10話 "つみ"の味
「早速事件の捜査に当たりましょう。
まず被害者の特定、それから関係者を洗い出し聞き込み、加害者の残した残留物や証拠集め。
やることは山ほどあります」
西実は毅然とした態度で言葉を発した。
若くから冷徹に犯人を一人ひとり検挙してきた、『仕事の出来る女』ならではの風格だ。
寿々木は、振り返り西実の前で人差し指をピン、と立てる。
「やぁー実はね、被害者はもう特定出来ているよ。
一昨日から行方不明で捜索願が出ている子がいてね」
「も、もう特定できているのですか!?」
驚く西実をよそに、飄々とした態度でメモの続きを読み上げる。
「うむ、心苦しいが親に確認してもらったらビンゴだったんだよ。
朝のうちだけで調べがついてしまったくらいだ。
捜索願の特徴と結びついただけの話だがね」
明るく取り繕うものの、その目には憂えが垣間見える。
まだ若い命が奪われたことに心を痛めていることは、想像に難くない。
それはそうだろう。どんな命であれ、それが理不尽に奪われることにプラスの感情に天秤が傾く人間など、まずいない。
「被害者の名前は成川 留美花。
吉祥寺の情報専門学校に通う学生さんだね。
ただし……それ以外の素性はあまり明るいものではなさそうだ。
どうも夜の怪しいバイトをしてたことが、現在判明している。
その筋での名前は『るかにゃん』らしい」
口ぶり的にコンカフェ……などではなさそうだ。
何かの理由があってこそ、そのようなことをしていたのだろうか。
同じ女性でも、他者観測から言えば綺麗と言われる道筋で生きてきた西実には想像がつかなかった。
「少し肉付きはいいが綺麗な顔立ちだし、男受けはそれなりに良さそうだね。
美人度合いではうちの妻には何人たりとも敵わないけどね」
冗談めかしながら……いや、表情から言っても冗談ではなく大真面目に思ってるな、この先輩は。
寿々木は生前の写真をふい、と西実に寄こした。
確かに少し団子鼻だが、黒目勝ちの、丸い顔をした可愛げのある少女だ。
似ている訳ではないがどことなく、パグ犬の雰囲気が仄かに漂う。
どちらにせよ独特の雰囲気の愛くるしさを、その目鼻立ちや表情の一片にまで内包した顔立ち、といった印象を受けた。
「では、被害者の特定は完了しているわけですね。
関係者への聞き込みもスムーズになりました。
死亡推定時刻が判明次第、その時間この場所周辺で不審な動きがなかったか、情報を募る必要もあるでしょう」
ここで西実は言葉を止める。
そう。
この場を支配する、異常性への言及をするか。
一瞬言い淀んでしまった。
【ライナーノーツ】18年前の事件と、今回の事件。
特徴は似ているものの、果たして同一犯なのか…。そして彼らの心の水底に沈む影は晴れるのでしょうか。
その結末は、見えないところで少年たちも巻き込んでいくのです。
この微妙にバランスの崩れた世界の中で。