6:何故こんなことに〜ベリエット〜
ベリエット視点です。
ずっと泣いているベリエット。
政略でもランスベルトが好きなベリエットは只管泣いてます。
「好きな人が学院生活で出来た。その人と結婚したいから母上に相談したら直ぐに式を挙げさせてくれた。男爵家の娘だから正妃にはなれないからベリエットが正妃だ。側妃だが妃教育は受けさせない。兄上が即位されれば臣下に降る。それまでの間だけ妃だから教育を受けさせる必要も無いだろう。ベリエットが公務と執務をするように。それといくら俺が好きでも、俺とモールナの仲に嫉妬しないで欲しい」
婚約者にこんな事を言われた私の惨めさと言ったら……。
私は前世の頃から泣き虫だった。母親が怖くて人の顔色ばかり窺っていた。転生してもそんな性格は変わらなくて。政略で締結された婚約者だったけれど優しくて少しだけ頼りないところが可愛い年下のランスが私は好きになった。日本人だった時の初恋は苦い恋だったから今度は失敗したくなくて、好きだと告げたのに。
結局はこんなザマ。私は恋をしちゃいけないのかしら。そう思いながら泣いている私をランスは「ただメソメソ泣いている女って鬱陶しい」と帰ってしまった。ここ、我が家の応接室なのですが。いくら第三王子とはいえ、婚約者である私の家で私を泣かせておいて何のフォローもしないで帰るって、ウチの使用人達からの心象が悪くなるのに……。ランスはそんな事すら思い付かないほど、そのモールナ様とやらを好きなの?
メソメソ泣いている女って鬱陶しい。
こんな事、ユウちゃんの耳には入れられない。だけど泣き止む事が出来ない。そうしているうちにやっぱりユウちゃんが心配そうに顔を出して……結局私は話すしかなかった。ユウちゃんは前世の時から私の味方で1人ぼっちになっても頑張れたのはユウちゃんがいたから。今も変わらずユウちゃんが怒ってくれる。
だけどね。ユウちゃん。私はランスが好きなの。こんな目に遭っても好きなの。バカでしょう? だけど優しくて少し頼りなくて照れると視線が彷徨うところが可愛いランスをどうしても好きなの。
でも好きだからこそ、このままランスと結婚したくないの。いいえ結婚したい。でもやっぱりしたくない。ユウちゃんに自室へ向かうように促された私は自室でも泣きっぱなし。私付きの侍女が気を使って1人にしてくれたのは分かったけれど、それに礼を言える程の余裕なんて無くて。
どうしよう。
どうしたらいい?
私はランスが好き。だけど結婚したくない。
でも婚約は解消してもらえなかった。
なんで? どうして? ランスが他の女性と仲良くしている姿を見せられなくちゃいけないの? ランスは私の事をもう何とも思っていないの? 嫉妬しないで欲しい? 好きなんだもの。嫉妬するわ。だけど嫉妬しないでと言われたのに嫉妬してしまったら、私はランスの言う事を聞かなかったと罰せられるの?
そんなの、私は耐えられない……。
だったらいっそのこと。そんな考えが脳裏を過ぎる。そんな時に視界に入ったナイフ。転生してからも好きな人から酷い目に遭うなら、私はもう生きていなくても良いと思うの。……そうよ。ランスは私以外の女性を好きになったの。だったら生きている意味なんて無いのよ。いくら政略で王命でも私が居ないなら意味が無いもの。
ランスだって私が居なくなればいいと思うのでしょう? だって泣くだけの鬱陶しい女なんだもの……。
だから私は。
そのナイフの刃を自分の手首に当てたーー。
この後のベリエットは……。
次話はランスベルト視点でお送りします。




