第2話 林のカラス
食堂の席は毎日同じである。決まっているわけではないのだが、入居者の中には気の合う人とそうでもない人がいるから、自ずと気が合う人同士が同じテーブルになる。
その日も大きな窓に面したいつもの席にはいつもの人がいた。年齢も同じくらいの女性だ。佐藤さんだったような…、あれ、山田さんだっけ? 麻美は焦りを隠しながらテーブルに近づく。律儀にも麻美を待ってくれている。
「ごめんなさいね、お待たせして」
「いいえ、ここは眺めがいいからちっとも退屈しないわよ」
その佐藤さんだか山田さんだかの部屋は庭園と反対側。窓からは駐車場と住宅地が見えるだけで、少し気の毒だ。麻美が席に着くと、彼女はさっそく外を指さした。
「ほら。カラスがたくさん集まってるのよ。さっきから次々に飛んできて」
「そうね、カラスって時々集まるのよね」
「集会かしらね」
ん?カラス?
何かカラスについて思い出があったんだけど、さっきふと脳裏を横切ったんだけど…流れて行ってしまった。
ああ、もう情けないな。でも、私は毎日見ているから知っているのよ。
「今日は集会かも知れませんけどね、きっとあそこにカラスのお家があるんですよ」
「あらそう」
「毎日、夕方にはあちこちから帰って来るから、きっとそうなのよ」
「じゃあ、今日は親戚の集まりかしらね」
「きっと子だくさんで賑やかなんでしょうね」
食堂職員の人が、御御御付とご飯を配膳してくれる。
「お代わりも仰ってくださいね。あ、佐藤さんはお茶を温かいのに入れ替えますね」
「はい。ありがとう。いつもすみません」
そうそう、やっぱり佐藤さんだ。麻美は心の中で小さくガッツポーズをする。
お椀を持ちながら、その佐藤さんが言った。
「でもあの林、無くなっちゃうんだって」
「え?」
麻美は聞き直した。無くなるって?
「ほら、住宅地にするとかで伐採して造成するんだって。今日、息子の嫁さんが来て言ってたのよ」
「あらあら」
あの林が無くなるのか。まあ私の生活には関係ないけど。
「だからしばらく騒音がすごいと思うわよ。工藤さんのお部屋、こちら側でしょ?」
「ええ、ええ」
「ほら、ブルドーザーとかがガァーってやると思うのよ」
「そうなの」
「しばらくは辛抱ね。でもその嫁さんが言うには、山じゃないから案外早いよって。すぐに家が建っちゃうって」
「あらそう。じゃ、カラスも引越しね」
「そうねえ、タケノコも無くなっちゃう」
「タケノコ?」
「ここの施設の名前ね、タケノコがいっぱい生えてたから『たけのこ荘』になったってよ」
「あら、そうだったの。年寄りが集まる場所にしては若々しいなと思ってたけど」
「工藤さんは最近来られたからご存知ないのね。古い人はみんな知ってるわよ」
じゃあここら辺も、元々カラスのお家だったのかな。
麻美はカラスに少々申し訳ない気持ちになった。




