9 『気象ノ卵』
レオーネとロメオは、歩きながら話を聞いた。
少年によると。
「なんだか、おかしなことを言ってるんです」
「おかしなこと?」
路上で叫び喚いているのもおかしい行動だが、言っていることまでおかしいらしい。レオーネが促すと、少年は説明する。
「エッグから生まれてる! とか」
「……」
ロメオは黙ってじっと聞いているが、レオーネは興味本位の微笑を浮かべる。
「ほかには?」
「環境問題を真剣に考えろ! とかです」
判然としない。
これだけでロメオが下せる決断などない。それはレオーネも同様で、「どう思う?」とでも言いたげにロメオに目配せした。
ロメオは小さく首を横に振る。
「だよな。エッグ、生まれてる……なんの話をしているのか。それが環境問題とどうつながるのか」
「ぼくやマノーラ騎士団の人たちもそれがわからなくて、どうしていいのか」
「マノーラ騎士団はどうしてるんだい?」
「今は新人騎士のエルメーテさんが来てます。その老人が市民に手を上げないよう見張ってます。このあとオリンピオ騎士団長が来るって言ってましたよ」
「あの人が来れば騒ぎがあっても治まる。が、あくまで悪事を働く人間を鎮められるだけだ。問題の解決ができるかはわからない」
少年は頭に人差し指を当てて、思い出そうとしている。
「ええと……なんか気になることも言ってて……」
ロメオが目を上げる。
すると、少年は思い出したのか、ぽんと手を打った。
「そうです! なんとかっていう博士の研究は、本物だったって言ったんです。あ、そうそう、《気象ノ卵》は本当にあるって!」
「ん?」
小首をかしげるレオーネであったが、ロメオは引っかかりを覚える。だが、すぐさま記憶が蘇った。
《気象ノ卵》。
この単語に、聞き覚えがある。
――知っているはずだ。しかし、記憶が定かではない。どこで聞いた。だれに聞いた? どんなものだった……?
幼馴染みのレオーネとロメオは、物心ついたときからずっといっしょだった。
ロメオが知っていることなら、レオーネも知っている。
だが、レオーネには覚えがなさそうだった。
――レオーネに記憶を探ってもらって確かめよう。我々とは、無関係な話ではない気がする。