平民な俺がお嬢様の破滅フラグを折る100の魔法
この世界に神などいない。いるとしたら意地の悪い悪魔だ。
なんで知っているかって、そんなの会ったことがあるからに決まっている。
俺の中の忌ま忌ましい記憶の一つだ。確か……十八年くらい前だったと思う。神々しい光をまとった老人が気付いたら目の前にいた。老人は俺を見ると、俺が死んでしまったとゆっくりと話した。
死んだ記憶もない。俺の最後の記憶は布団に入る記憶だったこともあり、そうかおかしな夢だなって思ったいたし、何なら今も思っている。夢ならもっと綺麗な……ではなかったな。話を戻そう。俺を見るとあの忌ま忌ましい悪魔は続けて言った。
「次はどんな世が良いか?」
「俺は平穏に暮らせれば良い」
なんだかんだで前世は気に入っていた。平日は適度に働いて休みの日はゲームをして気ままに過ごす。
「そんな遠慮などせずに。勇者にだってなれるぞ。ほら、よくおぬしは生きた死人と戦って」
生きた死人と呼ぶのはきっと前世でやっていたゾンビゲームの事だろう。マシンガンでゾンビの頭を吹き飛ばす勇者なんて聞いた事がない。魔王の方が良いんじゃないか?
「そうか。ちと変わっているのう。魔王のが良いか? 世界を吹き飛ばす魔法ならいくつかあるぞ」
おい。ちょっとまて、そんな力をほいほい渡すな。そして俺の話をちゃんと聞け。
「ちょっとまて、勇者を倒す趣味もない。あんたは俺に何をさせたいんだ」
「そうだね。そんなの決まっているではないか」
目の前の老人は厭らしく笑った。神々しい光は一気に暗くなる。
「……約束したんだ。最終兵器を用意するって」
目の前の老人が突然少年のような声で言った。
「最終兵器?」
「うん。そしたらキミの力はボクのおすすめにしよう。良い話を期待しているよ。ボクのために頑張ってね。××……いや、ヴィダルくん」
待て、悪魔。ふざける
「おぎゃーーーー」
その瞬間、突然言葉が出なくなった。
しかも俺の視界には見覚えのない天井。しゃべりたくても出てくるのはおぎゃあと言う鳴き声だった。違う。俺は泣きたいんじゃない。理不尽な悪魔に憂いてはいるが、泣いてはいない。
俺の目の前で女性が困っているが、それどころではない。『悪魔! 出てこい!』それが生まれ変わって初めて心の中で話した言葉だった。
そう。俺は悪魔に勝手に転生させられた。
転生後の新しい人生はいかに目立たないかを徹底した。
この世界は魔法に魅入られた人間は国のために命をかけなければいけないそうだ。
知っていたというよりも知っている。あの悪魔がよこした知識のせいだ。俺の頭の中には普通の人間には考えられないくらいにおかしい量の知識があった。だからといって頭の回転は前世から変わっていない。頭の中にアシスタント機能が付属されているような物だ。
他にも運動能力に魔法の才能。あるだけ全部盛り込みやがった。きっと今ならこの世界を吹き飛ばせる。試したくはないが、きっと出来る。自惚れているわけではない、あの悪魔ならやりそうだ。俺の体をメチャクチャにしやがって。責任は……取って欲しくない。
俺の体は何でも出来る。だからといって何かをしなければいけないわけではない。ってことで平穏に暮らしたい俺は平凡な人生を選ぶことにした。ありがたいことに魔力を計測する方法は確立されていないようだ。おれは平民。立場なんて厄介なものもない。うっかり魔法を発動させない限りはオレは平凡な人生を過ごせるはずだった。
そうはずだったのだが、俺はうっかりと魔法を発動してしまった。魔女っ子のお約束というヤツだ。それは十年前。目の前でウェディングドレスを着ているお嬢さんに向けて使った魔法だった。
それは俺と彼女と最初にであった日のことだ。その日のお嬢さんはみすぼらしい格好をしていた。
***
俺の視界にとても怪しい子供が目に入った。何か探しているようでとてつもなく怪しい。
オッケー。俺の頭。目の前のお嬢さんについて。俺はすぐに頭の中でそう呟いた。頭の中に情報が広がる。
”イェリン・ヴァルゴーダ 八歳。ヴァルゴーダ領の次女“
ヴァルゴーダ領? ……もしかしてここ? ですよね~。頭の中で整理しながら目の前のお嬢さんを見る。なんでそんなお嬢サマが一人でここにいるんだ? よく見ると小汚く見せているが良い布を使っているのがわかる。これいくらくらいだ? 俺の服二十着くらいか。このお嬢さんは詰めが甘いな。
ってか護衛を一人もつけずに歩いているなんて、絶対ワケアリじゃん。ここで関わるべきか? 彼女に声をかけたら、俺の平穏な生活は終わる。だがここで見捨てて死んだりされても後味が悪い。
仕方ない。ため息をつくと彼女の元へ向かった。
「二十着分と言うところかな」
「今度はもっと勉強してくるね」
すれ違う時に独り言のように呟くとお嬢さんは知っている。そんなニュアンスを含めて俺の独り言に返した。
そのままちらりとお嬢さんを見る。彼女は僅かには驚いているようだが小さく微笑んでいた。八歳と言う割には大人びているな。
少し試してみるか。
「ねえ。気分が悪そうだけど大丈夫? そこに腰かけて休んだらどうだ?」
「ええ。そうさせて貰うわ」
俺はそれとなく近くに落ちていた瓦礫に座った。お嬢さんは俺に続き隣に座る。高貴な身分のはずだが、その動きに戸惑いはなかった。やはりワケアリのようだ。俺はそのまま小さな声で話しかけた。
「お忍びか? 護衛は?」
「いないわ」
「ここは平和とは言え、お嬢さん一人は危ないよ」
「仕方ないの。信頼出来る人がいないから」
あっけらかんと言った。このお嬢さんは肝が据わっている。こんな所に一人で来ているしな。
「へえ。俺に言って良いの?」
「ええ。あなたは信頼出来そう」
「そんな簡単に信頼しちゃダメだよ。って俺も人のこと言えないケド。そうだ。せっかくの縁だし、相談事があれば乗るよ。俺に叶えられる範囲だけど」
さりげなく予防線を張った。世界の半分を目の前のお嬢さんに渡すくらいの力はあるが、それは俺の倫理が許さない。何でも出来るからといって、何かをしなければいけないわけではない。それはこの世界での俺の座右の銘だ。
「……人を探しているの?」
「人?」
「わからないけど、凄い人」
俺の頭ならわかるだろう。これは楽勝だな。俺に任せておけ。にやりと笑うとお嬢さんへ声をかけた。
「へぇ、どんな人?」
「そうね。生きた死人の頭を奇妙な道具でかち割る人」
わからないがやばいヤツというのはわかる。このお嬢さん魔物でも倒しにいくのか? まあいい。俺の頭に心当たりがないか聞く。答えは『この世界には存在しない技術です』おい。どう言うことだ悪魔。これは聞いていないぞ。きっとセーフサーチでも働いたのだろう。俺は未成年だし仕方ない。
「やばいヤツだな。オレは目すらあわせたくない」
「私も。だけどこのままだと。王子様に殺されちゃうから」
お嬢さんは可愛らしく言いながらふわりと笑った。表情と言葉が一致していない。俺の頭が優秀じゃなければ聞き間違えたかと思う程だった。
「殺される? 穏やかじゃないな」
「そうね。この言葉を聞いてあなたはどう思う?」
「まずは事情かな。君、嘘をついていないでしょ」
俺の頭(の中)を舐めないで欲しい。目の前のお嬢さんが嘘をついていないかわかる。わかるって言うか俺の頭が教えてくれる。
「このままだと王子様の婚約者候補になりそうで」
「あぁ、人生の墓場ってヤツか」
「違うの。本当の墓場につれて行かれちゃうの。恋敵が強すぎて」
「そんなこと言って良いのか?」
「あら、さっき言ったじゃない。あなたは信頼出来そうって」
お嬢さんがクスクスと笑った。このお嬢さん以外と良い性格をしているようだ。
「そうだな。で、仲間探しか」
「うん」
「俺はそんなヤバいヤツじゃないけど、まずは俺から仲間にしてみたらどうだ?」
「あなたを?」
「あぁ。俺。こう見えて物知りなんだ。後」
『魔法を使える』お嬢さんの頭の中に直接話しかける。それがお嬢さんのために使った初めての魔法だった。
俺の魔法にお嬢さんは驚いたが、ゆっくりと瞬きをして小さく笑った。
「内緒だよ」
「ええ。内緒にしないとあなたを王子様に取られてしまいそうだわ」
「おいおい。男は好みじゃないぞ」
「もしかしたら可愛い男爵令嬢が誘惑してくるかもしれないわ」
まるで未来でも見てきたようだ。俺と同じ転生者ってことか。違う? 死に戻り? ああ。コンテニューか。さすが俺の頭だな。
「未来でも見えているみたいだな。恐ろしいな」
「そんな凄いものではないわ。それにあなたの方が恐ろしいわよ」
「いや、俺はただの平民だ。遊戯が好きな」
遊戯の一言で思い出す。奇妙な道具ってもしかして? 「うん、マシンガンだよ。面白くなったね」いつもの情報ではなく、俺の頭の中に悪魔の声が流れてきた気がするが知らないふりをした。
***
それから俺はお嬢さんと共闘し、お嬢さんの恋敵の男爵令嬢。ではなく彼女に取り憑いた悪魔を討伐した。そして無事ハッピーエンドだ。
優しい王子様がご褒美をくれるなんて言ってくれたので、俺はとても綺麗な宝石をねだった。
それは王子様にとっても大切なものだったらしく、渋い表情をしながらも了承してくれた。
先ほどから俺に贈られる視線は矢のように痛い。なんて結婚祝いだ。お返しにバームクーヘンでも贈ってやろう。
「どうしたの? 悪い顔をしているわよ」
白いドレスに身を包んだお嬢さんがクスクスと笑った。悪い顔はどちらだ。悪役令嬢サマ。
「昔のことを考えていただけだ。どうやら俺と一緒でもゴールは人生の墓場だったようだな」
「スタートよ。あなたとなら地獄でも楽しそうね」
引き金を引く真似をしてお嬢さんが言った。このお嬢さんは俺が作ったMKを自分の手のように使いこなしていた。
「……もう俺はこりごりだ」
「ふふ。生きた死人の頭を奇妙な道具でかち割っているあなたは格好良かったわよ」
それはどちらだと言いたくなる。このお嬢さんの腕前はそこらのゲーマーが束になってもかなわない。二回目補正だ。何て言っていたが、それだけではないだろう。
「そのセリフ。俺が気が狂っているヤツにしか聞こえないぞ」
「誉めているのに」
「もう少し格好良く言ってくれ。これから夫になる男だ」
「あら。王子様みたいって言われても嬉しくないでしょ?」
「皮肉がお上手なお嬢さんだこと」
「私もこれから嫁になる女よ。可愛いの一言くらい言ってくれても良いのよ? それに私の皮肉は一緒にいてくれた私の王子様のおかげなの。生き遅れないように責任を取って貰う予定よ」
「俺もこんな舞台に祭り上げられた責任を取って貰う予定だ」
全くお嬢さんに皮肉を教えたのはどこのどいつだ。
だがそんな彼女が好きだなんて思ってしまったので、俺は彼女に相当惚れ込んでいると思う。恥ずかしくて視線をそらすと彼女が俺の名前を呼んだ。
「ん? なんだ」
「ヴィダルくん。……私を助けてくれてありがとう」
「エリ。気が早い。天国に行くときに言ってくれ」
こんなことで喜んでくれるなんて。やれやれ。最後まで詰めが甘いお嬢さんだ。




