7:私を必要としてくれる人〜ランスベルト〜
ランスベルト視点の話。
ちょっと長めです。
ランスベルトはベリエットが思う程良い男では無いです。……まぁ人って多面性がありますので。
ぶっちゃけた話、チョイクズです。
国の第三王子として生まれた私は、第一王子と第二王子とは母が違う。その母は自分が産んだ私を可愛がるが、王妃として致命的な失敗はした事が無い人、というのが周囲の評価だ。マナーも教養も知識も語学力も社交性も王妃としては合格出来るのに、私に関してだけは甘い。……らしい。
10歳くらいまでは私付きの者達に囲まれて育った所為かそんな噂は耳にはしなかったし、忙しいながらも母は私に会いに来るとなんだって願いを叶えてくれた。しかし後宮にある私が暮らす第三王子の住居区域から出て城内を歩いて初めて、私は母に甘やかされていると知った。
婚約者であるベリエも母が私のために取り付けたものらしい。第二王子のバイスルーク兄上の婚約者になる予定だったと知った時は、なんだか優越感があった。城内を歩くようになってハルトリッヒ兄上やバイスルーク兄上が優秀だ、と聞くようになり私は比較されるようになっていた。そんな兄ではなく私の婚約者になった光魔法属性のベリエ。母には感謝する。ベリエは顔立ちはキツくて可愛いとは思えないが、話せば優しくて泣き虫だった。バイスルーク兄上と仲良しで私のことを弟のように思っている感じだったが、成長するうちに私を好きになったようで態度に表れていた。
……分かりやすい女。
ちょっと年下を利用して甘えてみるだけで簡単に私に好意を持つなんて単純だ。顔立ちは好みじゃないが私の言う事をなんでも聞く女は便利でいい。それがベリエットに対する私の評価だった。彼女が学院に通い始めてからも「年下だから一緒に通えないからベリエに他の男が近寄ったら不安だ」と言ってやれば、益々私を好きになる。こんなに簡単だと逆に笑えた。そして私の言う事をなんでも聞く。本当に便利で都合が良い。
おまけに、何年かの間とはいえ妃になるから妃教育を受けているが、バイスルーク兄上の婚約者よりも優秀だと聞かされて優越感が増した。淑女としてもなかなからしいし、泣き虫なのは鬱陶しいが都合が良いし便利だから、結婚してから適当なところで愛妾を作っても文句は言わないだろう。
やがてベリエが学院を卒業し、入れ替わりで私が入学する事になった。その前にベリエが「お慕いしています」なんて言ってきた。知ってるよ。だから私は初めて知った、という顔をしながら「一生守る」と心にも無い言葉を言ってやる。案の定泣き出したベリエが鬱陶しいが、これで私が学院生活で何をしていても、ベリエは気にしないだろう。この女は私を信頼し過ぎて私に関する悪い噂は聞かない主義のようだ。ベリエの弟で私の1歳上であるヒュルトユウリの目さえ誤魔化せられれば、楽しい学院生活が送れる。あの男はどこが良いのかベリエを大事に大切にする傾向があり、ベリエを傷付ける者は全員敵、という面倒くさい性格なのだ。私を王子として敬う気持ちも無いがハルトリッヒ兄上が側近にしよう、と画策しているくらい優秀で怒らせると厄介だ。
そんな事を考えながら過ごしていた私の目の前に、天使が現れた。
柔らかな春を思い起こさせるピンク色の髪に若草色の目をした愛らしい顔立ち。笑顔なんてもっと可愛くて男を引き寄せる。モールナという男爵家の令嬢。婚約者が居る男達に囲まれているところを見れば、若干貴族令嬢としてのマナーに不安はあるが、その明るい笑顔と性格に私は惹かれた。モールナも私を好きだと言って、私達は人目を憚らず恋人同士のように寄り添った。
学院の様子がベリエや卒業したヒュルトユウリの耳に入る事は無いだろう、と考えた私はモールナに愛を囁き口説き落として私と結婚する事を承諾させた。あの女との結婚より早くモールナと結婚したくて、最初は婚約破棄するつもりだった。だが、モールナは期間が決まっているとはいえ、王子妃として仕事は出来ない、と甘えてくる。それよりも側妃でいいから早く結婚して毎日一緒に居て、と可愛く強請って来た。こんな願いを可愛い恋人からされて叶えない男が居るだろうか。
母に頼めば、即刻結婚式を挙げさせてくれた。そして私達は直ぐに新婚生活を送り出した。モールナの属性が光魔法で無い事が残念だったが、水魔法の属性を持っていると聞いた。そんなに力が強くないのも残念だ。だがまあいい。魔法なんか弱くても、モールナは可愛いし私を必要としてくれるし頼ってくれるし甘えて甘やかしてくれる。ああ最高の恋人だ。最愛だ。
だけど、一応正妃として迎えるベリエには話しておかねばならない。面倒くさい。会いたくない。だが、結婚式を挙げて直ぐに父である国王から説明はしておけ、と怒られた。さすがに国王に反発するわけにはいかない。渋々ベリエに会いに行き説明すれば、案の定泣き出した。ちっ。鬱陶しい。思わず「メソメソ泣くだけの女は鬱陶しい」と言って帰って来た。ベリエの家でそんな態度を取って泣いているベリエを放り出すとどうなるのか、そんな事を考える事も出来ないほど、私はモールナの事しか考えられなかった。
この後のランスはまぁヒーローである弟くんが、痛い目を見ればいい。と言い切っていますから……。多分痛い目に遭うんじゃないんですかね? 知らんけど。でもまぁ最愛の彼女がいるんだからそれなりに幸せなんじゃないかなぁ。(まだ今後の展開が何も考えられていない作者の適当な発言)
次話はヒュルトユウリ視点に戻ります。




