8話 執念の螺旋
「やっぱりね。実を言うと、僕も全く同意見だ。
不謹慎で君には失礼な話だが、あの時は僕の人生初の殺人事件だったんだ。
正直、浮足立っていた上にすぐ解決すると思っていたんだよ。
その時の自責の念もあるし、当時の先輩の執念を受け継いで、今も解決したいと独自に捜査しているくらいさ。
だからこそ、今回の事件には並み以上の緊張が走っているよ」
張り詰めた緊張をほぐすためか、努めて明るい声で会話をしてくれているのが分かる。
けれども、その言葉の裏には明確に強い意志を感じずにいられなかった。
「飄々としている割に、相も変わらず見透かされていますね。
仰る通り、今回の手口は当時に似ている部分が散見されます」
あまり動じた様子を見せずに淡々と続ける。
「川に顔を埋められ溺死。
何より、遺体の損壊状況が類似しています。
体の一部、右手・足首、そして胸部。部位は殆ど違えど、持ち去り方も類似点です」
淡々と西実は語る。
「対して18年前の事件と違う点は、あちらは遺体の姿勢がきれいに寝ているような状態でしたが、こちらは身奇麗に整理されてないこと。
あと、片手で握っている・・・アワビ?ですかね。真ん中にナイフが突き立てられています。
なにかのメッセージ性があるとは思いますが、これは現在調査中ですね。
ナイフの出処も調査すべきです」
うんうん、と頷きながら寿々木が、静かにゆっくり話し出す。
「ふむ、来て早々に冷静に分析をしているのだね。
優秀な後輩というのは嬉しいものだなあ」
「茶化さないでください、続けますよ。
総じて相違点はあれど、私たちの知るあの事件。
想起するには十分な状況です。
それ故に気張るところがあるのも、ハッキリ言ってしまえば大いにあります。
ですが、先輩もあの事件は胸中に深く突き刺さっていたのですね。
先輩の先輩の執念、ってところまで話が及ぶとは・・・・」
その瞬間に聡はきょとんとした顔をする。
「おや、守咲先輩の話をしたことはなかったか。
あの人はねぇ、熊狩りの守咲って呼ばれていたんだよ。
白肌に高い鼻の白人のような顔立ちの反面ね、筋肉つきの良い長身で武骨そうな人だった。」
遠くを見て、懐かしむように西実に語り始めた。
「そんな外見と反して、すごく緻密に証拠をくまなく探す人さ。
マタギは、熊の居場所を糞とかの証拠を探って熊の居場所を特定するのさ。
そんな様子に似ていたから、署内で当時評されていたんだよ。
……体格も相まってね」
空を仰ぎ見て、懐かしむように語る。
「そんな緻密な捜査を行う先輩だったから、犯人をお縄にするのは彼の十八番だった。
でも、あの犯人だけは……そんな凄腕の手を逃れ、平穏無事な生活に戻ってしまった」
くるりと背中を向けながら、聡は語る。
「犯人は、今もどこかで人一人殺した罪すら意識せず、のほほんと生きている。
それを僕は許せないし、何より、先輩の長い刑事人生で唯一人検挙できなかった犯人。
まだ現役とはいえ、後任を育てている今は捜査もできない。
だから僕が刑事として全てを教わった人の、心残りに僕がケリをつけてやるんだ」
いい切ったところで、聡は西実の方へ向き直った。