第7話 原動力
陸は珍しく担任の先生から褒められていた。模試の合格判定がBまで上がったのだ。
「本橋、この調子だ。現役はここから伸びるからな。自信を持って臨め」
先生に励まされるなんて初めてだ。陸は却って調子が狂った。先生は陸の目を覗き込む。
「しかし、本橋は何だって急に静水を希望したんだ?」
うわ、そこ突いて来るか…。言えねぇよ。陸の気持ちはじわっと後退する。
「ははん。さてはカノジョが静水受けるとか、そんな理由か?」
陸は沈黙してしまった。沈黙は金…ってこの場合はどうなんだ。
「図星だろ」
先生は笑った。
「咎めてるんじゃないよ。そう言うのがな、男の最大のパワーを引き出すんだよ。いいことだ」
先生は陸の肩をポンと叩いて行ってしまった。若干違うけど、弁解するほどの違いはない。奏さんが彼女って…。
いやいやいやいや・・・
年上だし、そもそも苗字すら知らんのだ。つまり今んところ、勝算はゼロだ。
「帰ろ」
陸は声に出して席を立った。そうでもしないと自分でも自分が恥ずかしく、居たたまれなくなる。一人で赤面しながら陸は家路を急いだ。
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家に帰った陸は、模試の結果シートをコザクラの前に翳した。
「ほれ見ろよ。やっとここまで来たぜ。これからまだ伸びるってさ。おまえと一緒だな」
葉っぱを落としたコザクラは何も答えない。
「奏さんのこと、おまえも覚えてるよな。奏さんが僕の彼女って、やっぱ変だよな。あり得ないよな」
陸は鉢植えの前でぶつくさ繰り返す。
「あり得ないんだけどな、でもそのためなら頑張れる。先生の言った通りだよ。なんか悔しいけど」
言い残して自室に入ってゆく陸を、コザクラはじっと見送った。
すぐに陸の部屋の灯りがつき、そして机のスタンドが点灯するのがカーテン越しに見えた。