遊戯』

「レオーネ」

「なんだ? ロメオ」


 呼ばれて、レオーネはロメオに微笑を向ける。ただし、目は笑っていない。ロメオの意見を早く聞きたいと訴えるような目だった。


「ワタシには《気象ノ卵(ウェザー・エッグ)》の名前に覚えがある。が、はっきりとは思い出せない」

「そうか。オレは覚えてないけどな」

「我々に関係のあることかもしれない。記憶を探ってくれるか?」

「そういうことなら任せてくれ」


 ウインクすると、レオーネの手の中にカードの山が現れる。

 カードは五十枚ほどが一つの束になっており、それをレオーネはディーラーが流麗な手さばきでカードを切るようにシャッフルする。

 この様子を見て、少年は目を輝かせた。


「うわああ! レオーネさんの魔法がまた見られるんですね!」

「あはは。すでに魔法は始まってるよ」


 小さく笑うレオーネ。


「そうですね。レオーネさんの《盗賊遊戯(シーフデュエリスト)》は、相手から魔法を盗んでカード化して、自分が使えるようになるんですよね」

「盗んだ魔法をカード化して五十三枚のデッキをつくり、そこから手札を五枚引く。この五枚からじゃないと魔法を使えない。ランダム性を伴う、不便な魔法だよ」


 レオーネはしゃべりながら五枚のカードを引いた。

 こうした情報をだれにでも軽々と話せるのも、仮にレオーネの魔法の特徴を知ろうがそれだけで対応できる者がいないからだ。

 特にイストリア王国では、最強の魔法の使い手の一人として知られている。

 自らの魔法に関する情報を伏せるのが常識なこの世界では、めずらしいほど開けっぴろげな態度である。相棒のロメオも、その点を注意する様子もなく、レオーネは爽やかにカードを一枚選んだ。


「残念。このデッキにあるのだけど、手札にはなかった。代わりにこれを使っておこう」


 サッと、レオーネはカードを投げる。

 カードは回転しながら飛んで行き、道ばたに落ちていたブローチにぶつかった。ルビーが埋め込まれた高価そうなブローチである。


「ブローチ? 落とし物でしょうか」

「たぶんね。今日は雪が降っているが、ブローチの上には雪がかぶさっていなかった。つまり、ついさっきまであの場所にはなかったってことだ」

「なるほど!」


 と少年は感心している。


「持ち主は、きっとまだ近くにいるよ」


 投擲されたカードとぶつかったブローチはというと、だれが触ったわけでもないのに勝手に動き出して、宙を漂ってどこかへ行ってしまった。


「あれはどうなるんですか?」

「持ち主の元へと還る。それだけさ」

「す、すごいです! ブローチにはルビーが入っていたから高価な物だと思うし、持ち主は安心してると思います」

「だろうね。あれは値打ち物だ」

「レオーネさんって、鑑定もできるんですか?」


 なんにでも興味関心を示す少年に、レオーネは苦笑を交えながら答える。


「いいや。ただの知識さ。古来、ルビーはルーン地方やメラキアでは採れず、マギア地方の限られた場所でのみ採掘された。それゆえ、かつてはもっとも貴重な宝石とされていたんだ。今でもルビーには高い価値がある。だからあれが偽物じゃないのがわかっただけで、値打ち物だといえるわけだよ」

「へえ」


 少年は聞き入っていた。少年にとって興味があるのは、宝石そのものではなく、レオーネがいろんなことを知っていることであり、レオーネへの憧れから問いを重ねた。


「つまり、マギア地方ってことは、東洋の一部でしか見つからない宝石だから高価ってことですよね? それでもダイヤモンドよりも価値があったなんてびっくりですよ」

「ダイヤモンドはなにより硬い宝石として知られているが、ルビーやサファイアなどのコランダムは二番目。要するに、ここまでが磨きあげて美しさを楽しめる状態だったんだよ。技術的にね。それに比べて、ダイヤモンド本来の美しさが知られるようになったのは、割と最近なんだ。人類の科学がやっとダイヤモンドを研磨できるようにした」

「そういえば、レオーネさんとロメオさんは、科学について詳しいって聞いたことがあります!」


 そんな少年のキラキラした瞳をかわすように、レオーネが前方を指差した。


「ごらん。さっきのブローチだ」

「あ。ほんとだ」


 四十代後半のマダムが、慌てて自分の身体をぽんぽん叩いてバッグをまさぐり、自分の背後の中空に漂うブローチに気づくと、「あら!」と驚き、よかったわと喜んでいた。


「やっぱり近くにいましたね。人助けもしてて、レオーネさんってすごいですね」

「人助けはおまけだよ」


 山札からカードをまた一枚引くと、レオーネは苦笑を浮かべた。


「まだ来ない。手札を使わないと次のカードを引けないんだ。欲しいカードが来るまで、少しずつ入れ替えていこう」


 そうやって雑談を交わしながら、三人は現場へ移動した。

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