12.餅は餅屋に
亜衣里の棺桶置き場兼プライベートスペースになっている部屋で、法解釈うんぬんという、色気とは相当遠いところにある話をしている二人の、かなり長時間にわたって続いている会話を遮って、壁面モニターが数回点滅した。いやでもそちらに目が行く。
と、保志総合司法官の姿が大写しになった。
――迫神君、あいあい、お勉強タイムにじゃまして済まん。今日はまだ時間あるか?
保志の態度は、別に普段と変わったところがまるでなかったが、格好がどう見ても亜衣里が現場に行くときの突入服のようなものになっている。しかも何事も起こっていないようにのんびりみえる表情ながら、その動きは武装を整えつつあるのは明白だ。
「事件ですか? 保志総司官」
亜衣里は即座に、まったり勉強モードから現場出動モードに移行した。何だかんだ言っても、シンクロイドで死ぬことは、ゲームで死ぬのと同じくらい深刻さがないのだろう。生きてミッションを完うするのは、もちろん単純に気持ちがいい。シンクロイドが致命的な損傷を被って戦線を離脱すれば、当然悔しい。が、実際の生死とは、やっぱりかけ離れている偽物の死だ。
ミッションに臨むに当たって、SPだったころは、いつも多分背負っていただろう悲壮感というものが、現職になってからは全くない。ましてや、非現実、非常識の親玉のごとくな三分の一をや、である。
人質が射殺されてしまったり、現場投入が遅きに失した現場で、一般人の死体がごろごろしてたり、シンクロイドでもアバタロイドでもなかった生身の実行犯を、行動の自由を奪うだけで終わらせることができず、やむなく死亡させてしまった場合とか、もちろん、いろいろ落ち込むこともある。が、それは一応レアケースだし、根性で過去のものにしてやる主義だ。過ぎた失敗に囚われていたら、いい状態で行動できない。
この切り換えをばさばさできないと、ありがちな、心療内科のお世話になることになる、たぶん。自分はそう意味でどこか鈍いのだろう、人の命そのものというものに。でなければ、戦闘の気配を嗅ぎつけたとたん、全身がウキウキとざわついてくる、この状態の説明がつかない。
――うん。ルテチウム鉱山で、どうやらコソドロが出たらしい。上手いこと、坑道の入り口を封鎖できたんで、確保してくれっちゅう要請が出てる。普段ならソロなんだが、一応向こう五年間はチームなわけだから、いっちょチーム戦デビューと洒落こみたいんだが、付き合うか?
待ってました。とばかりに、亜衣里は椅子から跳ね上がった。
「了解です、装備します」
――悪い。あいあい、反応が鈍くなるのは分かるが、向こうに君が乗れる大きさのボディがないから、シンクロイドは迫神に譲ってくれ。君はアバタロイドで頼む。
「えーっ」
思わず不満を表明する声が洩れると、隣で小さく迫神が噴き出していた。失礼なやつ。
――そうそう、それから、私は前から言ってるが『餅は餅屋に主義』なんだ。あいあい、突入の指揮頼むぞ。
「……よろしいんですか?」
亜衣里が一瞬戸惑う。突入の現場で指揮を委ねられるということは、命そのものを預けるに等しい。こういう現場に保志が十分に慣れていることは、画面に映っている装備を整えているやり方を見れば疑う余地はない。彼にとってみれば自分はヒヨコぐらいだろうし、普通の男は女なんかに指揮を任せたがらない。これだけは間違いなく確かだ。
――現役のアタッカーの勘の方が、ロートルよりゃ頼りになる。
保志があっさり言ったので、亜衣里はむしろ狐につままれた感じがする。その様子を見て、保志が小さく吹き出した。
――わかった、白状しよう。どっちかっつーと私の気分はこうだ。『お手並み拝見』。あいあい、受けて立つだろ? 君なら。
保志も多分、生身で行く気はないのだろう。知死レベルのダメージを喰らう覚悟も、まあ、当然あるに違いない。それで精神病院送りにならないだけの自信も。
「ありがとうございます」
亜衣里は迷う必要がなかった。
「では、現時点での全ての情報開示を求めます」
――了解した。4444。この件に関して、あいあいのアクセスレベルは私と同列に。
短く保志が言うと、壁面モニターが了解したというように、短く二、三度点滅した。さっき、自分の注意を引きつけたときも「あれ?」と思ったのだが、どうも、保志は音声制御がキライなのだろうか。
とにかく、あいあいは、彼女が見慣れた指令車とモニター前と違って、コンソールパネルっぽいものが全然見当たらないので、音声指示にすることにした。
「SELEN4444。相澤speaking。認識してますか?」
――はい。standby完了してます。
いい声なことは確かな割に起伏が少なくて、確実に眠気を誘ってくる凶悪な迫神の声より、もっと平坦に聞こえる、いわゆる世間一般でいうことろの男声のTAIボイスだ。保志の印象からいって、なんとなく女声を使っているような気がしていたので、意外だった。
「時間短縮で、ミッション中の呼び名を使いたいのだけれど、なんて呼べばいいかしら?」
――セレで。
画面に映っていた保志が、何故だか軽くずっこけた様な気がするのは、何かの間違いだろうか。
「了解。セレ。保志総司官は保志さんでいいかしら」
――保志総合司法官のコードネームはろくちゃんですよ。相澤さん。
「ろくちゃん? そういうふうにお呼びして、失礼でないのかしら」
むしろ、がっつり機械ボイスが、馴れ馴れしく聞いてもいないことを答えてきた違和感が、なんとなく何かにひっかかったが、気にしない、気にしない。
――ぜー、はい、差し支えないと思います。オイ……えっと、私も相澤さんを、あいあいとお呼びしていいですか?
「もちろん」
一人と一台の会話を聞きながら、セレの現場好きには困ったもんだと、保志はつくづく思っていた。「ぜー」は絶対「ぜーんぜんオッケー」で「オイ」は「オイラ」と言いたかったに違いない。どういう制御をしくさってるのか分からないが、4444はどうやらインターフェース的にも、知らぬ半兵衛を決め込むつもりらしい。4444もこのテの現場には、セレという人格がしゃしゃり出ることに異存はないのだろう。
迫神に身体をとられているから、いつものヤツになるのは無理として、多分、飛閃を出せと言って来るに違いない。確かに坑道につっこむには飛閃ではデカすぎるが、中で片づかずに延長戦になり、外でのドンパチになってしまったら、飛閃は役に立つ。大体が、ここいらの者の中には全体として保志の愛機のファンは多い。たかがジャパニーズ・アニメの影響だとしても、侮ってはいけない。応援要請してきたLu−8坑の連中も、飛閃の勇姿を期待しているような気もする。
「セレ」
保志は声をかけた。
「なーに、ろくちゃん」
心なしかウキウキしているように聞こえるのは、気のせいに違いない。TAIだって結局のところAIにすぎない。嬉しいとか、楽しいとか、そんなんはない筈だ。うん、絶対にない。あってたまるか。――そう思いつつも、気心しれた仲間として、保志はセレを親指を立てた。
「路線変更。飛閃……出すぞ。耐Gカプセルにあいあい突っ込めるか?」
「窮屈だろうけど、何とかなると思うよ」
「4444、あいあいと半六が武装完了したら、飛閃の格納庫まで案内して。セレ、飛閃出動準備始めるように。お二人さん、耳は動くだろう。行動しながら聞いてくれ」
亜衣里は隣で鳩豆状態の迫神に視線をやった。
「保志さんが言ってる半六って……迫神さんのこと?」
迫神は苦く笑った。幾ら何でも、六法全書を半分も諳んじてなどいるわけがない。あの渾名は、完全に、若造のくせに爺むさくも説諭好きな自分を揶揄しているものに違いないのだ。
何で保志総司官は、自分のその渾名を知っているのだろうか。そう迫神は訝りかけて、速攻で打ち消した。彼は美耶子先生ルートを持っている……。ソースはそこに違いない。
この渾名の由来を聞かれたら何と答えればいいのだろう。一瞬構えたけれど、亜衣里はそこに全く突っ込んでこず、ただ迫神が半六ということで納得したらしい。サコガミもハンロクも、四音同士で全く短縮の意味はなしてないが、「さん」を省略できるだけマシなのだろうか。それならば普通に苗字から「さん」を抜き取っていただいて構わないのだが、それはそれで呼びにくいのかもしれない。
* * *
亜衣里の支度は、異常に早かった。そして、さっさと移動してしまっていた。置いてけぼりをくらった迫神は、マニュアルに従ってどうにかこにか支度を終えて、4444の音声案内に導かれて進んできた。
長い廊下のどんつきに、完全武装の保志と亜衣里が立っていた。二人とも、いつでも武装勢力とタイマンを張ってやろうじゃないかという、ふてぶてしさが漂ってくるほどに、その出で立ちがこなれている。ただ一人迫神だけが、どうにも音声ガイドどおりに着付けてみたけれど、という雰囲気でいる。
ここに来るようになってから暫くたつが、基本、法廷とそれにかかわる書類仕事に追いかけられている迫神だった。こういう格好をして、そういう現場に出るということがあるということを、うっかり忘れていたのは、断じて自分のせいじゃない。
「ルテチウムを知ってるか? あいあい」
保志が自分には聞かなかったので、迫神は若干面白くなかった。そんなもん、自分だって知らない自信がある。ちょっとばっかり法律を知ってるからって、何もかも知ってるという前提で、説明をハチにされてはたまらない。大体、セレのガイドでなんとか装備は整えたものの、着付けが果たしてこれでいいのかも分からないし、使い方に至ってはさっぱり不明だ。シンクロイドで死んだところで実害はないけれど、なまじっか端末の高価さを知っていると、そんなにあっさり壊して構わないものとも思えない。
「知りません」
噛みついて来る様に即答したのが迫神だったので、保志はちょっとだけ思考が止まって、それから徐に愉快になった。お前は知らないだろう、という前提で話されると怒る男は多いが、迫神は自分が知らないことを知っているという前提で話がされるのが不本意らしい。男にしては、珍しいタイプだ。
「イットルビア名物イットリウムと同じ、レアアースの一種。科学的性質もイットリウムに近い。我等がHRBでも、金・銀よりも採れるぐらいだから、希少性には若干欠けるんだが、ランタノイドの中では少ない。でも、それより何より、希土類元素からの分離に手間が掛かる」
亜衣里には、何がなんだかさっぱり分からない。
「分離に手間……」
少しだけ迫神が口にした。そして、思い切ったように続けた。
「つまりは、高価だってことですか?」
ビンゴ、なかなか分かっている。保志が頷いた。
「半六、正解。で、俺が何を言いたいか分かるか?」
高価なレアメタルを掘り出している坑道……。分からん。迫神は詰んだ。
「坑道は壊すなって……ことですか?」
と、横で亜衣里。
「あいあいも正解。優秀な三分の二に恵まれて私は幸せだよ」
「ろくちゃん、オイラは人数に入らないのね……」
軽い声が壁のあちこちに埋められているスピーカーから聞こえて、亜衣里はちょっとギョっとなった。
「紹介が遅れたが、セレは4444(よんし)が便宜的に使う擬似人格の名前だ。彼はちょっとばっかり、TAIインターフェースとしてはナンパなんだが、まあ、こういうもんだと思って諦めてくれ。君たちのどちらかが、ここのバッパーになった後は、いくらでも好きに弄って、落ち着いた人間仕様というものを教えてやってくれ」
セレが不満を表明してか、廊下全体の照明が点滅した。
「そうだ、ミッションマスター。さっき半六さんの支度見てたんだけど、この人、多分、銃火器バージンだよ」
「え?」
処女というのが迫神に相応しい表現かどうかは別として、非常にちゃんと理解できた亜衣里は、改めて迫神の武装姿をマジマジと見た。確かに板についてないにもほどがある。
「全然? 実践だけ未体験? 訓練自体がないの?」
「訓練自体、ない」
「……保志総司官……」
自然と亜衣里の口調が冷える。幾らシンクロイドでも、死ぬということのあの最低の気分は、好きこのんで味わうようなものではない。
「素人つれて、いきなり実戦って、どういうおつもりですかっ」
「いや……おいおい訓練していくつもりだったんだけど、現場が先にきちゃったから。この際OJTでと」
「そういうのはOJTとは言いません。ミッションマスターとして、迫神さんを連れていくのは却下します」
「……でも、人数多いよ。向こう」
「死体の数が増えるだけです」
亜衣里は迷わなかった。ちゃんと訓練して使えると判断してからでなければ、猫の手にもなりはしない。
「じゃあ、オイラ行きたい〜っ」
壁から、セレのウキウキとした声がふって来る。
「オイラ?」
亜衣里の神経に、何かがヒットした。
「……保志総司官……」
亜衣里がつぶやくように言った。
「何?」
聞き返すしかない。
「セレは普段あなたのバックを守ってるんですね……」
「……うん」
「迫神さんが使ってる身体に乗る形で」
「……うん」
否定はできない。セレはこんなやつだが、実際問題として現場では非常に頼りになるのだ。
「迫神さん、すみません。今日は帰ってください。セレに代わって」
「……それは、保志総司官の判断でも……それでいいなら」
迫神にしても、一応、そういう現場がある覚悟はしていたし、右も左も分からないなりに、防具を身につけ、武器をホルスターに装着しながら、一応、その気にはなり始めてたところなのだ。
「この現場は私が仕切ります。保志総司官より今は私の判断が優先です。そうですよね、ろくちゃん」
亜衣里の目が座っている。保志は抵抗を試みようとして諦めた。
宇宙の坑道の現場なんて、まず、九割方、地球化されていない。つまりは、どうせ攻めるも受けるも生身なんかいやしないのだ。つまりはゲーム感覚での対応もあながち間違いではないのだ。しかし、地球の生肉ばっかり相手にシビアな闘いに日々勤しんでいる、場数踏みまくりの亜衣里には、そういうおちゃらけたノリは考えられないようだ。
「も……もちろん。この現場は、あいあいに渡した」
睨み付けられた保志が、半分引きがちにそう請け合ったので、亜衣里は漸く迫神に向かって微笑んだ。
「では、迫神さん、今日はお疲れさまでした。シンクロライドで闘うのだから、ゲーム並みの感覚でいいのかもしれませんけど、少なくとも捨て駒ぐらいの働きができるレベルでないと邪魔なんです、ごめんなさい。私、ふだんそこ張ってるんで」
捨て駒すらできないレベルと言われたらそれまでだ。
「……条件があります」
「……条件?」
「今やってる司法試験勉強の時間の半分、相澤さんの得意分野の方の、私の訓練に充ててください」
亜衣里は迫神を見た。悔しそうな色がなんとなくある瞳に、強い意志が見える気がする。迫神は熱いところがなさそうな、説教臭いのが似合う、まさに裁判官そのものといったふうでいながら、バッパーなんぞに登録しているだけあって、未知の領域にずかずか進む、つまり前向きに自分を鍛えていくことを苦にしないタイプの男らしい。亜衣里は破顔した。
「ええ、もちろん。どうやら、私たちの指導者であるはずの三分の一教官は、余り私たちを育てる気はなさそうですから、自分たちで育つっきゃなさそうですね」
思い切り厭味になった口調に、亜衣里自身がちょっとビックリした。どうやら自分は、保志が迫神に裁判仕事を全部押しつけているように見えるのと、自分にはろくに仕事を割り振って来ていない、御座成りが見え見えの態度に、相当鬱屈が溜まっていたらしい。
保志がぽりぽりと鼻の横っちょを掻くのが見えた。辛辣な自分の言葉に別に怒るふうでもないのは、面倒仕事を迫神におっかぶせている自覚が十分あって、それを多少後ろめたくも思っているのだろう。
亜衣里は、いやなおっさんだとも思うものの、なんとなく憎めない感じもしてきて複雑だった。
「4444、帰ります。ディスマウント」
迫神が言う。と、一瞬だけ、立ったまま迫神が奇妙に揺れた。そして次の瞬間、そこには迫神の身体をして、迫神そのものでありながら、奇妙なほど別人の雰囲気をまとった人物として、迫神が立っていた。亜衣里はビックリして、その見知らぬ迫神を見つめる。
視線がぶつかると、迫神がにっこりと満面の微笑みを浮かべた。そんな笑顔の迫神など見たことがない。不覚なことに亜衣里の胸が、思わず知らず、どきんと高鳴った。
「はろ〜、あいあい。オイラずーっと、おしゃべりしてみたかったんだ。ろくちゃんってば、ズルいんだもん。これからはちゃんとオイラもヨロシクね」
迫神の声が、迫神とは似ても似付かぬしゃべり方をしたので、亜衣里はずっこけそうになった。迫神の身体が、二歩、三歩と近付いてきて、亜衣里の目の前で止まる。そして、彼女がセレに全く慣れていないのにつけ込んで、亜衣里の頬に馴れ馴れしく手を添えた。と、ちょいと背伸びをして、それから顔を寄せ……。
外国人が頬に挨拶のキスをするのは知っている。けれど、迫神がそんなことをするのは見たことがない。きっと……これがセレ? 挨拶と分かっていてもちょっとドキドキするのは、何故だろう。迫神が使っていた身体だからだろうか。
亜衣里の予測を完全に裏切って、セレは彼女の頬などきれいさっぱり無視すると、その唇に思いっきり深々と迫神のそいつを重ねてきた。暫く、亜衣里は何が起こっているのか分からぬまま、断じて挨拶なんかではない濃厚な接吻をされるがままになっていた。が、状況を把握するや……。
「何をするっ」
亜衣里は、迫神の身体をした物体を腕の力で突き放し、そいつの襟元をとっさにむんずとつかむと、体をうまく流し込む様にして入れ込んで、女性とも思えぬ、見事すぎる一本背負いを決めた。
「あ……、あいあい、すごい♪ さすが柔道五段」
――嬉しそうに投げ飛ばされるな……こいつ。
保志は天井を仰いだ。気のせいでなく頭が痛かった。美耶子の身体でセレに迫られると、非常に脱力するしかないのは、経験として実感がある。セレにも悪気はないのだろうが、どうにも最近おふざけが過ぎる。しかしなんだろうな、と保志は思った。亜衣里が迫神の身体のままのセレに唇を奪われて、一本勝ちを納めるまで、微妙に時間が長かった気がする。とすると彼女的には、迫神という存在と肉体的接触を持つことに、忌避感は全くないということなのだろうか。
以前セレが職場内恋愛うんぬんと抜かしていたときに、男の生理は恋情とは一致してないの原則に基づき、一笑に付してやったのだが女は違う。直感的に厭だったものはとにかく厭。指一本どころか、同じ部屋の空気を共有するのも拒否りやがるのが連中だ。
直感とか、そういう空気を読むとかいう感覚まで、セレの野郎が上とは、保志は断固思いたくない。思いたくないが……やつの直感勝ちか? それとも、やつ自身が擬似人格が男であることの証明に、単純に現状手駒の中にいる紅一点ということで、亜衣里に惚れてみたとかいうつもりなんだろうか。基本肉体がないんだから、魂の所在証明として肉持ちに惚れる必要はないはずなんだが……。とにかく、セレが初対面からTAIのくせに、ただの召使という立場から随分はみ出していることをアピールしてしまったことだけは確かだ。
お試し期間に犠牲者に逃げられないように小細工して、直接接触を邪魔してきたのが、どうやら裏目に出てしまったようだ。もっとも。
――歌って踊れて、受け身もできる。……褒めてやろうじゃないかっ。