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7話 不完全均衡地帯

 そして、今。

府中市内の多摩川の河原。

西実は殺人事件の現場にいる。


目の前の遺体は、20歳前後の若い女の子。

着ている服は、いわゆるゴスロリと言えばいいのだろうか、特徴的な服装だ。

髪は黒々とした長髪、黒と白を基調にしたフリルドレス。

ちょっと古い流行りの、猫をデザインにしたニーハイソックス。


なんと形容しようか。その…実に「個性的な」若い女性だ。



 この都会的な個性の塊が、何の変哲もなく普段のほほんとしてる河原と草原の中に倒れている。

あまりにも不釣り合いに感じられた。


川のせせらぎが耳に優しく、日差しの暑さが夏を感じさせる。

こんな日は、麦わら帽子にタンクトップの少年の姿の方が、この情景によっぽど似つかわしい。


今この場所は、不完全均衡地帯(アンバランス・ゾーン)だ。

ただでさえ自分の世代には無い感覚や、ジェネレイションギャップが目の前に横たわっているせいか言葉も言いよどむ。



 近くには争って切れてしまったのか、数珠らしき珠と十字架が落ちている。

服装と相まって、「堕ちてるモチーフ」というのだろうか?

なんか……そういうヴィジュアル系のファッションだろうか。

ならば、死んでしまえばバンド楽曲のPVでなんかで見かけるバッドエンドだ。


完全にステレオタイプなイメージで必死に考えているが…西実は正直ヴィジュアル系には疎い。

慣れないことを考えて、途端に恥ずかしさを感じた。


 ともかく見た通りは普通ではないが、遺体としてに一見異常性はない。

だが、その実この遺体は異常な点がある。



ーーーー体の一部が切り取られているのだーーーー



その被害者のあり様を知ると、西実はハッと何かを思い出して心が冷たくなっていくのを感じた。


「18年前のことを思い出した?」

年齢よりも溌剌とした若々しい聡の声が、西実に向けられた。


 「いえ!先輩!!

いち早く犯人を捕まえ、牢屋にぶち込んでやることを考えていました。

手口は凶悪で、残忍極まりないです。

こんなことをする人間がいていいのか。

私が愛する街に野放しにしておくことも、市民が恐怖に震えて眠るようなことも、あってはいけないことです!!」

気丈に振る舞うことでいっぱいになってしまった。



 「はははは。そう気張らなくていいよ。

さて、今回の手口。

18年前のように死因が溺死・遺体から一部切り取られいてる点が類似しているから余計に思うところがあるかな?

『今回の事件は18年前の手口にそっくりだ、もしかしたらあの時の犯人にたどり着けるかもしれない!』とか」

心中で小さく感じていたことに、彼は鋭く切り込んだ。


見透かされた、自分の気持ち。

心のなかで、ぐっと閉まっていた扉が開き始める。

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