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12話 記念物(スーベニア)

 刹那、西実はぬるりとした、生臭くて厭らしく温かい風が吹いた気がした。

不可解で生理的嫌悪を感じる質問。

西実は答えることはおろか、その言葉を正常に思考することも、直ぐにはできなかった。


どういう理由で?解体?

頭が混乱する。考えたこともない物事に頭の中がぐるぐるとしてくる。



それこそ、感情的で衝動的なものではないのか?

犯人が異常な趣味で持ち去って、満足と由悦に浸っている。

そうに違いないだろう。

が、それが即座に喉から音となって出てこなかった。



「僕はね、同じ問いを当時守咲先輩にされた。

そして検討もつかなかった。

ただただ冗談を飛ばして、その質問の気味の悪さを紛らわすしかなかった。


今も尚、あの

質問に一人では完答花丸100点満点を出せずにいる。

勿論、完璧な答えなんて犯人以外知る由も無い。

下手したら犯人も知らないんだけどね。


君は元々は、大学で心理学を深く学んだと聞いた。

だから君の手助けがあれば……犯人の心理状態から完答できると思ってしまったんだ。

いや、それでも…イジワルで気味の悪い質問であったことに変わりはない。

すまなかったね」

その場で寿々木はばつの悪そうな顔をした。




 ぐるぐるとした光景が、元の河原に戻っていく。

「いえ、先輩。大丈夫…です。

むしろ話して下さって有難うございます。

私も、ヒントくらいなら差し上げることが出来るかもしれません」

何、と声を上げ寿々木の目の色が変わる。鋭さが目に再び戻る。


 「これは、いわゆる『スーベニア』ではないでしょうか。

日本語では"記念物"と言います。

犯人の立場からしたら戦利品、でしょうか。


犯人が殺人を行った情動、その昂りを忘れずに何度も想起するために、所持し続ける、被害者に関連した品々です。

つまり、犯人にとっては快楽を満たし続けるために、リスクに拘わらず所持し続ける価値がある。

なので今後も犯人は所持し続ける可能性が非常に高いです」

一息で西実は言い切った。



「つまり、自分が行った犯罪の勲章ということかな。

で、それを見ては思い出して…おっとあまり言うと下品な例えになっちゃうね。失敬失敬」

寿々木は一気に押し寄せた言葉の津波を、自分なりに噛み砕いて理解したようだ。


「そういうことです。

ですから、もしかすると…持ち去られた部位を捨てない限り犯人につながる証拠になり得るのではないでしょうか」

状況を考えれば、スーベニアであることは可能性としてあり得る。

大きな手がかりを本人が話さず持っているのだから、家宅捜索なり関係者を洗い出し捜査なりすれば本来話は簡単ではないのか。



「そうなると不思議な点が一つ。

その犯罪の勲章は18年前見つからなかった」

……。

黙ってその言葉を聞き、先を促す。


「西実の言う通りだとすると二つの可能性がここで考えられる。

1. 犯人は捜査線上に上がってこなかった人物、つまり関係者外

2. 犯人はスーベニアを廃棄した

勿論スーベニアではない可能性もあるだろう。

現在考えられる可能性を考慮するとこうなる、ってだけの話だ」


当時は見つからなかった。隠されたのか捨てたのか。

関係者外だから捜査線上に上がらずに、というパターンは納得がいく。


果たして今回は見つかるのだろうか…。それともまたしても戦利品は加害者の手から返ってこないのだろうか……?


でも”スーベニアなどそういった類のものでない”とはどういうことなのだろうか。



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