壺
古くから伝わる壺がありました。それは、紀元前の物で、歴史的価値のあるとってもとっても貴重な、世界にひとつだけの壺でした。
しかし、世界的貧困が起こり、戦争が勃発したとき。骨董品の価値など皆無になりました。市民たちは常に飢えに苦しみ、中には耐えきれず食べ物を強奪する者までいました。
そう。争いの中ではお金の価値なども、無意味だったのです。
美術館の人たちは歴史と伝統を守るために、骨董品を地面に埋めることを考えました。爆弾などで壊されるのを防ぐためです。
未だ焼き払われていない深い森に、大きな穴が掘り終わりました。美術館のスタッフたちは次々に骨董品を入れていきます。古くから伝わる壺もまた、地面の中で眠ることとなりました。
「いつか全てを失ったとき。これらが発見されたら、市民たちは前を向けるはずだ」
時は巡り。森が焼け野原となり、剥けた地面が露わになったある日。埋められたはずの骨董品が姿を現しました。見つけたのは、一人の女の子の赤ちゃんとお母さんです。
死に物狂いで逃げてきた彼女たちは、骨董品があることを市民に伝えます。戦争が終わり、物資も何もかも失った国では、骨董品は外国人に高く売れる代物でした。
お金の価値が戻った途端、市民たちは骨董品を掘り起こしだします。
そして、それらを躊躇なく売り出しました。争いとは無縁な外国人は珍しい骨董品が安く買えるので、たくさんたくさん買いました。
骨董品たちの価値が認められると、今度はその国への支援も始まりました。
さて。肝心の紀元前からある壺は、どこへ消えたのでしょう。市民たちがやがてお金の力で取り返そうとする日も近いでしょう。
争いはまた、その時に起こるかもしれません。
お金と物資に振り回されて生きる人々を、壺はどう思っているのでしょう。喋らぬ物には血塗られた歴史が眠るものです。でもだからこそ、光り輝く何かを感じるのかもしれませんね。




