第7話 再会
「もしかして、結ちゃん?」
え?? 今度は結が驚いた。
「は、はい。え?」
「やっぱり。私、覚えてる。そっか。面影残ってるよ、ちっちゃい頃の」
「えー?」
瑠菜ははっきり覚えていた。ずーっと前、まだこの店の学生バイトだった頃、一人でカーネーションを買いに来た小さな女の子。
「幼稚園くらいの頃、結ちゃん一人でここにカーネーション買いに来たよね。その時、私が相手したのよ。幼稚園でお友達に結ちゃんちは白いカーネーションだって言われて、結ちゃん納得できなくて、それで結局ピンクのにしたのよ。私、はっきり覚えてる。そうか、こんなに大きくなってるのね」
結の記憶は曖昧だった。ここに来たのか。ピンクのカーネーションは『感謝』だって覚えたのはここだったのか。
「私ははっきり覚えていないんですけど、多分それ私です」
「あれから、お父さんが毎年ピンクのカーネーションを買って下さるのよ。そうか、あの結ちゃんだったか…」
瑠菜は腕まくりの恰好をした。
「私、伊藤瑠菜って言うから、またよろしくね。どーんと相談に乗るよ、お花のコーデ」
「瑠菜さん…。でも、あんまりいい相談じゃないし」
「なんで?」
「あの、新しいお母さんが来るからって」
「ほぉ、お父さんが再婚するってこと?」
「はい。今日、初めて会うんです」
「それで飾りつけみたいな感じ? 歓迎って言う感じのお花ね」
「うーん」
瑠菜は結から微妙な空気を感じ取った。結は目を逸らし、重そうに口を開いた。
「そんなに明るいのでなくていいです」
「そう…」
結は周囲をぐるりと見渡して、ひとつの桶に近づいた。
「これを下さい。5本ほど」
瑠菜はちょっと躊躇った。結が指したのはアザミ。棘のある花で、その様相の通り、花言葉は『触らないで』もしくは『報復』。歓迎の花とは程遠い。
「それさ、棘あるから気を付けて扱わないと怪我するよ」
「いいです。気を付けます」
ま、お客様のリクエストだから仕方ないか。
更に結は別の桶に入っている小ぶりの花も指さした。
「すみません、これも、丁度さっきのをぐるっと囲める位ください」
「えーと、その量だと花瓶2つぶん位になるけど、ある?」
「はい。あると思います」
結が2番目に選んだのはロベリア。切り花より寄せ植えの方が似合う可憐な草花サイズの花だ。
しかし…、瑠菜は思った。
この子、こういうのを見極める才能があるのかな。だってロベリアの花言葉は、アザミよりきつい『嫌い・悪意』なんだから。
「組み合わせはそれでいいのかな。色合いが濃いけどね。可愛いと言えば可愛いけど」
「いいです。なんかこの子たちに、買って! って呼ばれてる気がして」
「ふうん」
仕方なく瑠菜はアザミとロベリアを組み合わせた花束を2つ作った。新しいお母さんが気付かなきゃいいけど。




