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序章 2 命のありか

 「もしかして、フランケンシュタインの怪物でも作るつもりですかね。」

寿々木が思いもよらぬ言葉を発する。

幻想めいたその言葉、夢現に生きているのだろうか。


「そんな訳あるか。いくらなんでもSFの見すぎだろ。

いいか、他人同士の人体組織は繋げたところでなァ、拒否反応ってのを起こしてくっつかねぇんだ。」

背を向けて、寿々木を見ずにゆっくりとぶっきらぼうに答える。

そんな馬鹿な話があってたまるか、そんなことが可能なら世も末、神も仏もあったものではない。

いや、仏は目の前にあるのか。魂も肉体の一部も取り除かれた、仏さまが。



 ―—しかし実に馬鹿馬鹿しい妄想だが、寿々木の言うように犯人がフランケンシュタインタインの怪物を造ろうとしていたってんなら。

その怪物の自我はこの仏のものなのだろうか。

それとも、別の部位に使われた人のものになるのだろうか。

はたまた全く新しい自我か。

そしてその自我がこの女のものであるなら、それは生まれ変わりか、はたまた同一の人物だったりするのだろうか。


 アメリカの話だが、第二次世界大戦で戦死した米兵の記憶を持った子供の話を聞いたことがある。

戦闘機が爆発・着水。

水底に沈みゆく今際の際の記憶を保持していたという都市伝説だ。

守咲は生まれ変わりなど信じるつもりはない。

ないのだが、生まれ変わりが100%ないとも証明できない。

人の認識とは、曖昧さを孕む。ゆえに観測者の判断に応じて、あるともないとも言えるものは一種存在かもしれないと、守咲は信じている。

何故ならそれは「ある」と認識すれば「そこにある」ものであり、「ない」と認識してしまえばそこには「ない」。

見ようと思えば見えるし、見ずにいれば見えないままだ。


 森咲は指のかけた白い腕に目をむけた。

…指。白い腕。水。

その瞬間、水音を立て自分に伸びてくる腕が見えた。


 なんだ。今のは。どこで見た光景だ。

過去に殺人鬼と揉み合った時か。分からない。

いつ見た「手」だ。いつ聞いた「音」だ。

覚えのない記憶で気分が悪くなる。現場の雰囲気に当てられたのだろう。そう思うことにした。

見ずに見なければ、見なかったままだ。


 ぐるぐると考えるほど思考が希薄になる。水を注がれた液体が薄まるように、思考に水を差されてぼんやりとしてくる。

これはまずい、と手で両頬をパチンと打つ。


 「さぁ、やるぞ寿々木。手がかりになりそうなモンはないのか。」

「急にやる気ですね、そう来ると思いました、流石熊狩りの守咲と言われた男ですね。

早速家族友人、そして恋人から聞き込みしますか。

交友関係なら、同アパート内に友人が住んでいるのですぐ捜査可能ですよ」


相変わらず、溌剌とした澄み渡る水面のように清涼な声で寿々木が答えた。

にしても、熊狩りとかマタギみたいな扱いは余計である。この男はいつも一言余計だ。

 この事件をさっさと片付けてやる。そう守咲は思っていた。

しかし、この事件が守咲の心から払拭されるのは、先の話となるのであった。

守咲がこの事件を払い除けて、「佛」へと至り普通の生活に戻るにはまだまだ先の話である。

「さて、人はどういう理由があったらヒトを解体して持ち去るのか。

じっくり考えてみるかァ」


2002年9月、蝉の声も遠のく頃に南美代子猟奇殺人事件はその幕を開けた。

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