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「マリアンヌ!?」
「まぁ、マリアンヌ!なぜレオンハイト様が...」
マリアンヌを抱えたまま祝賀会場へ戻ると否でも注目の的になってしまう為、従者に部屋を用意させ、そこにアルドネア侯爵夫妻を呼び寄せさせた。
レオンハイトの腕の中で眠るマリアンヌをみて、夫妻はとても驚いていた。レオンハイトは現国王の弟で、
王子が生まれる前までは次期国王と評されていた人物だからだ。
亡き前王妃に似た美貌と賢王と呼び名の高かった亡き前王に似たレオンハイト。王子が生まれた事によっていずれ臣下に下る事にはなっているが、宮廷の中は色々とキナ臭い情勢になってきていた。
「レオンハイト様、一体なぜマリアンヌがレオンハイト様と?姿が見えなくなって、探していたところだったのですが.....」
真っ青になった侯爵が慌てて尋ねる。
侯爵夫妻に、庭園の奥で迷子になって泣いていたマリアンヌをたまたま見つけたこと、名を尋ねると侯爵家の令嬢と分かったので保護したこと、そして、求婚された事を説明した。
「は、え?え?!レオンハイト様、い、今、なんとおっしゃいましたか?私もなにぶん娘の事で気が動転しておりまして、レオンハイト様のお言葉が耳に入っていなかったのかもしれないのですが、今、きゅ、求婚とおっしゃいましたか?」
宰相として、やり手と噂されているアルドネア侯爵も、愛娘の結婚ともなると辣腕ぶりも片なしだ。
「そう。マリアンヌから熱烈な求婚をしてもらったよ。ビビっと来たので是非嫁になりたいと。なんでも、タイミングが大事とアンネ侯爵夫人に教わったそうだよ」
「まぁ、マリアンヌったら」
恥らうように赤面して扇で顔を隠す侯爵夫人。その婦人の様子をみて、目をキラキラさせているアルドネア侯爵をみて、レオンハイトはやはり親子だなぁと感慨深げに思った。
「ただ、流石にマリアンヌ嬢は3歳。婚姻どころか婚約者としても、まだ早いだろうし」
「そうです、レオンハイト様。わが娘はまだ三歳。とてもとてもレオンハイト様とのお話をいただくような年齢ではありません」
ここぞとばかりに侯爵がしゃしゃり出る。目の中にいれても痛くない愛娘。たった3際で婚約なんてたまったものではない。断固として反対せねばと固く固く心に誓う。
そんな夫の心中など置かまいなく、侯爵夫人はレオンハイトに尋ねる。
「レオンハイト様、マリアンナからの申し出とはいえ、何故応じられるお気持ちになられたのですか?」
「マリアンヌ嬢に、レオンと呼ぶようにと話したら、素敵な名前と褒めてもらってね。亡き母上が、強く気高い人間になる様にと名付けてくれた名前だったから、マリアンヌ嬢との出会いは、きっと何か母上のお導きなのではないかなと思ったんだ」
レオンハイトは懐かしそうに話し、腕の中のマリアンナを優しい目で見つめる。
「わかりました。レオンハイト様がよろしければ、マリアンヌをレオンハイト様の婚約者としてくださいまし」
「ア、アンネ、何を言うんだ!まだマリアンヌは三歳なんだよ?自分が何を言ったかも正しく理解しているかどうか」
「ロナルド様、わたくしは侯爵家令嬢として恥ずかしくない様にマリアンヌを育ててきたつもりです。マリアンヌが望むのであれば、親としては是非願いを叶えてあげるつもりです」
「ア、アンネ、そんな......」
侯爵夫人の言葉に侯爵ががっくと地に手を着き項垂れた。
「アルドネア侯爵、マリアンヌ嬢に自分が大きくなるまで待っていてくれるかと問われたので、待つとは言った。しかし、侯爵が言うように、マリアンヌ嬢はまだ三歳。これから色々な体験をしていくうちに、今の気持ちが替わっていく可能性もある。そうなった場合に、マリアンヌ嬢が困らない様に婚約自体はマリアンヌ嬢が13歳になるまでは内密にしておくのではどうか?」
ラインハルトがアルドネア侯爵に打診する。
「正直、いま、私が宰相であるそなたのマリアンヌ嬢と婚約する事で、義姉上を刺激したくはないのだ」
優秀な王弟と5年経っても子を身籠れない王妃。側室の話もでていたのを王が拒否するなど、王と王妃は相思相愛な関係だった。それでも、子ができなければレオンハイトが次の国王。そうなれば自分の居場所が王宮にはないと精神的に追い詰められていく王妃。努力の甲斐あってようやく王子を授かったのだ。
今、レオンハイトが宰相の娘と婚約などすれば、王位を狙っっているのではとますます王妃を疑心暗鬼にさせてしまう。それを避ける為にも、マリアンヌとの婚約の事は、レオンハイトと兄である王、アルドネア侯爵夫妻だけの秘密とした。マリアン嬢が十三歳になるまで婚約の事は公にはしない、マリアンヌ嬢に心から慕う男性があらわれた場合は速やかに婚約は解消とする と約束を交わして。
ただ、侯爵夫人からレオンハイトに一つ提案があった。マリアンヌの誕生日と王子の誕生祝賀会には2人の時間を設ける事。王妃を刺激しないためにも、公の場で交流を持つ機会をもうけ、マリアンヌのレオンハイトを思う気持ちを大事にして欲しいとの願いだった。