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中国人の部屋

作者: 山田 公冬

孤立した部屋に一人の人物を入れ、規則だけ指示する本を置いておく。人物は部屋に空いた小さな窓より投入される記号を本に従って変換し別の小さな窓から排出する。これによって人物は自分が何の役割を果たしているか分からないまま機能を果たすとする思考実験が中国人の部屋である。しかし、規則の理解に当たっては部屋に投入される以前の経験によってその制度が左右される。かろうじて文字が読める者にせよ、ほぼ全知全能に近づいた者であるにせよ、部屋に置かれた本の指示を理解できるという前提条件を満たすには変わりない。ここに思考実験としての欠陥がある。本を手繰るという操作自体が文化的経験と学習に依存するのであり、また投入される記号の偏りと頻度は一定ではありえない。部屋の外側の状況に応じて記号の出現率は偏り、また頻度もまばらになる。とても暇な時ととても忙しい時とで記号の偏りがある事に気付くならば、それはどうあっても学習される。先に愚かな者と賢い者とで規則を理解できるのであれば等価と述べたが、ここでは愚かな者に注目して論述しよう。生きた人間をずっと部屋で過ごさせる前提であるから、その人物は少なくとも食事と睡眠を継続して行い、また性欲についてもどうにかするだろう。一応清潔であり続けなければ生活にも支障が出るから、少なくとも清拭をするぐらいの用具や水は与えられるだろう。生物としての生存が脅かされてはこの思考実験は破綻する。ところで、外の状況という概念を説明なく述べたが、中国人の部屋という構造が世界を指すのであれある企業の閑職を指すのであれ、とにかく人間を登場させているのであるから外側にも人間ないし同等以上の知的存在があると措定して構わないだろう。中国人の部屋という構造が成立する時、自然状態の中で突然出現することはあり得ず、その外側には構造を創始し維持し続ける文明社会があると前提するしかない。すると、外側では社会が我々の知るとおりに平和でありあるいは不穏である時期を繰り返している。その場合に、中国人の部屋が中にいる人物には理解できない記号を投入し結果を出力させているとしても、中のいる人物にとって観測可能な兆候がある。忙しい時期である。満足に食事もとれないほどに次々と記号が投入される時、中の人物は食事の機会を逃し睡眠の時間も減らし、また自らを気遣えない時間が続いた結果、自らの体臭や痒み、欲情に悩まされるかもしれない。この苦痛が学習されると同時に、中にいる人物にとっては忙しい状況に至る兆候を気に掛ける動機が生じる。そして注目されるのが、記号の種類である。暇な時と忙しい時とでどのような記号が外から投入されるのか気にされ、あるいは記号が文章の体裁をとっていれば、また一回の投入量が多ければ、それも学習されるだろう。そうして、直近の未来において暇である兆候と忙しい状況の区別が愚かな者においても生じる。ところで、この思考実験では規則の理解さえ出来れば知性の程度は問われないと指摘したが、賢い場合であればどうだろうか。中国人の部屋の状況が社会すなわち外側の必要によって生じるとすれば、外側は高度な操作を行ってもらえるのならばそれを利用しようという発想に至るだろう。中国人の部屋とは、ただ与え与えられた役割を果たすだけではどんな人物でも知的な発展をしない知性の限界を述べた側面があるが、しかし愚か者でも暇と忙しさの区別をする為に学習をするだろうと論じた。また、賢い人物は部屋に入る前に社会に取材していては部屋に入れないという定義も無い事から、過去の経験に社会への理解が無いとするのは考えづらく、また外側の世界いが高度な出力を中国人の部屋に求めるならば、誰でもいいという事で全く社会に理解の無い人間だけにこだわる理由はないだろう。そうして高度な操作体系を与えられた高度な人物は、その賢さにより外の状況を洞察するだろう。そして賢い人物が全く経験の無い場合でも、操作体系と入力と出力の傾向を愚か者のような動機で理解し、いずれ外に出た場合には時間経過と物事の展開から類推して、自分が何をして何をさせられていたかを洞察するだろう事は合理的に推論可能である。

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