1:前世からの姉がバカに泣かされた
すいません。また新作です。
そしてまた思い付き……。
婚約者に好きな人が居ると知った女の子を支える弟が思い浮かんだので……。そんなに長くしないつもりです。
愛を貫きたい……そうです。
も、少しずつ書いてます。暫しお待ちを。
「それ……本当なのかよ、姉ちゃん」
「うん。本当」
俺は、たった今、姉が言った事が信じられなくてどこかボンヤリとした声で尋ねていた。姉は哀しそうに微笑んで肯定した。そうしてもう一度話を繰り返した。
「殿下はね、愛する方が既に居て、王子妃として迎え入れたそうよ。正妃は私で良いと仰ったわ。仕方ないからですって。愛する方は男爵家のご令嬢なの。王子妃の正妃になれる身分ではないし、正妃の教育は既に私が受けているから受けさせる気も無いって。だから私には正妃として公務と執務を行うように、と命じられたわ」
その顔には既に涙の跡が残っていた。
「姉ちゃん、アイツの前で泣いたの?」
「……ねぇ、ユウちゃん、殿下にはそんな口の利き方はしないでね?」
「しねぇよ!」
「…………泣いたわ。でも殿下は済まないと言って帰られたの」
泣いている姉ちゃんを置いて城へ帰ったという姉ちゃんの婚約者に内心でクズ! と罵っておく。あまりにも姉ちゃんを蔑ろにしているんじゃなかろうか。
俺、バルドル公爵家嫡男・ヒュルトユウリは第三王子であるランスベルト殿下に対して、今この時より痛い目に遭わせる事を誓った。
それもこれも、俺の姉であるバルドル公爵家長女・ベリエットに対しての酷い裏切りを許せないからである。姉ちゃんとランスベルトのバカヤロウは政略結婚のために7歳で婚約を結んだ。第一王子であり王太子の婚約者は、隣国の王女。第二王子の婚約者はもう一つの公爵家。だからバランスを取るために、第三王子ランスベルトの婚約者は姉ちゃんに選ばれた。姉ちゃんは殿下の3歳上で年齢的にはおかしくない。だから王家に強引に持ちかけられた婚約だった。結婚の約束だから婚約。
それを、あのバカヤロウは何を考えているのだろう。姉ちゃんとランスベルトの結婚まで後半年。そんな時に密かに式を挙げてしまっていたと父から聞いた。まさかと思った姉ちゃんだったが、王家の教会で王妃殿下立ち会いの元で側妃との婚姻を結んだ、とバカヤロウが我が公爵家を訪れて姉ちゃんに言ったらしい。
それを聞いた姉ちゃんは泣いた。
それなのにバカヤロウは帰ったという。
「父上に婚約解消を頼もう」
「無理よ、ユウちゃん。お父様から先に言われてしまったの。陛下は知らなかったと仰ったらしいけれど……きっと知っていたでしょうね……王妃殿下が立ち会ってしまった以上、側妃として認めないわけにはいかない。けれどもこの婚約を無かった事には出来ない、と陛下から命じられたそうよ」
「マジかよ……。姉ちゃんに不幸な結婚を強いるなんて……。つか、王妃殿下は何を考えてんだよ」
「……王妃殿下は自分のお腹を痛めたランスベルト殿下が、愛する女性が出来たから結婚したいと言った事に感銘を受けた。という事らしいわ。お父様が陛下から聞いた話ね。王妃殿下は少し夢見がちな所があるお方だから。政略結婚をする息子達が可哀想。だからせめて側妃でもいいから愛する女性と添わせてあげたい、と思ったのでしょう」
「そんで? 姉ちゃんの気持ちは? 姉ちゃんは蔑ろ? 巫山戯るなよ」
「ありがとう、ユウちゃん。あなたがそうやって怒ってくれるから、私は未だやっていけるわ。あなたがいなければ私はきっと生きる希望が見えなかった」
怒りのあまり、口に出して王族を罵る。誰かに聞かれれば罪に問われる事だと解っていても、俺は大事な姉ちゃんを泣かす馬鹿共は嫌いだった。
「何を当たり前の事を言ってるんだ。俺と姉ちゃんは前世から姉弟だったんだぜ?」
俺と姉ちゃんは、何故か姉弟揃って同じ世界に転生してきた元日本人だ。そして前世と同じく姉ちゃんは今世も姉ちゃんだった。
次話は、前世の話をダイジェストでお送りします。