怪しい占い師からもらった『好きな相手とキスできる魔法のチケット』をコピーで増やして仲の良い女の子3人に使ってみた。
こんな恋愛してみたい!
「おはよっ!孝之!」
俺は高校2年生の木戸孝之。
「恋人居ない歴イコール年齢だが、こうやって毎朝可愛い幼馴染が一緒に学校に行ってくれるだけでも幸せだ」
「ちょっと!そのモノローグ癖やめてよ!恥ずかしいじゃないの!」
「あっ、ごめん」
こうやって思っていたことを口に出すのが俺の悪いくせだ。
「でも可愛い幼馴染か…」
「そう呟いて顔を赤らめる同級生の三宅茜が愛らしくて、思わず手をつなぎたくなる」
「ちょ、ちょっと!恋人じゃないんだから手とかつながないからね!で、でも、まあ、その、ちょっとくらいなら」
「孝之くん、おはよう」
向こうから歩いてきたのは3年生の先輩、栗原奈々さんだ。
「その艶やかな長い黒髪は人の目を引き付ける美しさで、思わず撫でたくなるほどだ」
「そ、そう?少しくらいなら触ってもいいけど…」
「もう!孝之ったら!誰にでもそういうこと言うんだから!」
「ごめん、キモいよね。だから恋人出来ないんだよな」
「できない理由ってそういうことじゃないと思うんだけど」
しばらく行くともう一人合流する。
後輩の鈴川きらりちゃんだ。
「孝之先輩!おはようございますっ!」
「スポーツ万能の彼女は朝から元気よく挨拶してくれて、その笑顔で今日も一日頑張ろうって気にさせてらもえる」
「もう先輩ったらあ。そんなに褒めても何も出ませんよ!あっ、でも今日はこれが出ます!」
きらりちゃんは小さな袋を俺に渡してくれた。
「何これ?」
「お弁当です!」
「うそっ?!どうして?」
「なんとなく作らないといけないなって思って」
まさか『魔法のチケット』の効果が本物だったなんて。
「あんな怪しい占い師信用していなかったのにな」
「え?占い師?」
「あ、ごめん。何でもないから」
俺に『魔法のチケット』をくれた占い師。
彼女との出会いは昨日の放課後だった。
放課後の帰り道。
いつもなら先ほどの3人のうち誰かと一緒に帰るのだけど、3人は先に帰ってしまい、珍しく一人で帰宅していた。
すると路上に移動クレープ屋さんの車みたいなのが止まっていた。
何かおいしそうなものでも売っているのかと思ってのぞき込むと、『占い』と書いてあった。
「移動占い師って初めてだな」
「いらっしゃい」
車から顔を出して話しかけてきたのはフードを目深にかぶった女性だった。
「口元しか見えないけど、それだけでもこの女性が綺麗な人ってわかるほどだ」
「奈々が言ってたのって、こういうことなのね…」
「え?」
「何でもないわ。それより占いしていかない?あなたに女難の相が出てるから」
女難の相?
「あなた、複数の女性が近くに居るわよね?」
「あ、占いとかいいですから。そう言って俺は怪しい占い師の元を去った」
「怪しくないわよ!あなた、先輩と同級生と後輩の3人と仲がいいわよね?」
「どうしてわかるんです?」
「そのくらいまでなら見ただけでわかるのよ。でも詳しく知りたいなら中に入りなさい」
うさんくさいと思いつつも、気になったので車の後ろから中に入ると、ごく狭いスペースに机と椅子が置いてあった。
「窓は光を通さないようになっており、薄暗い感じが占いの館らしい雰囲気を出している」
「そうかしら?」
「それで、女難の相って言うのは?」
「まず手相ね。見せてみなさい」
俺は手を差し出すと、占い師のお姉さんは俺の手をじっと見つめる。
「細くてきれいな指が手のひらの線を撫でるたびにドキドキしてしまう」
「集中できないので独り言やめてくれないかしら?」
「ごめんなさい。これ癖なので」
「…あなたの周りに居る3人の女性は同じ学校の先輩、同級生、後輩ね」
「はい」
「名前を書いてもらえる?」
俺は彼女たちの名前を書いた。
「この子が先輩、この子が同級生、この子が後輩ね」
「そうです!」
適当な順番で書いたのにわかるってすごい!
もしかして『本物』の占い師さん?
「3人ともあなたに好意を持っているわね」
「本当?!」
そうだったら嬉しいな。
「嬉しいけど、誰かなんて選べないなあ」
「嬉しいのね?」
「あっ、うん。だって3人とも綺麗だし、可愛いし、元気だし」
がたっ
車の奥で何か物音がした。
「あれ?」
「ああ、運転手さんよ。この壁の向こうの運転席に居るけどプライバシーは守っているから気にしないで」
「それで、3人ともすごく仲良くしてるから…もし一人を選んでとか言われると困るなあ」
「それならこれをあげるわ」
目の前に出されたのは1枚の紙。
「それは魔法陣やら星やら記号やら書かれた不思議な感じのするものだった」
「うん、そうよね。これは不思議なだけじゃなくて、『魔法のチケット』なの」
「え?魔法?」
「ここに書いたことが実現するのよ」
「うそ!」
そんなすごいものがあるの?!
「その代わりかなり限定的な使い方しかできないわ」
「限定的?」
「あなたに好意を持っている女性相手になら使えるの。そうね、例えばこうしましょうか」
占い師さんはすらすらとチケットに書き始めた。
『 にお弁当を作ってきてほしい』
「あとは名前を書くだけね。さっきの3人のうち、誰にする?」
手作りのお弁当か…。
そういえばきらりちゃんは料理が得意って言ってたよな。
「じゃあ『鈴川きらり』と」
がたたっ
「あれ?また物音が?」
「きっと運転手さんが寝返り打ったのよ。待っている間暇で寝ているのよね」
そうなんだ。
「あとはどうするの?」
「こちらで儀式をしておくので、近日中に結果が出るわ」
「そうなの?」
やっぱりちょっとうさんくさいな。
「今日はお金要らないから、お弁当を作ってもらえたらまた占いに来て」
「え?いいの?」
というわけでその日は無料で占なってもらえた。
なんてことがあったのだけど、まさか翌日にきらりちゃんの手作り弁当が食べられるなんて!
「それでね先輩。今日はせっかくお弁当作ってきたから、いつもみたいに4人じゃなくて、二人っきりで食べたいなって…」
「え?でも?」
「別に私はいいわ。ね、茜。たまには二人で食べるといいわ」
「奈々先輩の言うとおりよ。私たちも二人で食べるから」
「じゃあ、今日は俺ときらりちゃんの二人で」
「はいっ!」
すごく嬉しそうだな。
「俺はきらりちゃんの弁当が今から楽しみでならなかった」
「はいっ!すごいですよ!」
お昼休み。
きらりちゃんのお弁当は最高だった。
「すごくおいしいよ!」
「本当ですか?嬉しい!」
「うん、きらりちゃんはいいお嫁さんになれるよ」
「それよりも先に恋人になりたいなって」
「大丈夫。きらりちゃんなら誰だって落とせるよ」
「そうでもないんだなあ」
きらりちゃんはふと表情を曇らせた。
「いつも元気なきらりちゃんが表情を曇らせるとこっちまで心配になってくる。やっぱりきらりちゃんは笑顔が最大の魅力だからだ」
「せ、先輩っ!他の人に聞こえます!そういうのは…私だけに聞こえるように言ってください」
放課後。
また3人は先に帰ってしまったので、俺は一人で帰宅する。
するとまた同じところに占い師の車があった。
「こんにちは」
「どうだった?」
「お弁当作ってもらえました!」
「それは良かったわね」
俺は占い師の車に入って再び占いをしてもらう。
というか、いきなり魔法のチケットを出された。
「また使ってみない?」
「いいんですか?そういえば今回から有料なんですよね?」
「500円ね」
「やすっ!」
「実はモニターをしてもらいたいからなのよ。どのくらい効くのか試す意味もあるのよね」
「お弁当は本当に作ってもらえましたよ」
「それなら今度はこれでどう?」
『 に膝枕してもらう』
おお!そんな願いまで叶うのか!
「でも膝枕と言えばやっぱり包容力のある先輩かな」
「そうなの?」
「優しくて、暖かで、春の日差しのような方なんです」
がたっと奥で物音がする。
あれ?また運転手さんが寝返り打ったのかな?
「それに膝枕してもらえれば、先輩の大きな胸が顔に乗ったりしそうで」
ガタタタタッ
あれ?寝返り激しいんだな。
「欲望が漏れているわよ」
「すみません。つい」
「ついじゃないわよ。その独り言せいで3人とも君の事を…まあいいわ。じゃあその先輩の名前を書いてね」
チケットに栗原奈々と書く。
「楽しみにしていてね」
「そう言うとスタイルのすごくいい魅力的な占い師さんは笑顔で俺を見送ってくれた」
「うわあ…やっぱり独り言すごいわねえ。悪い気はしないけど」
翌日。
「孝之くん、ちょっと手伝ってくれるかな?」
奈々先輩は生徒会の副会長をしていて、時々手伝いをさせられている。
「させられるといっても美人の先輩の役に立てるのならと喜んでやっているのだった」
「そう?嬉しいわ。じゃあ、あとでご褒美あげるわね」
ご褒美?何だろ?
「はい、ここに寝て」
生徒会室の奥には仮眠室があるのだが、そこの畳の上で奈々先輩が正座して俺に膝を勧めて来た。
これって膝枕?!
また『魔法チケット』に書いたとおりになった!
「いいんですか?でもどうして急に?」
「何だか急にしてあげたくなったのよ」
『魔法チケット』の効果ってすごいんだな!
膝に頭を乗せると、先輩の膝の柔らかさが感じられ、とてもいい香りがする。
「あ、あの…向きが逆じゃないかしら?」
「何がです?」
「普通って顔は向こうに向くわよね?」
「あ、ごめんなさい。つい…」
先輩の膝枕だというだけで興奮してしまって
「優しい先輩のことをもっと感じたいと思って、ついこちら向きに寝てしまったのだった」
「もうっ…そんな事言う子にはお仕置きです!」
もにゅん
え?
え?
顔の横に乗ってるこれは…胸?!
「いきなり乗せられた大きな胸はものすごい柔らかさで、俺は天国に行ったような気分を味わった」
「天国なんてそんな…ってきゃああっ!私ったらなんてことを!」
あっ、胸をどけられた。
「ごめんなさい。もうどきますね」
「だめです!もうしばらくこうしていてほしいの」
「はい」
「でも胸は乗せませんから。…まだ心の準備が」
残念だけど、これだけでも十分だなあ。
そしてまたまた占い師の車の中。
「そう、うまくいったのね」
「胸まで乗せてもらえて天国でした」
がたたっ
「運転手さん、寝返りでケガしません?」
「たぶん大丈夫よ。それより次はこれね」
新たな魔法チケットを出されたが、それには文字を書く欄が無い。
「これを相手のカバンに入れると、手をつないで帰ることができるのよ」
「本当ですか!」
「ただし、帰りまでに入れておかないと効果が無いわよ」
「試してみます!」
「また結果教えてね」
「そして顔はよく見えないけど声の綺麗な占い師のお姉さんに見送られていくのだった」
「奈々ったら毎日こんなこと言われてるのね…」
チケットをこっそり入れやすいのって隣の席の茜くらいだよな。
…これでよしと。
放課後。
「今日は一緒に帰ろうね!」
茜が声をかけてきてくれた。
一緒に帰るのは別に珍しくないけど、『魔法チケット』の効果で手が繋げるかもしれなくてドキドキしてしまう。
ぎゅっ
え?いきなり?!
「その手はやわらかで温かく、すこし湿った感じが茜の緊張を感じさせた」
「だからそういうこと言わないで!恥ずかしいんだから!」
「どうして急に手をつないでくれたの?」
「な、なんとなくよ!そうしないといけないって気がしたの!」
『魔法チケット』様々です!
俺はドキドキしたまま、いつものような会話もできずに帰宅した。
でもすごく幸せだった。
〇三人称視点〇
時はさかのぼり、孝之が初めて占い師の車に入った時。
奈々、茜、きらりはその車の運転席と助手席の所で聞き耳を立てていた。
『3人ともあなたに好意を持っているわね』
『本当?!』
「もう、お姉ちゃんったらそんなはっきり言わなくても」
「奈々先輩。言わないと鈍感な孝之先輩にはわかってもらえないですよ」
「これって自分の口から言わなくても恥ずかしいわね」
そう、この占い師は奈々の姉が扮しており、占いも『魔法チケット』もまったくの出まかせ。
3人がそろそろ孝之との関係を進めたいと考えて、『じゃあ孝之が誰に何をしてほしいか調べようか』ということからこういうことをすることになったのだ。
『嬉しいけど、誰かなんて選べないなあ』
『嬉しいのね?』
『あっ、うん。だって3人とも綺麗だし、可愛いし、元気だし』
がたっ
思わずずっこけるきらり。
「私だけ何か違う!」
「どんまいどんまい」
「いいなあ。私も綺麗とか可愛いって言われたいなあ」
そしてついに最初の『魔法チケット』の出番。
調べたいことは『誰のお弁当を食べたいか』。
『あとは名前を書くだけね。さっきの3人のうち、どれにする?』
『じゃあ、『鈴川きらり』と』
がたたっ
「きらりちゃん!」
「ご、ごめんなさい!でもまさか私が選ばれるなんて!」
「きらりちゃん料理上手だもんねえ」
「え?私の事が好きで選んでくれたんじゃないの?」
落ち込むきらり。
「ごめん!そういうつもりじゃなかったのよ!でも、お弁当を食べる時は二人っきりにしてあげるから!」
「そうそう」
「え?本当?!」
途端にきらりは表情を輝かせる。
「すごく頑張ってお弁当作っていきますね!」
そして翌日の放課後。
3人は再び車の中で聞き耳を立てていた。
今回の『魔法チケット』の内容は膝枕だ。
いったい誰が選ばれるのか3人は興味津々である。
『でも膝枕と言えばやっぱり包容力のある先輩かな』
『そうなの?』
『優しくて、暖かで、春の日差しのような方なんです』
座席から落ちかける奈々。
「先輩べた褒めですよ」
「孝之くんったら私の事そんなふうに思ってくれていたのね。嬉しいわ」
『それに膝枕してもらえれば、先輩の大きな胸が顔に乗ったりしそうで』
それを聞いて思わず突っ伏す奈々。
「わ、私のことそんなふうに見ていたのね…」
「奈々先輩はエッチな男の子って嫌なの?きらりは平気だからね」
「私も…ちょっとくらいならいいかな」
「お、男の子何だからそういう気持ちになるのは仕方ないかもしれないけど、さすがに胸は乗せませんから!」
とかいいつつ、乗せることになるのだが。
そして翌日の放課後。
「今度は『帰りに手をつなげる』にしない?」
「いいね!」
「今度は誰が指名されるかな?」
「それでね、今度は名前を書くんじゃなくてカバンに入れて指名することにしてほしいの」
もじもじとそう言う茜。
「どうしてかしら?」
「あっ、わかった!自分だけまだ選ばれているから選ばれるためね!」
カバンにこっそり入れるとか、同じクラスで隣の席の奈々に対してしかできないだろう。
「だって私も孝之に選ばれたいんだもん!」
「仕方ないわね」
「茜先輩貸しひとつですよ」
「いいもん!次からは私が実力で選ばれて見せるから!」
そして運命の日がやってきた。
「つ、ついにこれを使う時が来たわね」
3人の前には特別なデザインの『魔法チケット』がある。
キスマークの模様が付いたそれは、『3人のうち誰かとキスができるチケット』だ。
問題はその使い方をどうするかだ。
「車の中で名前を書いてもらうと選ばれなかったショックがすごいから避けたいわね」
「カバンの中に入れてもらうのは茜先輩が有利だから駄目ですよね」
「それならプレゼントの包み紙にしてもらうとかどう?」
早速コンビニに走ってA3サイズにコピーする。
「でかっ!」
せっかくの繊細なデザインが引き延ばされて妙な感じだ。
「プレゼントの大きさに合わせて孝之くんに拡大コピーしてもらったらどう?」
「そうね」
「選ばれなくても最後に先輩との思い出が欲しいから、週末三連休に交代でデートしたいな」
「それでプレゼントをもらって、この『魔法チケット』の印刷されていた包み紙だったらキスできるのね!」
「それは楽しみね!」
「ドキドキしますねっ!」
そして奈々の姉である偽占い師はまんまと『キスができる魔法チケット』を孝之に渡すことに成功した。
「結果報告は休み明けに!」
「恨みっこなしだからね!」
「先輩!きらりを選んでくださいっ!」
〇孝之視点〇
すごいものもらっちゃったな。
キスができる『魔法チケット』かあ。
今週末までの期限付きだけど。
偶然なのか3人に週末3連休の買い物に誘われたけど、これって多分デートだよね?
誘ってくれたのはこの『魔法チケット』の影響が出てるのかも。
俺は3人にプレゼントするものを準備してからひたすら悩んだ。
チケットを使うのは誰にしようか?
誰とならキスしたいか?
誰となら恋人になりたいのか?
週末が近づいても全然決められなかった。
そして俺はとりあえずプレゼントの包装用にコンビニで『魔法チケット』を拡大コピーすることにした。
「うーん」
悩みながらコピー機を操作していたら、
「あっ、うっかり3枚焼いちゃった」
ん?
これって3枚作れるの?
効果とかどうなるんだろ?
今まで全部願い事叶ったよね?
コピーして使えるのなら3枚とも使えたりするんじゃないかな?
誰か選べないなら…3人ともに使ってしまおうか。
もし俺の事が嫌いならキスなんてしないだろうし。
でも強制力となあるのかな?
俺の事好きじゃないのにキスさせたら駄目だよね。
でもみんなとキスしてみたいな。
そして週末。
三連休最初の日は奈々先輩とデートだ。
でも、デートの内容が頭に入ってこない。
もうキスの事しか考えられなくて…。
気が付けば夕暮れの公園で二人きりになっていた。
「今日は楽しかったね」
「奈々先輩、あの、プレゼントが…」
「本当?!」
眼を輝かせる奈々先輩。
包み紙にくるんだ箱を手渡す。
「これこれ!これが欲しかったの!」
「え?」
「あ、まだ中見てなかったわね。開けていい?」
「はい」
プレゼントは先輩のイメージの桜のブローチだ。
「大切にするね」
そう言ってくれて、先輩は丁寧に包装紙を畳んで一緒にカバンに仕舞っていた。
「あ、あの…何だか、ちょっと目をつぶりたい気分だわ」
「え?眠いんです?」
「そうじゃなくて、ほら」
先輩は眼を閉じてこちらに口を少し突き出すようにしてきた。
恋愛経験の無い俺でもさすがにわかる。
これはキスしてほしいってことだ。
俺は先輩にキスをした。
翌日。
俺は茜とデートしていた。
買い物だけのはずが近くにあった小さな遊園地に入って、最後に観覧車に乗った。
「茜。これ、プレゼント」
「あっ、この柄!」
「え?」
「な、何でもないわ。開けるね」
中に入っていたのは可愛らしいスマホのストラップ。
ストラップだけどそれなりに値段のするいいものだ。
「前に茜がストラップ欲しがってたから」
「ありがとう!嬉しい!」
「喜んでもらえてよかったよ」
すすっ
急に向かい合わせから隣の席に移動してくる茜。
「孝之…」
そう言って俺を見つめてから目を閉じて唇を差し出す茜。
やっぱり『魔法チケット』の効果はすごいんだな。
俺は茜にキスをした。
翌日。
買い物はすぐに終わって、そのまま色々な遊びができる『ニャウンドワン』へきらりと行く。
ボーリングをしてきらりちゃんは285点を出し、そのあとのカラオケでは何と97点をたたき出していた。
「うまっ!すごっ!」
「へへっ、この歌手の歌なら95点以上取れるんだよ」
今日はきらりちゃんがいつも以上に輝いていた。
「ふう、つかれたっ」
俺の横にどんっと座ってくるきらりちゃん。
そしてじっと俺を潤んだ瞳で見てくる。
あれ?まだプレゼント渡してないけど?
「ねえねえ、いま二人っきりだよね?」
「うん」
「誰も見てないよね?」
「うん」
「何か…ほら、何かない?」
「え?」
もしかして『魔法チケット』が早く使えって急かしているのか?
「期限は今日までだもんな」
「え?期限って何のこと?」
「い、いや何でもないよ。それよりこれ。プレゼント」
俺はカバンから大きな包みを取り出した。
「あっ違う…」
あれ?何だか表情暗いぞ?
「開けてみて」
「う、うん。そっか…きらりじゃないんだ…」
何かつぶやきながら包みを開けていくきらりちゃん。
そして…
「これはっ!」
目を見開くきらりちゃん。
中にあったのは可愛いクマさんのぬいぐるみ。
活発な子だけど、きっとこういうものも好きじゃないかと思って買ってみたんだ。
「よかった!あった!」
くまのぬいぐるみを…どけてその下に敷いてある『魔法チケット』を持つきらり。
え?そっち?
「先輩ありがとう!大切にするね!」
「くまをだよね?」
「え?ああっ?!う、うん。そうそう!下に何か敷いてあったからメッセージかと思って」
なんだそんなことか。
『魔法チケット』はぬいぐるみが大きくてつつめなかったから一緒に入れておいたんだよ。
「先輩、お礼にキスしてあげます」
「え?」
まさかの彼女からのキス宣言!
「先輩、目をつぶってくださいね」
「え?俺が目を閉じるの?」
「はやくう」
俺は目を閉じると、唇にキスをされた。
「え?ま、待って!おかしいから!」
俺は慌ててきらりをひきはなす。
「え?何?どうしたの?」
「だって、『唇にキス』なんてできるわけないんだから」
「どうして?先輩、きらりのこと好きよね?」
「好きだけど…」
確かに好きだけど、唇にキスなんてしたら駄目なんだ。
「だって3枚コピーしたから効果が3分の1になって、あとの二人には額にしかキスできなかったのにどうして唇にしてもらえたのだろうと不思議に思った」
「ええええっ?!3人ともこの『魔法チケット』渡したのっ?!」
ん?
「きらりちゃん」
「は、はい」
「どうしてこれが『魔法チケット』って知ってるのかな?」
「あ、あ、えっと…ちょっと待ってください」
20分後。
カラオケに奈々先輩と茜もやってきた。
そして今回の『計画』の全貌が打ち明けられた。
「だからあの時額にキスしたのね!」
「うう、せっかく孝之に選んでもらえたと思ったのに!」
「じゃあ唇にキスしたきらりの勝ちということで」
「「それはないから!」」
「孝之くん!仕切りなおすから唇にキスして!」
「孝之!私も!」
「じゃあきらりは額にしてくださいねっ」
こんなに好かれていいのだろうか?
仕切り直しって、3人とも唇にキスしたら今度から何で争う気なのだろうか?
「もしかして今度は『エッチなことができる魔法チケット』とかもらえるのかな?それならまたコピーして4人で一緒に…」
「な、な、なに考えてるの孝之くん!」
「孝之!欲望だだ漏れよ!」
「4人でエッチ…選ばれないよりそれがいいかも」
「「きらりちゃん!」」
「はいはーい。新しいチケット持ってきたわよ」
そこに来たのはあの怪しい占い師。
奈々先輩の姉で大学2年生の瑠々(るる)さんだ。
「これを孝之くんから渡されたら一晩一緒に過ごせるのよ」
俺がそれを受け取るとばっと茜にひったくられた。
「私がもらうから!」
ばばっ
それをさらに奪い取る奈々先輩。
「私がほしいんです!」
ささっ
しかしそれをきらりちゃんが奪い取る。
「先輩は渡しません!」
あかん修羅場だ。
ぱっ
あっさりそれを奪う瑠々さん。
「じゃあ、やっぱり分けるしかないわね」
びりびりびりっ
紙をちぎって、奈々先輩と茜ときらりちゃんに手渡す。
「うちにキングサイズのベッドがあるから、お父さんたちが居ない来週末に全員で泊まっていいわよ」
「「「えええっ?!」」」
「参加しない人は脱落ね」
瑠々さん勝手に仕切ってるし。
そして次の週末。
ベッドの中には俺。両側に奈々先輩と茜。
きらりちゃんは少し下に下がって俺のおなかに抱きついている形で寝ている。
「いいのかなこれ?」
「問題ないわよ」
「恥ずかしくなったり嫌になった人が脱落ね」
「きらりは負けないから!」
3人とも好きだから嬉しいけど、これからどうなるんだろ?
「ほらほら、もう電気消すわよ」
瑠々さんがやってきたけど、何そのスケスケのパジャマ!
「じゃあ、私はここね」
ってきらりちゃんの反対側から俺の太ももに抱きつく瑠々さん。
先輩以上に大きな胸が押し付けられる。
「お姉ちゃん!どうして一緒に寝てるのよ!」
「だって、私もほら」
その手には『魔法チケット』の切れ端が。
「4等分しちゃった。てへっ」
「お姉ちゃんっ!」
「瑠々さんっ!」
「だって、占い師の件引き受ける時に3人は私に『何でも言うこと聞くから手伝って』って言ったわよね?」
「うっ」
「瑠々さんずるいです!」
「だって、私も好きになったんだもの。こんなに情熱的に本音を言ってくれるなんて、すごくキュンってしちゃったから!」
「そうですよね、わかります!じゃあ瑠々先輩、これから一緒によろしくお願いします!」
「「きらりちゃんっ!」」
そして俺に恋人が4人もできてしまった。
「その晩はあまりに魅力的な奈々先輩が綺麗な顔を近づけてきて、可愛い茜の甘い吐息を感じ、抱きついてきているきらりちゃんの健康的な腕や足にドキドキさせられて眠れそうにない」
「まあ」
「もう」
「先輩たらっ」
3人ともさらに強く抱きしめてくれる。
「でもそんな中、一人俺の大切なところに手を伸ばす瑠々さんをどうしたものかと思う俺であった」
「「何してるのっ!」」
「きらりも少し触っていいかな?」
「いいわよ」
「「だめですっ!」」
「そしていつの間にかみんな服を脱いでその美しい下着姿を…」
「「言わないで!」」
「「もっと言って!」」
お読みいただき感謝です!
感想とか星をつけて頂けると嬉しいです!