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『マリアンヌ、また会える日まで。次に会えた時は、どれだけ素敵なレディーになっているか楽しみにしているよ』


レオン様はそう言って、私の額に口付けしてくれた。


「れおんしゃま、まってくだしゃい」


手を伸ばしたところで、マリアンヌは目が覚めた。目にはいるのは、いつもの自分の部屋の天蓋のベッド。


(れおんしゃまのことはゆめだったのかちら?でも、わたちのひたいの、れおんしゃまのくちびるのかんちよくは…)


自分の額に触れ、マリアンヌは赤面した。



「マリアンヌお嬢様、そろそろお目覚めになりましたか?」 


天蓋のカーテンを開きながら、乳母のリンダが伺ってきた。リンダはアンネが嫁いできた際に一緒にきた侍女だ。とても厳しいが、小さな事でも良く気が付く、心根も優しい乳母だ。


「おはよう、りんだ。いま、めざめたわ」


ゆっくり起き上がり、リンダを見る。


「昨日は祝賀会に参加されてお疲れだったようで。公爵様に抱き上げられて帰ってきた際には、御具合でも悪くされたのかと驚きましたよ」

「しょうだったの?おとうたまにもうちわけないことをちてちまったわ」


レオンの事も夢ではなかったようだが、途中で眠ってしまう様ではレディーとしてはまだまだだ。


「いえいえ、侯爵様は嬉しそうでございましたよ?最近はマリアンヌお嬢様もレディーになられて、抱き上げる機会もないのでと。スキップもしかねない勢いでしたが、まぁ、奥様がそばにいらっしゃったので、渾身の忍耐力で耐えてらっしゃいましたが」


(きっとあとで、おかまたからおこごとだったわね、おとうたま)

しゅんと項垂れる父親の姿を想像して、マリアンヌはふふふと笑った。



リンダに身支度を整えてもらい、食事を摂る為にダイニングへ移動する。ダイニングテーブルにはアンネのみで、ロナルドの姿はなかった。


「おはようございましゅ、おかあたま。おとうたまは、もうおちごとに?」

「おはよう、マリアンヌ。父上様はもう登城されましたよ。昨日は大分疲れたみたいね?楽しかった?」


アンネはもう食事を済ましたようで、紅茶を飲みながらマリアンヌに声をかけてきた。


「はい。はぢめておちろにおぢゃまちまちたが、おにわにたくしゃんのおはながあったり、とてもつてきなところでちた」


レオンの事を話していいのかどうかわからず、マリアンヌは無難な返答を返した。


「マリアンヌ?母と父上様は、マリアンヌの将来の旦那様からご挨拶をいただきましたよ?」

「え?え、え、えーーーー?????おかあたま、ごおぞんぢだったのでしゅか?」


「ふふふふふ。マリアンヌの事で知らないことなど、母はありませんよ、と言いたいところなのですが、レオン様から、母と父上様にご挨拶をいただきましたもの。マリアンヌからプロポーズを受けましたって」


(ひ、ひゃーーーー。あらためてかあたまからいわれると、つごくはずかちい)


真っ赤になってしまったマリアンヌを見て、アンネはコロコロと笑う。


「レディーになったかもと思えば、まだまだ子供ね。ちょっと安心しました。昨日はそれはもうお父様の落ち込みは酷くて、一晩なぐさ......、ごほん、兎に角、レオン様のおっしゃることは間違いないのね?」


アンネも話している途中で赤くなり、なにやら慌てていたが、マリアンヌに確認し、間違いないことを知ると、ホッとした様子を見せた。


「おかあたまは、れおんしゃまのこと、はんたいなのでしゅか?」


自分で口にして、もしそうだと言われたらと、マリアンヌは涙ぐんでしまう。


「そんな事ありません。マリアンヌがビビっと来た方でしょ?そういう運命の方と会ったら、逃がしてはけません。お母様も父上様に会った時にビビっと感じて、それで今があるのですから」


アンネはマリアンヌに力説する。


「レオン様とマリアンヌは年齢が大分違います。レオン様は立派なお方。そのお方の隣に並んでも見劣りしない様な立派なレディーにならねばなりませんよ?」

「はい、おかあたま」


「さしあたってはまずお作法から。侯爵令嬢としてマリアンヌに教育をしてきましたけど、レオン様を望むのであればもう一段階高い礼儀作法を身に着けないといけません。早速今日から始めましょう。母ではどうしても甘くなってしまうので、お作法の先生をお願いしました。お名前はクロフォード先生とおっしゃいます。長く宮廷で作法の先生を務められていた方です。厳しい方ですが、レオン様の為です。頑張りなさいね」


レオン様の為に。そう心に誓って、マリアンヌはレオン様のレディーになる為の道を進み始めた。




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