第一章 ツンデレって何だ⁈【4】
夜になると、昼間は閑散としていたロビンの店もかなり活気付いていた。
「ちょっと!カイン君!ちゃんとオーダー取ってきてよ!」
ゲンナリとした表情のカインの横で、ふわふわの白髪を後ろに結んだ可愛いらしいウサ耳の子は、テキパキと働いている。
「……まさかなぁ、あの白ウサギが…」
カインは口元に手を当てながら、横目で姿を追う。
ぴょんぴょんと跳ねるようなリズムで軽快に歩く、その子は正しく昼間の白ウサギだった。
「……てか、ロビン!お前、昼間こいつの事、看板娘って言わなかったか?」
カインはカウンターでグラスを磨いていたロビンに詰め寄った。ロビンは眼鏡越しでもわかるくらいに、目を細めてニヤッとした。
「はいはい〜、可愛いでしょう?もう、目当てのお客さんで儲かるのなんのって…」
「そういう事じゃーねぇよ!」
「こいつ、男じゃねーかっ!!」
カインは指差しながら、睨み付けた。
「あー。人の事は指差ししちゃダメなんだよぉ」
白髪ウサギのイデスはプンプンと怒りながら、カインに詰め寄って来た。
「僕女の子なんて一言も言ってないでしょ?」
そう言って大きな琥珀色の瞳に至近距離で覗き込まれ、カインは耳まで真っ赤に染まった。
「ち、近づくなっ!この男女…っ」
「わーん、ロビン〜!カイン君が僕のこと虐めるよぉ」
イデスはわざとらしく、瞳を潤ませてロビンに駆け寄った。
「はいはい、イデスちゃんもカイン君も仲良くしましょうね〜」
ロビンはそう微笑えみながら仲裁すると、お客さんに呼ばれたのか、そそくさとその場を立ち去っていった。
(あ〜もう、こいつと一緒だと身がもたない)
カインは、付けていたサロンを脱ぎバサっと椅子に掛け、
「俺、先に上がるわ」
そうイデスにぶっきらぼうに告げると、重い身体を引きずって二階へと階段を上がって行った。
キシキシと二階への木製階段を上り、
二階の一番奥の角部屋が今日からカインに割り当てられた部屋だ。普段はきっと客室なのだろう。
カインは自分のベッドに身体を沈めながら、今日起きた事を思い出した……。
「とりあえずカイン君。暫くの間、此処に留まって、情報収集してはどうですか?」
ロビンからそう提案され、カインは内心ほっ、としていた。
「……いいのかよ」
「これも何かの縁ですからね〜」
ロビンは眼鏡の奥で目を細めながら、カインを見つめる。
「その代わり、宿代分はきっちり働いてもらいますよっ」
「カイン君は、中々のイケメン君ですからねぇ、新規のお客さんが沢山来ますよ〜」
ほくほくと笑うロビンを見て、カインは、ははっ、と声を出して笑った。此処に来て、初めて心から安堵しての笑顔だった。
「おや、そんな顔も出来るんじゃないですか〜」
ロビンに不意に指摘され、カインは恥ずかしさの余り、素っ気なく横を向いた。
(そしてその後、二階のこの部屋に案内されたんだよな)
通されたのは質素だが、きちんと掃除の行き届いた小綺麗な部屋で、カインは直ぐに気に入った。
(さーて、まずは早速明日から城に関する情報を片っ端から漁るとするか)
そんな事を考えているうちに、いつの間にかカインの瞼は閉じていく。
こうして、カインのアイシスでの新生活が始まったのだった。