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転生者に関する依頼、こちらで承ります。  作者: AGEふらい
第一章 新米天使の初仕事
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第一章2  『神様もピンキリ』

 食事を終えた私たちは店を後にする。あ、しっかり料金も払いましたよっと。店員さんたちには受け取れませんと強く言われたけど、ナナシさんは笑顔でゴリ押した。


 腹も満たされ、ついに本格的に仕事が開始される、はずである。というか情報収集でもするために酒場に入ったのかと思っていたが、本当にただの食事だったみたい。


 一つ驚いたことが、荒くれ者共を蹴散らしてから食事を終えるまでの間に、ナナシさんの傷が完全に回復していたこと。

 およそ一般的な自然治癒力とは明らかに別格、時間にして一時間程度しか経っていないのに。

 ユーリちゃんの特殊な力、私の言葉で表すならば魔法とでも言えばいいのかな、とりあえずそんな感じの力で服装の汚れも綺麗にしてもらったナナシさんは、来た時と何も変わらない姿に戻った。


 今はどこかへと向かうナナシさんとユーリちゃんの後をトコトコと着いて行ってる最中。


「あのー、どこに向かってるんです? ターゲットとなる転生者の場所とか分かってるんですか?」


「ああ、凄まじい力を保有している人間だからね。この星のどこであろうが、場所は特定出来る」


「なるほど、私には全然分かりませんけど」


「そのうち分かるようになるよ。俺と一緒に仕事を続けるなら、だけどね」


「……ナナシさんは、どれくらい転生者狩りを?」


「人数も期間も、単位で表せないくらいには」


 足が止まる、自然に。

 今、この人は何と言った? 単位で表せない? しかも殺してきた数と期間、両方が?

 身体が震える。もしもナナシさんの言葉が真実なのだとしたら、どう接するべきか全く分からない。

 例えそれが正しい行いだとしても、命を奪う、人を殺める。それをずっとやってきて、何故こうも普通でいられる。


 私の足りていない想像力を絶して尚比肩にならないほどの経験を、この人は積んできたのかもしれない。

 自分が同じ立場なら、なんて考えることすらできはしないのに、私は恐怖を覚えた。


「エルちゃん、俺のサポートをする、俺の戦いを記録するってことは……俺と同じ景色を見ないといけないってことだ」


「ナナシさんと同じ景色、ですか」


「それは決して良いものじゃない。だから今回の仕事が終わったら、もう一度だけ聞かせてくれるか? 俺と一緒にやるかどうかを」


「……分かりました」


 ナナシさんは悪い人じゃない。掴み所がイマイチ無くて飄々とした雰囲気だけど、人への気遣いや所々で見える優しさは決して偽りじゃない、と思う。

 でも転生者狩りとして、人を殺してきたのも事実らしい。つい最近まで一般人だった私には、あまりにも現実離れしていて、あまりにも刺激的な話だ。


 だからこそ、自分の目で見て判断しよう。

 ナナシさんのやっていること、やってきたこと。そして、自分はそれを共に行うだけの覚悟があるのか。


「ナナシ、今回の依頼内容の説明とターゲットの情報。ユーリもエルもまだ聞いてない」


「お、悪いなユーリ。んじゃとりあえず説明するけど、多分エルちゃんは聞き慣れない言葉や疑問があると思う。全部話してから説明するから、質問はちょっと待ってね」


 私がコクリと頷くと、ナナシさんはにこりと笑ってくれる。その顔に、私は笑い返すことが出来なかった。


「今回の依頼者はこの世界を管理する神、内容は転生者を討つこと。ターゲットとなる転生者は現在十八歳の男、三年前に転生して半年足らずで世界を救ったらしい」


「神様自らが討伐依頼ね。この世界の神って、どれほどのものだったの?」


「神になったのも比較的最近だとか。力も最大限多く見積もって神下位の上限程度」


「ふーん、じゃあ転生者は少なくともそれ以上の強さ。そう考えると妙な点がいくつかあるし、無自覚っぽい?」


「十中八九無自覚だろうな。非戦闘時に神の力を使ってるわけじゃないし、世界への干渉だって今は起きてない。やりにくい相手だ」


「転生者が調子乗ってるムカつく奴だといいね、ナナシ」


「だなぁ。俺の意思として、接触後一日は待ってやりたい」


「ん、いいよ」


「依頼者自体が死んでるから情報は足りない。転生者の実力も予想を大幅に上回る可能性があるから、ユーリも気をつけろよ」


「了解」


 口を挟まないように待っていた私は、二人の会話が一旦の終わりを迎えたくらいで申し訳なさそうに手を挙げる。


「ごめんなさい、わりと何も分かりませんでした」


「あはは、素直でよろしい。じゃあ説明するね?」


 意味が分からない言葉ばかり、ということはなかったけども内容の予想が立てられない。ナナシさんとユーリちゃんに説明を求めると、二人は出来るだけ分かりやすく説明しようと努めてくれた。


 まず、転生者には転生時に世界を救うことが求められる場合があるらしい。

 言ってしまえばその世界のパワーバランスの崩壊、それを阻止するための存在。


 何らかの原因で人類や善良な存在が危機を迎えた状況で、その世界の救済のために神様が用意する調停者ポジション。

 世界救済と引き換えに与えられる力は大きく、転生時に目的が特に与えられない転生者とは一線を画する存在だとか。


 パワーバランスを一人で保つということは、最低でも世界を一人で相手に出来る程度の力を持っているみたいなんだけど、本来はそれでも神には程遠い。

 転生者の力は数年で爆発的に上がることがあるらしく、今回もその例だと二人は予想していた。


 そして神に匹敵、と言っても神様だってピンキリ。上と下の差は圧倒的で、同じ神でも持っている力はまるで違うことが多いんだって。


 世界の改変や管理のようなことを可能とするレベルより上を神と表し、その中でも力が低い者を神下位と呼ぶ。

 今回の異世界の神様は神下位の上限近く、下位とは言っても神は神。そもそも神様は神下位の比率が圧倒的に多くて、大半は神下位というランクで表せるとかなんとか。


 その上に神中位、神上位、さらにその上の神最上位と並ぶらしいけど、下位では中位に、中位では上位に、上位では最上位に、何があっても勝ることは無いほどに差がある。奇跡が起ころうが覆らない実力差があるため、『神下位の者が勝てる可能性がある』時点で神中位とは呼ばない。


 今回のターゲットとなる転生者は、神下位上限が負ける程度の実力であることは判明しているので区分としては神下位上限以上となる。


 ただ、現時点で転生者による意図的な世界の改変が行われているということはないみたい。

 それを証明する出来事として、酒場でのトラブル。

 世界の改変が大幅に行われていた場合は、転生者に関わる人以外の全員が傀儡のようになるという。転生者の意思で世界が好きに書き換えられているので、把握していないところの書き換えは非常に雑。

 転生者の知らないところでは何も起こり得ない。つまりは転生者が関わっていないところでトラブルが起きたということは、世界の異常な改変は特に行われていない。


 世界改変による生物の傀儡化は、私の元の世界風に言えばゲームのNPCのようになることだと思う。

 決まったことを喋り、決まったことをやり、それ以外のことは一切行わない。恐ろしい話だ。


 次に、力の自覚。

 神を超える力を持っているという自覚がない場合、または力の大きさをいまいち理解していない場合があるとのことで、本人には一切の悪気がなくても世界が破滅へと向かうことは少なくないらしい。


 思った通りに、願った通りに世界を改変したことでさえも本人は奇跡として認識してしまい、自分の力でどうにもならないことを思い通りにしたという自覚がない。

 ナナシさん曰く、これが一番性質が悪くやりにくい相手だという。


 言ってしまえば、悪人じゃないということ。本人が自身の行いを悪だと自覚しつつも、尚やめられない場合、やめる気がない場合は倒すことに躊躇をする必要がない。

 でも、相手が完全な善意や正義で動いてるのにも関わらず、その行動で世界が破滅を迎えるとなると『相手が真の善人だろうが関係無く殺す』必要があるわけで。


 世界の意図的な改変が常に行われていない状態であることから鑑みて、転生者は自分の力の大きさを把握していない可能性が限りなく高いというのがナナシさんの見解だ。


 一通りの説明を受けてある程度の理解は出来たつもりの私だが、大きな疑問はあった。


「あの……ナナシさんは、勝てるんですか? 転生者は神様を殺すほどなんですよね?」


「会ってみないと何とも言えないけど、多分大丈夫だよ」


「その、お言葉ですけど何故そんな自信が? 確かに酒場での一件でナナシさんが強いのは分かりましたけど、それはあくまでも人間の中ではの話じゃないんですか?」


「なるほど、あの戦いで不安にさせちゃったか」


 ナナシさんは転生者狩りとして長い年月を戦い抜き、多くの転生者を倒し、神様やユーリちゃんたち天使の皆さんからも信頼されている。でもそれらは全て聞いた情報に過ぎない。

 私の実際に見たことだけで考えるのならば、神を超える力にナナシさんが対抗出来るとは思えなかった。


 酒場でも圧倒的な勝利とは言い難い。確かに複数を相手に余裕を残してはいたが、怪我は負っていたし敵を完全に沈黙させるまでに少し時間がかかっていた。ただの荒くれ者相手にだ。


「酒場でのナナシは超弱かったよ。はっきり言ってエルよりも弱い」


 ユーリちゃんがナナシさんの腰辺りをペチペチしながら小馬鹿にしたトーンで言う。


「え、私よりも?」


「うん、一般的な天使の力は人と比べると超強力。イメージを形にする特殊な力や、超人的な身体能力。エルも転生時にそれくらいの力の底上げはされてるの」


「はぇ……全然知らなかった。イメージを形にする特殊な力って、さっきユーリちゃんが使った魔法みたいなやつ?」


「そうそう。でも魔法を抜きにしても、人が人生全てを使って得られるかもしれない達人級の戦闘能力をエルも持ってる、さっき絡んできた男たちなんてエルが本気なら一瞬で倒せてた」


「そ、そうだったの……? まるで実感ないけど……」


「本来なら神様が説明するべきなのに省き過ぎなの」


「あ、でも私よりナナシさんが弱いならやっぱり神の力に勝つことなんて……」


「それは全く問題ない。説明してもわかりにくいから、直接見てよ」


 全く問題ないって……。

 ナナシさんも動じる様子はないし、何かあるのは確かだと思う。でも、やっぱりよく分からない。正直自分が凄く強いという実感もないのに、自分よりも弱いと言われたナナシさんは、私から見れば非常に弱い存在に感じられる。


「エルちゃん、対象との接触後すぐに戦闘には入らない。こちらの事情を説明した後、丸一日自由な時間を与える」


「なんでですか?」


「対象の討伐は現時点で緊急性が低い。一日程度の誤差では影響が出ないから、最後の時間を好きに過ごしてもらうことにしようと思うんだ。もちろん、あっちが向かってくるなら予定は変わるけど」


「あ、あの! どうしても倒さないとダメなんですか?」


 私は恐る恐るナナシさんに意見した。だってこんなのおかしいもん。


「最後の時間を過ごさせる優しさよりも、相手が危険なら改心させた方が良いと思います! 転生者は人間です、話し合えばきっと分かってくれるはず……!」


「まあ、口頭で聞いてくれるならそれで良いけど、無理なら倒す必要があるだろう?」


「時間をかけて説得すれば絶対理解してくれます! 言うこと聞かないから殺すなんて、そんなのおかしいですよ」


「エルちゃん、確かに一度力に溺れても改心する転生者もいるよ」


「ですよね! だったら何としても……」


「けど、改心出来る転生者はそもそも依頼対象にならない。俺が来てる時点で、もうこの世界の転生者は手遅れなんだ」


 その言葉は冷たかった。ナナシさんが初めて放つ温度の無い言葉。

 吸い込まれそうな深い瞳の奥の感情は私には分からない。何を思って、何を考えて、何をしたいのか。私は、ナナシさんを一つも理解出来ていない。


「本来、自分の世界は自分の力でというのが大原則だ。わざわざ異世界の俺を頼るってことは、本当にどうしようもないことなんだよ」


「で、でも!」


「この世界の神は転生者に殺されてる。命を賭けた説得も、結局無意味だったんだ」


「一つも方法はないんですか……?」


「危険性がないと判断すれば必ずしも殺す必要はない。改心させるってのは確かに解決の方法ではあるんだ。それが出来ないから倒さなきゃいけないだけだよ」


「あの、転生者に与えた一日の時間で私が説得してみせます!  もしも成功したなら、ナナシさんが戦う理由は無くなりますよね?」


 ナナシさんとユーリちゃんは複雑な表情で顔を見合わせる。きっと、私はメチャクチャなことを言っているんだろう、二人を困らせるほどに。

 でも、退きたくない。だって、納得出来ていない。


 殺さなくていいのなら、戦わなくても救えるのならば、それが一番のはずだもん。甘い考えだと言われようと可能性があるなら、それを掴もうとするのはおかしいことじゃないもん。


「分かった。エルちゃんに任せるよ」


「ほ、本当ですか!」


「ああ。でも、失敗すれば容赦無く戦闘に入る。それだけは分かってくれ、一日以上は絶対に待たない」


「……分かりました」


 時間を貰った、ナナシさんは私の頼みを聞き入れてくれた。この時間を無駄にはさせない。

 自分に必ず改心させる力があるなんて思ってない、でもやれることは全部やる、一生懸命やる。


 一度は世界を救った人間。絶対に改心の余地はあるはずなんだ。

 私は気合いを入れる。ただのサポートではない、私の活躍次第で死者を出さずに世界を救えるかもしれない。


「失敗しても気に病まないようにね。君が悪いわけじゃないから」


「大丈夫です、必ず成功させます!」


 根拠のない言葉を言う私の頭を、ナナシさんは目を細めながら優しく撫でてくれた。


「な、なんですか……?」


 少しだけくすぐったいが、それ以上に気持ちが良かった。照れ臭くなった私は顔を下げ、ただ撫でられた。抵抗しようとは微塵も思わなかった。

 それはほんの少しの時間でしかなかったけど、私は心が満たされていくような気がした。


「さて、もう少し歩くよ。一時間くらい歩けばターゲットに接触出来るはずだ」


 ナナシさんの手が離れる。僅かな物悲しさを感じながらも、私はユーリちゃんと並んで後ろをついて行った。


「ねぇ、エル」


「なぁに、ユーリちゃん?」


 ユーリちゃんが、前を歩くナナシさんに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声量で話しかけてくる。

 私はユーリちゃんの横顔に視線をやると、少しだけ悲しそうな表情をしていた。元々ユーリちゃんはポーカーフェイスというか、あまり表情をコロコロ変えるタイプではないと思うんだけど、だからこそ少しの変化でもハッキリと分かった。


「ナナシってさ、必ず異世界に来ると食事をして、ちょっと長い距離を歩くんだ」


「そうなんだ。ルーティーンみたいなものなのかな?」


「違うよ。ナナシはその異世界を見てるの、思い出を作ろうとしてるの」


「思い出……?」


「美味しい料理、綺麗な景色、そこの世界の人たちとの会話。ナナシはそれを思い出として記憶に残しておく。人を殺した記憶だけじゃ、あまりにも悲し過ぎるから」


「…………そう、だね」


「エルには勘違いしてほしくないから言うよ。ナナシは、何も楽な方法だから転生者を殺してるわけじゃないんだ。他に方法がないから、そうしているだけ」


 私はナナシさんの背中を見つめる。前を歩いてくれる大きな背中を。

 分かっている、ナナシさんだって殺したくて殺しているわけじゃないんだろう。まだ出会ってから全然時間は経っていないけど、それくらいは分かる。


 そう考えると、私は無神経に酷いことを言ってしまった。まるでナナシさんが改心を諦めて殺しているような言い方、自分ならば改心させることが出来るみたいな言い方をしてしまった。


 私なんかより、ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっと、それこそ言葉では言い表せないほどに転生者狩りとしての仕事をしてきたナナシさんに、転生してから二十四時間も経過していない新米天使の私なんかが、根拠もない絶対という言葉を用いてしまった。


「エルを責めてるわけじゃない。エルは間違ってないよ、でもナナシだって間違ってない。納得は出来なくても、理解だけはしてあげてほしい」


「ユーリちゃん……うん。私も無神経だった、後でナナシさんに謝らなきゃ」


「謝るのは、仕事終わってからがいいと思う。説得、ユーリも応援してる」


「ありがと。説得成功させて、全部終わったらナナシさんに謝る」


 ユーリちゃんは応援してくれる、ナナシさんも許可を出してくれた。少なからず、二人は私に期待を寄せてくれているということだ。


「エル、もしも戦闘になりそうならユーリかナナシにすぐ知らせて。何が引き金になるか分からない」


「約束する。私も強くなってるとは言っても、勝てないんでしょ?」


「うん、絶対勝てない。負けもしないだろうけど」


「負けもしない……?」


「エルをサポート役として同行させたのもそれが理由。神の力を本気でぶつけられることになれば、並の天使じゃ一瞬で消滅する」


 並の天使なら、というユーリちゃんの言葉から察するに、私は並の天使じゃないってことなのだろうか?

 そう言えば神様も、上位戦力のユーリちゃんやミカさんのような存在を除けば、サポートすることが出来ない的なことを言っていたっけ。


「ユーリたちの天界に存在する天使は、別世界の天使と比べても遥かに強いの。でもやっぱり神級の力を全員が全員持ってるわけじゃない、ナナシに同行出来る天使は限られてた」


「サポート役として同行を命じられた私って」


「エルはかなり特殊なんだよ。攻撃力とかに関しては一般的な天使の水準くらいだけど、防御面、耐性面では異常な力を持ってる」


「防御面、耐性面……」


「ユーリだってエルの力の全容を把握しているわけじゃないけど、ザッと見ただけでそのヤバさは分かる。最上位級の神だって、エルを殺すのは一筋縄ではいかないと思う」


「そ、そうなんだ……言われても全然実感とかはないけど」


 正直、言葉で凄さを言われたところで理解するのは無理だ。そもそも神の力自体を目の当たりにしていない、どの程度のモノなのかが分からない以上、それに耐えられるということの凄さだって分からない。


 無限に広がる世界全てを書き換えることが出来るって言われるより、パンチで壁でも崩してくれた方が力の強さは伝わる。


「えっと、私の防御面ってどういう感じで凄いの?」


「受ける攻撃が異常であれば異常であるほどにエルはダメージを受けない。針で突かれたら血は出るけど、宇宙が壊れる衝撃を受けても傷一つ付かないよ」


「常軌を逸した攻撃の方が効かないってわけね」


「世界改変級の力を持つ神の攻撃なんてエルに通るわけがない、まあエルの攻撃もあっちには通らないけどさ」


「なるほど……」


「後は干渉の完全無効化。どんなに凄い防御能力を持っていても、あっさり干渉されれば意味が無いの」


「干渉される?」


「世界を改変するのと一緒で、自分の好きなように全てを変更する。不死身の能力でも殺せるようにしたり、攻撃が絶対命中するようにしたり、相手の力を無効化したり、とにかく何でも思い通りに変更出来る」


 インチキな力。幼い時に鬼ごっことかでバリアーを張ったり、それを無効化したりと意味の分からない力を勝手に言って使っていたことを思い出した。

 所謂、言ったもん勝ちの何でもありゲーム。幼いからこそ許されていた戯言が、実際に起こり得るということか。


「神を相手にするには、干渉を無効化しないと戦うことすら出来ない」


「干渉の拒否さえ出来れば、とりあえず好き勝手にされることは無いんだね」


「出来ればね。神の力がピンキリって言った通り、干渉力も神によって全然違う。神中位に神下位は絶対勝てないって言ったでしょ? それは凄まじい干渉力さえあれば神が神に干渉することだって可能だから」


 そこで私はようやく、位が上の神には奇跡が起きても絶対に勝てないという理由が分かった。

 中位と下位には『相手への干渉を可能にするほどに差がある』なら、どんなことが起きても勝てはしない。


 ユーリちゃんの説明を聞く限りでは、干渉さえすれば相手の生死すら自分に決定権が渡る。殺すも生かすも自分次第。


 敵の攻撃は全部効きません、敵の能力は全部意味がありません、敵は今すぐ死にます、という無茶苦茶も通すことが出来るんだ。


「エルの干渉拒否は超高性能。最上位神の干渉すら受けはしないと思う、そして異常攻撃に対する防御力。エルのスペックを簡単に説明すると、敵を倒す気がないけど自分も死ぬ気がないって感じ」


「ナナシさんの同行者としては、最適な強さを持ってるってことなのかな」


「うん、そうだね。例えエルが狙われようが人質にされようが、死ぬことはないからナナシが好きに戦える」


 心の不安の一つが取れた。

 転生者を殺さなくて済む方法を探したい、血を流さなくてもいいように説得したいというのは心からの言葉、紛うことなき私の本心だ。

 でも、自分が死んでは元も子もない。一度死んでいるとは言っても、死んだ時の記憶がないのだから死んでないも同然。

 極々当たり前のことを言うようだけど、私は死にたくない。


 ナナシさんのサポートをするということは、転生者との戦いに身を置くことでもある。ナナシさんが戦うとは言っても巻き込まれないとは限らなかったし、私自らが心の声に従って説得を名乗り出てしまった。

 説得は絶対に成功させるつもりではあるが、もしも失敗し相手を激昂させてしまい、そのまま殺されるのではという不安はゼロではなかった。


 自分は死なないんだ、と思うと心は少しだけ軽くなった。


「おーい、二人共大丈夫か? 歩くペース落とそうか?」


 前を歩くナナシさんに随分と離されていたことに、声をかけられ始めて気がつく。ユーリちゃんは大丈夫と返すと、私の手を握った。


「ナナシは、察して距離を開けてくれたんだよ。ユーリとエルが話せるようにね」


「そうだったの?」


「エルのこと、ナナシは大切にしたいと思ってるよ。だから、エルもナナシのことを少しずつでいいから分かってあげてほしい」


「……うん!」


 ナナシさんは、確かに転生者の多くを殺してきたのかもしれない。でも、ナナシさんは殺人鬼ではない。

 距離を開けていたのは私からだ、私はナナシさんのことをもっと考えないといけないんだ。あっちも、きっと私のことを考えてくれているんだから。


「今行きます!」


 私はナナシさんに駆け寄る。ナナシさんが言うにはもう少し歩けば転生者の居るところへと到着するらしい。


 まずは辿り着いたら説得を試みる。上手くやってみせる。

 ナナシさんだって、本当は殺したくなんてないはずなんだ。私が説得を成功させれば、誰も血を流さず、誰も悲しい思いをしなくて済むんだ。


「なんか、ちょっと元気になったねエルちゃん」


「気合いを入れ直したんです、ふんすって感じで」


「ふ、ふんす……? よく分からないけど、頼もしいよ」


「はい!」


「そろそろ着くけど、まずは転生者に俺たちの目的を話す。それから一日与える、そこからはエルちゃんの出番だ」


「目的を話すって、つまりは改心しなければ倒すってことを説明するんですか?」


「もっと直球に言うけど、そんな感じだ。優しく接するつもりはない」


「……分かりました」



 それから歩くこと十分程度。辺り一面原っぱの街の外れに建っている、それなりに大きな屋敷へと辿り着いた。


 屋敷の外には一人の若い男性と、ピンク色の髪をツインテールにした小柄な少女、黒髪ロングで長身の帯刀している女性、短髪で青髪の姫のようなドレスを着た女性の合計四人でテーブルを囲んでティータイムを楽しんでいるようだった。

 私たちが近付くと、四人が視線を向けてくる。女性たちはかなり警戒しているようで、いつでも戦闘に入れるように身構えていた。

 男性が女性たちに落ち着くように促すと、自分は席を立ちこちらへと歩み寄る。


 ナナシさんは一歩前へ出る。男性はナナシさんの目の前で足を止める、二人の距離はニメートル程度しかない。


「初対面……だよね? 僕に何か用?」


「転生者のコウってのは、君で間違いないか?」


「ふむ、どうして僕の名前を? あんた誰? 何か目的があって来たんだよね?」


 空気が張り詰める。喉が乾く。二人の間に流れる緊張感が、私の鼓動を早くさせる。


「俺は転生者狩りのナナシ」


「転生者狩り……?」


「ああ、そうだ」


 ナナシさんは一拍置いて続きの言葉を言い放つ。



「君を殺しに来た」

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