11話 主観と客観
「それにしても、この惨状は一体…。
これ程までの猟奇的な行為をする動機はなんなのでしょうか。
私はそこが一番の疑問です」
とうとう、そこに言及をしてしまった。
言い出した以上、引き返すことはできない。
その言葉を聞いた寿々木の目に、刀剣のような鋭い光が宿った。
「『動機』って、それはなんの動機だい?」
急な雰囲気の変わりように西実はたじろいだ。
「何……とはここまで無惨な猟奇殺人の動機、ですが……」
「ん~。猟奇的な殺人の動機ねぇ、僕は殺す理由なんて」
そこで言葉を切り、彼は空を見上げた。
「理由なんて、周りが勝手にラベルを貼りつけて勝手に決め付けるものだと、そう思っているよ」
何を言っているのだろう。
意味が今ひとつ分かりかねる。
「『ラベル』、『決めつけ』ですか?
一体それは……?」
西実は怪訝な顔で聞き返す。
それもそうだ。いきなりの意味不明な言い回しに、戸惑うのは当然のことだ。
「『決めつけ』…何がいいたいかっていうとだね。
犯罪っていうものは、犯人個人の中にぐるぐると存在する"感情的なナニカ"が根源だと思うんだよ。
それがふらっと『その時』『そのタイミング』が来たから事を起こしてしまう。
そこに理由なんてあるか?いや、無いさ。
たとえ計画的であっても根本は『殺したかったから殺す』だけなんじゃないかなと。
それを第三者が好きなように、解釈しやすいように、納得しやすいように。
自分たちの言葉に置き換えているだけだ。
そんな風に感じてるんだ。
ふふふっ、不思議なことを言ってるように感じるかな?」
何を言ってるのか分からない、という西実に対し一度聡は言葉を止める。
「いいかい?
彼らはただ感情が募り、殺したくなったから殺す。
それはそれは感情的な衝動でありながらも、それはそれは冷静な精神状態で人殺しをこなしきってしまうのだろう」
たまたま心に沸き起こった、突発的な感情に明確な理由付けなど出来ない。
……ということだろうか。
“加害者が殺したいから殺しました”と言ってるようなものじゃないか、と西実は思考を巡らせて、眼の前の男の口から出る言葉の波を理解しようとした。
「でもね。
僕が今知りたい動機は、そんな分かりきったような事柄じゃないんだ。
僕が知りたいのは―――『遺体を切り取った理由』だよ」
そう言い放つ寿々木の目は眼光は、さながら獲物を凝と見る猛禽類のような鋭さと、蛇のような、黒々とした執念を湛えていた。
その眼差しは西実を急に深い思考の井戸から現実へと引っ張り上げた。
切り取った理由ですか、と短く西実は呟いた。
「西実。君だったらどんなどういう理由があったら人を解体して持ち去る?」