第5話 志望校
幸い、陸の母親は植物が好きで、何かと手伝ってくれた。
しかし…、陸は考えた。
奏さんはコザクラが無くなったことに気が付いたとしても、僕が育ててることには気が付きようがない。知らせてあげたいけど連絡手段がない。1日中、静水大学の入口で待ち伏せする位しか思いつかない。しかし大学には警備員がいるのだ。模試を大学会場で受けた時に目撃している。ストーカーと思われるわな、フツーは。
陸は悩んだ。
その間にも時間は経過する。陸も受験生だ。そうそう暇なわけではない。教壇で先生が叫んでいる。
「えー、来週出してもらう進路調査票な、6月の校内模試で、ある程度判定するからな。よく考えて書けよ」
そうだ。志望校も考えなきゃいけない。4月早々に厚かましいと言われたのだ。今度はそうは言わせねぇ。こっちも悩ましいわ。
え?
突然陸は思いついた。奏さんに会う方法。コロンブスの卵ってこの事か?
簡単じゃないか。
僕が静水大学に入ればいいんだ。
現実は解っている。厚かましいにも程がある。しかし、先人は言ったではないか。
『為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり』
えー誰だっけか、これ言ったの。そこからだ…。
その日、帰りがけに書店に立ち寄った陸は、静水大学の赤本を購入し、自室の机に立てた。
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進路調査票を見た担任の先生は、案の定、目を剝いた。
「本橋、おまえ、正気か?」
「はい。極めて正気であります」
「4月の模試の結果なら、箸にも棒にもかからん話だぞ」
「重々承知しております。これから追い込みます」
「ま、実際に決めるまでには半年あるけどな、静水は科目が多いから、ちゃんと計画立てて一つずつ潰していけよ」
ふう、取り敢えず却下はされなかった。それから陸は頑張った。毎日の生活は桜の世話と勉強のみになった。そして気が付いた。
僕もこのコザクラが励みになっている。奏さんと同じだ。陸はしげしげと鉢植えのコザクラを見た。
おまえ、すごい奴だな。そんなにひょろっとちっこいのに、おまえを支えにしている高校生、二人目なんだぞ。
陸はそっと葉っぱに触れた。もしかしたら奏さんもこうやって葉っぱに触れていたかも知れない。
「覚えてるかい? 奏さんのこと」
陸はコザクラに話しかけた。