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序章 女子大生”切除”殺人事件

元々大学生の頃に「こんな感じの読みたいな」と思ったものを書き出したのがきっかけです。

「なろう」では当然ながらミステリ小説など流行りに乗っていないのは分かっていますが、それでも載せたのは

「書きたかったから」

それだけです。

僕が本来書きたいと思っていたものですので、長くお付き合い頂けると幸いです。

序章 女子大生”切除”殺人事件



 「(フツ)」という文字は、元来「(フツ)」と書く。


これは単に遠い昔、友人に教わった知識だ。

「佛」は、人偏に弗と書くのだが、弗とは木のつるを象ってて、「塞ぐ、阻む」というのが原義らしい。

そこからさらに転じて邪魔になる障害を「払い除ける」ことを意味する。


つまり「佛」とは「人が物事を払い除ける、解放する又は、される」。

それは、"煩悩を払い除けたありがたい仏様"の意味である。

ふむ、中々優れた言葉遊びだ。


 それを鑑みるなら、遺体を「仏さま」と表現するのは興味深い。

遺体は文字通り魂が、()()()()()()()()()()()()


魂とは表現したが、「生きていること」=生命活動の根源が魂にあるのかは解釈次第だ。

意識という人もいれば、ただの生命活動と言う人もいるだろう。

とにかく遺体からは「生きている」という事柄は取り払われている。




 その仏さまと、それも異様な様相を呈する仏さまと、守咲(もりさく)将汰(しょうた)は対面している。

「先輩、どうしました?流石の先輩でも茫然とする程の現場でしたか?」


 若干のクセのある髪の毛を、綺麗かつ丁寧にセットし、特徴的な丸眼鏡。

気品のある感じが、却って少々英国っぽい風貌だ。

守咲の後輩である寿々木(すずき)(さとる)がハキハキと声をかける。


(新人だってのに、この異常な光景に物怖じしない、か。

感情の一部でも欠落してんのか?)

と心の内で、森咲は関心と不気味さを感じた。


「なんでもねぇ、ただ『仏ってのは一体どんなもんなんだ』と。

深い意味はねぇよ。それより、状況はどうなんだ」


高身長から発せられる低い声が、静かに死の臭い漂う空気を揺らす。

「ハァ、仏ですか。

確かに本来ありがたい単語なの、に凄惨な現場に使うのは似合わないですね。

ん~、アンバランスという感じでしょうか。


んで身元は、被害者は(みなみ)美代子(みよこ)、三重の片田舎から出てきて一人暮らし。

埼玉県内の清海大学三年生で、専攻は民俗学だったそうです」



 「ミンゾクガクゥ?ナントカ部族がどう過ごしているとかか」

「そんな言い方ダメですよ。

民俗学は乱暴に言うと、民間伝承などから生活や習慣、価値観を探る学問です」

詳しい解説の合間、眼鏡がキラリと光る。


「ホラっ、机上に伝承がまとまっていますよ。

彼女は出身地の伝承を集めていたんですかね、三重県の伝承や口伝がまとめてありました」

 寿々木の指し示した方向には、幾つかの分厚い本。

そしてそれらが積まれて今にも崩れそうな、机の真ん中にノートPCが一台。


横には紙の資料が束ねてファイリングしてあり、あちこちに赤線が引かれていた。

ちら、と開きっぱなしの本に目を向ける。


『水中で自分と同じ姿をした妖怪に溺死させられる』という旨の伝承で、少し気味が悪い。

思えば今回の被害者も、一番の死因は溺死。

あぁ、皮肉めいてんな。この状況は。



「ぼんやりしてないで続けますよ、先輩。

死因は溺死、睡眠薬を飲まされた後に風呂に首を沈められそのまま殺害。

なお、風呂は丁寧に洗い流されていました。

死亡推定時刻は昨夜19時前後。


その後犯人は遺体を居間まで運び出し、御覧の通りに遺体のあちこちを丁寧に切り取った。

と、いう流れと思われます。


切除個所は毛髪、右手薬指、左乳房、そして、肋骨の一部です。

切断面は非常に綺麗なため、医療関係者との線が浮上しています」



 そう。遺体からパーツが切り取られ、そしてわざわざ着衣され布団の上に寝かされている。

いや、置かれているという表現が正しいのだろうか。

それがこのアパートの一室を異質たらしめる要因(ファクター)だ。


それ以外は、ごく普通に見えるのだ。


肩まである、しなやかな艶のある黒髪。

投げ出された少し細身の、魚の腹のように白く血の気を失った腕と脚。

猫のような目と鼻筋の通った、どこか中性的な凛とした整った顔立ち。

少女からは感情と生気は遊離し、目はもう開ききったまま何も映しこむことはない。



 だが、尋常ではない『それ以外のすべて』

体の一部を丁寧に切り取られている、その事実。

まばらにも、何故わざわざ切り取る必要があったのか。


「お前は、どういう理由があったら人をバラす?」

気味悪く、後味の良くない質問が部屋いっぱいに響いた。


「おっかないこと聞かないでくださいよ!

僕にわかるわけないじゃないですか!」

そりゃあそうだ。


「で、でも。持ち去りやすい部分を持ち去ったのですかねぇ。

僕としてはわざわざ服着せて眠らせておくほうが不気味ですけど」

言い淀みながらの返答が漏れ出てきた。


「ホウ……なるほど。

俺はな。勝手に推測するが…犯人の自己顕示じゃないかと思うわけだ」

俺は何を言ってるんだ?


「例えば俺はこんなことを成し遂げたぞという、勲章だな。

はたまた犯人が手術経験あるとか、実は意味がある部分かもしれねぇ。胸なり、肋骨なりが」

やめろ、これ以上踏み込むな。


「とにかく普通じゃあ考えられねえ。

相当の怨恨とかじゃねぇとこんなこたぁねえ。

すぐ人間関係を中心に洗え。

家宅捜索も行って持ち去った部位を探すようしねぇと」

ギリギリで、踏みとどまった。


にしても、自己顕示など陳腐な言葉だが、そう見ずにはいられない。

 確かに先刻寿々木の述べたように綺麗に寝かせておくのも意味不明だ。

だが、まだ何かの見立てと思えば……そこまで理解に苦しむ気はしない。


 それよりも。

何故犯人は体を切り取ったのか。

それがあまりにも興味と恐怖を引き付けてしまう。

バラバラではなく解体・切除。意味不明の、共通点すら存在しない部位。


わざわざ骨まで取り出す位なら、目ン玉くり抜く方がよっぽど楽だ。

何の意味を見出して切り取ったか?

きっと本人にしか分からないし、犯人への動機づけにするには理由の推測をしかねる。



だが、ここで意外なことを寿々木が口に出すのであった……。

【ライナーノーツ】

長編ものを初めて執筆しました。

人の心の闇や、「自分とはなんであるか」を焦点をあててます。

某教科書によく出てくる古典をはじめ、近代および現代小説の影響を大きく受けてるのは否めません・・・。

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