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14.シンバシ・シュラバーズ

 いみじくも古人はこう言ったらしい。


――人生至る所修羅場あり……。(違うだろ?)



     * * *



 迫神は面白くなかった。


「ぴんふ~。どうして、そんなに荒れてんのさ」

 彼はライドオフした勢いで、行きつけのカラテ・ジムに直行すると、爽やかなとは決して言ってはいけない冷や汗を、周囲まわりにかかせまくってみた。いきなり山には行けない以上、これがもやもやを追い出す定番だ。

 だがしかし、今日ときた日には、死体の山を積み上げたところで、不完全燃焼感はなくならなかった。

 遠慮を斟酌しなくていい唯一無二とは言わないまでも数少ない悪友である、小学生のときからのカラテ仲間の啓介けいすけに、一応防具をつけさせた上で、気持ちよくボロカスにぶん殴ったり、たまに逆襲されたりしながら自らも山ほど汗をかきまくってみたところで、いつものようには、どうにもスッキリしなかった。


 アイドルをやりすぎて、最近、ジムにもぽつりぽつりとしか来ていない啓介が、叫び声のような吐息とともに顔面防具フェイスをはぎ取った。


――荒れてる? 俺が?


 指摘されて初めて、自分がそういう状態なのだと気づいた迫神が、自分を指さして聞いてくるかのように小首をかしげた。


――こいつは、もう。


 啓介は天井を仰いだ。背中の床が気持ちいい。

 迫神は、裁判官様をやっているからというわけでなく、もともと滅多に荒れる、ということがない。自分が荒れていることにも気づいてない阿呆に、ほぼ一方的にやられた自分が恨めしい。

 アイドルなんていうものは、はっきり言わせていただいて、健康的の対極に日常があるということだ。もともと健康で、鍛えるのが大好きな、なんで裁判官なんかやってるのか分からない、元気すぎる迫神が恨めしい。


「それが、荒れてるって状態だよ、知らんのか、ぴんふの阿呆」

「荒れてない」

 迫神の名前の平和ひらかずを茶化して、麻雀のショボイ役の読み方であるピンフと呼ぶのは啓介ぐらいなものだ。そういえば、迫神に麻雀を教えてくれたのも啓介だった。雀頭待ちで平和ピンフあがりしようとすると、自分の名前の役ぐらい、きっちり覚えろよとか、(当時は)なんだかよく分からない言いがかりをつけて来るようなヤツだった。言いたくないが頭が悪いやつの要領を得ない教え方のせいで、迷惑をしたのはこっちの方だ。


「荒れてる」

 啓介が再び決めつけた。


「大体、防具つけろって言われたときに、警戒しとくんだったよ。俺は馬鹿だよなぁ。悪いけど仕事で鬱憤たまってるんなら、カワラと遊んでくれない?」

「自分の馬鹿さに今ごろ気付くか? 遅過ぎるぞ。三十年超過で生きてる癖に、粗忽者そこつものだな」

 迫神が取りつく島なく言うと、啓介は迫神が面白い冗談を言ったとでもいうように大げさにぎゃははと笑った。啓介の馬鹿さについては確信がある迫神は、そこにうける啓介のめでたさに、逆に毒気が抜ける。


「俺は、お前をボコりたかっただけだ」

「だから、そういうのを、荒れてるって言うの」


 迫神が肩をすくめた。


「俺はきちんと、遠慮なく殴れるお前を選んでるんだぞ、冷静だろ…」


 別に、迫神はジェントルを気取っていて穏やかにしているわけではない。空手なんぞをやっちまったせいで、自分がフルパワーで素人さんをぶんなぐったらどうなるか予測が付けば、その辺にたむろしているチンピラ程度にすら元気に喧嘩を売れないだけだ。

 男として、どつきあい自体が嫌いではない。ということは、結局、鍛えたことの意味があったのかどうなのか分からなくなる。正直悩む。もっとも、職業柄、喧嘩沙汰で御用になれば失職が待っているのは想像にかたくない。結果として、ブレーキを利かさなければいけないのを選んで正解だったのかもしれない。

「なんで、俺を選ぶんだよ。ひでー男だな、ピンフ野郎、最低」

「仕方ないだろう。遠慮せずにぶん殴れるのが、お前ぐらいなんだから」

「そりゃそうだ。師匠相手じゃ、お互いボッコられるほうだもんなぁ」


 もう一つ啓介は元気に笑ってそれから、突然真面目な顔つきになった。迫神が見ても啓介はビジュアル的な意味合いでいい男だ。こいつにとって顔が商売ネタだって知らなかったら、頭もなぐってやるのに……と、やはりこれが相手でも不完全燃焼感が残るのだ。


「上手くいってないのか? 例の三分の一……」


 シンクロライドで世界に冠たる名山に入るのも悪くないが、啓介と一緒に週末に丹沢辺りまで出掛けるのも迫神は好きだ。友達付き合いの幅が狭いといわれればそれまでだが、カラテにしろ、山登りにしろ、一人だけの趣味なら続いていたかよく分からない。

 男は強くならなくちゃという啓介のアジテーションに引っかかって一緒にカラテを始めた。山男だった啓介の父親と三人で、週末登山を楽しんだのが、山が好きになったそもそもだった。

 啓介はたかが小学校の単元テストで十点台を採れるような筋金入りの頭脳不自由児だったくせに、顔と性格とスタイルの抜群さで、ガキの頃からよくもてた。

 嘘のような本当の話だが、街でスカウトに引っかかりビジュアル専用のモデルとしてデビュー。すぐさまトップモデルに上り詰めたのを皮切りに、大根の癖に俳優業に乗り入れ、オンチの癖にアルバムはオリコンチャートの上位に乗ってくるような、とんでもない強運の持ち主なのだ。

 念の為に繰り返すが、百点満点で十点台の脳みその持ち主なのだ。そうであるにもかかわらず、ドラマの台詞は覚えられるものらしい。職業意識というものはかくも素晴らしいと言うべきか…。


 多分、あのマッチョな相澤だって地味な自分と、見かけド派手な啓介を並べたら、向こうを選ぶに違いない。


「そういうわけじゃない。基本……、やらされてることは半端なくたまりまくった少額訴訟の判決言い渡しだから、今やってることと大差ない」

 そう、本当に大差ない。大差ないことが、認識はしていなかったけれど、迫神の不満といえば不満だったのだ。部屋に帰れば、四畳半の畳の上に、でんと鎮座している棺桶が、既に三分の一を異世界に供出していることを思い出させる。


 苦学してやっとこさっとこ司法試験を取って、それでもこっちは官舎の四畳半が住処なのだ。変化を求めておっ始めた三分の一とて、宇宙の辺境でニワトリの所有権に関しての判決に頭をなやませている始末だ。何にも考えてないこいつが、あんなに可愛い女房がいて、かわいい娘も授かって、青山の億ションで優雅な生活をしているのは不条理だとつくづく思う。


「分かった、たまってるんだ。三十面さげて、独身貴族だなんて悠長なこと言ってるからさぁ。だからさっさと女作れってアドバイスしてやってるのに」

 啓介が暢気に言った。作ろうと思ったら、その日にダース単位で浮気も可能な自分を基準にするなと、心の底から迫神は言いたかった。


「独身貴族って、いったいいつの死語だそりゃ。今どきは嫁さんもらってる方が勝ち組だって」

「ピンフは脱げばいけてるのに、何だか服着ると地味だからなぁ」

「お前と一緒にするな。俺は普通ノーマルだ」

「仕事やめちゃえば? いっそのことヌードモデルとかすればいいのに」

「だれがするか、そんなもん」

 大体、自分が脱いだところで金払うような奇特なやつは世の中にいない。胸をボタンを一つ多く外しただけで写真1枚の値段が跳ね上がり、アホみたいに稼げるんだ、こいつは。バカの大特権で自分を基準になんでも考えやがるのは勘弁してほしい。


 啓介としゃべっていると、世の中に数ある訴訟ごとのドロドロに人生を浪費している人間と、この憂いなし(サンスーシー)野郎と、同じ空気をすって生きているという、余りにもの不公平に呆然とする。

 どーせフェイスをつけているのだから、下手な同情などせず頭に蹴り入れてやればよかったと、迫神は心底思った。啓介ならば、少なくともこれ以上の馬鹿になる心配だけはない。


「まあ、一杯飲んで帰る? 殴られ賃に奢られてやるぜ」

 迫神が笑った。

「なんで貧乏人にたかるよ」

「しがないアイドルに、判事様の安定した給料はうらやましいわけよ」

「……ふざけろよ。奢られてやる」

「だったら、落ちぶれたら女房子供ごと面倒みてくれよな」

「割に合わない……」

 迫神が不満を表明すると、啓介は笑った。

「ピンフみたいなやつは、さっさと思い切らないと、独居老人、孤独死コースじゃん。いくらピンフとの付き合いが長くても、可愛いうちの理利菜リリナは、いくら当人からピンフのファン申告あっても、絶対嫁にはやれねぇし」

「だれが五歳の女の子嫁さんにするかよ」

 どういう理論の飛躍だか、付き合いきれないことだけ間違いない。ビジュアル極上の啓介に似た理利菜ちゃんは確かに可愛いが、二十年後もしがない独身をしている親父の親友なんぞにゃ惚れてくれないだろうし、若いのは向こうさんなのでお育ちになった暁に選択肢に入れられんこともないとは思うが、この阿呆が義父になってしまうという深刻なリスクがある。誰がするか、そんなもん。


「飲みに行くなら、やっぱ、あっこかねぇ……シンバシ高架下~♪」

 おしゃれなスポットは啓介の鬼門だ。おちおちしてたら、あっと言う間に人だかり、将棋倒しでも起きた日には寝覚めが悪いことこの上ない。

 何度か挑戦された再開発の甲斐もなく、若い子向けのスポットができたとしても、どうも新橋高架下の垢抜けなさは変わらない。前時代的な古き日本の懐かしい風景として保存しようという、わけのわからない計画も聞いたことがある。シンバシ高架下飲み屋街は洗練とはかけ離れた雰囲気でずっと健在だ。

 一般人が宇宙に行く様になっているご時世になんとも昔なつかしい昭和を引きずった町並みが生き残っている。

 それは迫神が生息する東京地裁が、しつこく千代田にあるのと同じくらい、厳然とした事実だ。どこか泥臭いあの雰囲気の中では、アイドル・ケースケではなく、幼馴染の啓介でいてくれるような気がする。




     * * *




 保志美耶子は目ざとかった。その日の美耶子先生は、この間迫神に案内してもらった串焼きが余りにも美味だったので、桐谷の慰労とどら息子への家族サービスをしようといきなり思い立った。メッセージをいれたら「大丈夫だ」という珍しく素直な返事が穣太から返ってきたので、気分よく早めに仕事を手仕舞にした。

 新橋駅烏森口で息子をキャッチすべく網をはっていると、なんと、可愛い、素直、いい身体カラダと三拍子そろって、すっかりファンになってしまった迫神が、彼より数段やぼったい格好をした友達らしき人物と連れ立って、のそのそ改札を出て来るのが見えた。


 視界が狭いのか、それとも美耶子がいるなんて思っていないのか、目の前を通りすぎていこうとする、その態度が気に入らない。美耶子は手を伸ばして、迫神の袖口をむんずとつかんだ。

「うわっ」

 迫神が奇妙な声を上げた。


 いきなり知らない人間から手を出されたら、だれだって驚く。けれど、迫神のその反応に、隣にいた野暮天がげらげらと笑いだした。どうやら迫神の友達は笑いの沸騰点が低いらしい。

「無視するなんて、いい度胸ね。半六ちゃん……」

 言われて迫神は、その手の持ち主が保志美耶子だと気付いた。

「み……美耶子先生?」

「なに、ピンフの彼女? キレイなおばさんだけど」

 おばさんという啓介の発言に、美耶子の柳眉が逆立った。

「……だれ、この失礼な坊やは。せがれと同年配のレベル以上から、おばさん扱いは許さないわよ」

 美耶子はむんずと啓介の胸ぐらをつかんだ。スーツを着て、髪の毛を固めて、ハイヒールの弁護士美耶子でないときは、日ごろの反動からか、どうしても態度ががらっぱちになる。笑っていた啓介のダサイフォルムの眼鏡がずれる。

「あ……、リッパー・ケースケ……?」

 女ゴコロを引き裂くリッパー・ケースケといったら、イケメンに似合わぬ阿呆ぶりがなぜか受けて、バラエティ番組にもよく登場してくる、いわゆるタレントだ。ダンスも踊りも息子のほうが余程いけてると思うのだが、どこか突き抜けたオーラが確かにあるのだ。初めて間近にみたわけだが、悔しいことに至近距離で見てもいい男だ。


「げっ……、女弁護士・保志美耶子だぁ。えらく若作りに化けてるけど……おい、ピンフお前、職業柄こんなのとくっついたら、えらくまずいんじゃねえの?」

 ほぼ同時に、啓介の方もタレント弁護士の美耶子の正体に気付いたらしく、わけのわからない突っ込みを入れて来る。けれど迫神はタレント専用弁護士と地裁の判事が親しく(そのつもりは迫神にはないが)個人的に付き合うのは問題があるのではと指摘したことの方になぜか感動した。

 啓介ほどの非常識人でも社会人生活十五年を超過すれば、最低限の常識ぐらいは身にくのだ。芸能界などというところが、社会常識育成に適した土壌ではけっしてないにもかかわらずだ。


「なんで半六ちゃんが、こんなのといるのよ」

「なんでピンフが、こんなのと知り合いだよ」

 右方向から腐れ縁の親友と、左方向から実のところまだ雰囲気すら掴みきれていない上司のお内儀さん。二人から同時に迫られて、迫神の思考回路は停止フリーズした。


「母さん、旨い飯食わせるっておびき出しておいて、若いツバメを紹介するつもりなら、俺、そういうの趣味じゃないから、帰るぜ……。リアルオヤジとだって、慣れあいメシなんかしたことないのに……」

 声がした方に視線をやると、目の前に一人のチャラけた若造が立っていた。シャラシャラと何十にもつけた細い金属の腕輪の音を立てて、青年が鬱陶しい前髪をざっくりとかきあげ、顎をしゃくった。彼は不愉快そうな顔のまま、迫神を睨み付けて来る。


 よくよくみると美耶子に似ているその若造が、言うに事欠いてツバメといったのは、自分のことだろうか、それとも、啓介に対してだろうか。

 けれど、それより何より、その声に迫神は聞き覚えがありすぎた。あの、オマルの管轄下にあるとはとは到底信じられない、あのナンパなTAIの声だ。

「……セレの……声? なんで」

「セレってだれ?」

 啓介がぽっつりと言うのをきっちり無視して、美耶子と一緒に穣太を待っていて、今や、すっかり影が薄かった桐谷に、穣太は食ってかかった。

「イソ弁兼ツバメだったら、母さんが、わけわかんない男遍歴ふやすの、食いとめたらどーなんだよ。ヘラヘラ笑ってて気に入らないな」

 さすがの桐谷の顔が引きつった。

「穣太さん、それはないんじゃないですか。確かにツバメ兼用イソ弁って陰口叩かれてますけどね、穣太さんぐらい、美耶子先生がそんなふしだらな人じゃないこと、分かってるはずじゃないですか?」

「ふしだらだろうが、若いツバメを乗り換え、乗り換え、第二の人生エンジョイモードだろ」

 穣太が叫ぶと、啓介ががははと笑って迫神に抱きついた。

「なんだぁ、ピンフったら、やるこたぁやってるんじゃないの。ちょっとババ趣味は、俺としちゃいただけないけど、人の情欲にはいろいろあるしなぁ。お前がちゃんとやることやってて、俺の理利菜の貞操がおびやかされなきゃ、めでたいめでたい」

 ケースケの五歳の娘が理利菜というのは、タレント御用達弁護士の美耶子には一般常識だ。

「えっ、半六判事って、ペドフィリアなの?」

 迫神が裁判をやっていて、何が我慢できないって、(それでも我慢するしかないのだが)幼児相手の性犯罪と虐待だ。

「違いますっ」

 思わず大きな声が出て、迫神は美耶子の手をうっかりがっしり握りしめた。

「あ、やっぱり、半六ちゃん、いい手」

 思わず美耶子が迫神の手を撫でる。美耶子が他意もなくそんなことをするのに、迫神は前回でうっかり慣れてしまったので、またかという感じで振り払うこともせずに触られている。と、ケッと短く罵詈雑言にもならない思いを吐き捨てて、穣太が自分たちの塊から背中を向けたのが見えた。彼はすたすたと改札口を逆戻りしていく。

 この展開は、あの子が思い切り自分と美耶子の仲を誤解しているということで、それを保志などに伝えられたら、もう一段階えらいこっちゃになることは明白なわけで……。


 迫神が言葉を捜している間に、美耶子が息子を呼び止めた。

「……あら、穣太。今日ごはん一緒に食べようって言ったじゃない」

 美耶子が言うが、穣太の足は止まらない。


「幼女から、おばさんまで……か。やるなぁ……。俺は今までピンフの何を見てたんだろう」


 腕組みをしてうむうむと納得している啓介を見ると、迫神の堪忍袋が暴発した。加減なしのハイキックを啓介の後頭部にお見舞いするべく、そこ目掛けて鋭く繰り出した。


 防具も覚悟もなかった啓介は、そのヤバい気配を察知すると、とっさに両手を交差してがっしりとそれを受けとめた。が、手と足では手が負ける。かなりキレイに吹き飛ばされて床に沈んだ。


「あら、リッパー・ケースケって、カラテするんだ。見直しちゃおうかなぁ」


 美耶子が嬉しそうにつぶやいた。仁王立ちになっていた迫神は、どっと疲れて肩を落とした。


 世の中不条理だらけだ。雑用に追われ、いきなり出動を命じられ、ついでに覚悟が決まった直後に追い返され、TAIのセレには童貞ならまだしても処女などと言われ、美耶子先生にはからかわれ、多分保志総司官と美耶子先生の息子さんからは誤解され、空気を読む気がないポン友啓介には幼女から熟女までの節操なしという濡れ衣を着せられ、ついでに殴り倒す予定の、渾身の一撃をあっさり受けられた。


 ……やめてやる。


 生涯の仕事にしようと思っていた裁判官。その余りにも陰々滅々の気に、果てし無く続く人間の負の感情のぶつかり合いに辟易して、人がいなさそうなところに行きたいと思った自分が愚かだった。これは生涯の仕事と極めるべき裁判官に専業するべきなところを三分の一に浮気したたたりに違いない。


 ただ、平和に過ぎるニッポンで、普通の裁判官に銃火器をぶっ放す機会なんかそうそうない。だから、宇宙辺境観光もかねてのきっちり五年間、相澤さんから薫陶を受けて兵隊ごっこをして(もともと荒っぽいことはキライじゃない)、シンクロライドで二、三回記念に死んでみて(山ではもう死んだことはあるんだけれど)、日常に帰って来る。


「ピンフ……、お前、やっぱりたまってるだろ……。自家発電でとりあえずいいんだから、ちゃんと出しなさい……」


 懲りない啓介に向かって、迫神は握り拳をまっすぐに突き出した。


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