第3話 伐採
翌週から作業服の人が測量を始めた。そして重機やトラックがやって来て、林の木々の伐採が始まった。
木はチェーンソーで切り倒され、その場でカットしてトラックに積み込まれる。その様子を飽きもせず麻美は眺めた。作業は朝9時きっかりに始まり、お昼の12時には一旦終わる。作業している人たちは、林の中やトラックの中でお弁当を食べているようだ。残った時間はヘルメットで顔を隠して昼寝タイム。
「あんな風に寝て、お腹冷やさないのかしらね」
食堂で佐藤さんとお昼ご飯を頂きながら、麻美は言った。
「慣れてるから大丈夫でしょ。お昼寝しないと身体が持たないのよきっと」
佐藤さんは指摘する。きっと本当にそうなのだと麻美は思う。外で働くって大変だもの。
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雨の日も作業は続いた。
「息子の嫁さんが言うにはね、ああいう工事のスケジュールってとても厳格なんだって。1日でも遅れると余計なお金かかっちゃうから怒られるんだって。ほら、息子の嫁さんって建設会社のOLだったから詳しいのよ。雨なんて言い訳にならないってさ」
佐藤さんは、受け売りトークをまた披露する。しかし麻美は心配になった。
「身体、冷えちゃうわね。着替えはあるのかしらね」
「どうでしょうねえ。あったとしても着替える場所がないわね」
「でもほら、あそこにプレハブの小屋があるでしょ。あそこで着替えられるわよ」
「そうねえ、やっぱり基地がないとワクワクしないわね」
麻美には佐藤さんが言う事が判りかねた。でもきっと男の人にとって基地はワクワクするもので、佐藤さんにはその気持ちが判るんだ。私は遂に結婚しなかったから男の人の日常はさっぱり判らない。
麻美の思考は飛躍する。
そうそう、ここのお庭の手入れをしている男の人、もう随分高齢に見えるけど、どこかでお会いした気がする。前に働いていた時にお見掛けでもしたのかしらね。ここに来て、初めてお会いした時に『あれっ?』って思ったんだけど、次の瞬間には流れてしまい、それきりになってしまった。こう言うのを『デシャヴ』って言うのよ。きっともう戻っては来ないわね。
作業は毎日、夕方の5時にはきっちりと終了した。重機の音が止んで急に辺りが静かになる。作業を眺める空だってほっとしている気がする。
そして作業の車が去ってゆくと、カラスたちが帰って来る。少しずつ減ってゆく木々に帰って来るのだ。あの中には、その日、自分のお家が消えてしまった子だっているだろう。焦るに違いない。残っているお家にお邪魔して寝るのだろうか。可哀想に…。
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日中、グォーーン、ブゥーーン、ガガガ、キーェンキーェンと響く音とともに裸になってゆく林を見ながら、麻美は届いた草花を編み続けた。




