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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第三章 魔窟編(上)
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孤高

 にわかに曇りだした空は光を遮り、辺りを暗くし始めていた。


「何がどうなっているんだ……いや、何かの誤解という線も……」


 私と師匠は護送用の馬車に乗せられて王城へと向かっている。

 師匠は出がけにアイリスへ心配はいりませんと言い残して……


 車内で師匠は目を閉じて、沈黙したまま何も話そうとはしなかった。


 ただ一言……


「何も聞かないのですね……」


 どこか寂しげにそう呟いくのだった。


 私には混乱しかなかった。

 これは……聞いて欲しいという事か? それともあえて聞かない度量を見せるべきなのか?

 それでも何か返さなくてはと思った私は……


「師匠は私が幸せにします」

「……意味がわかりません」


 そう言ったきり師匠は瞑目したままで、私はどうしたものかと思案しながら馬車に揺られていく。

 そんな状況の中、馬車は城門へと到着していた。


 隊長達と共に城門をくぐって中へと入る。

 そこで待っていた藤乃に引き継がれると、私たちはそのまま会議室へと向かった。


 会議室には先客がいた。散華ちゃんと蓮華姉さんだ。その後ろへ藤乃が護衛として控える。

 ツヴェルフさんはいなかった。まだ怪我が治っていないのかもしれない。おそらく教授の所だろう……後で様子を見に行こう。


「来たか……座ってくれ」


 散華ちゃんに促されて私達は座る。

 いつになく重い空気に私は戸惑っていた。


「早速だが……先ほどフレイアから急報が届いた。アルフヘイム王都の宝物庫が襲われたそうだ。犯人達は捕まって何も盗られなかったそうだが……多数の被害者がでたらしい。こちらからも折り返し詳細を確認したのだが……」

「それは……もしかして、いや、まさか……」


 エリスとアリシア先輩に関連しての事か? と私は勘ぐるが……


「いや、被害にあったのは護衛の兵たちでその場に居たエリス、アリシア、アルヴィトがその犯人をつかまえたらしい」


 被害に遭ったエルフ兵には申し訳ないが、私はほっと胸を撫で下ろす。


「だが、その犯人達なのだが……」


 散華ちゃんの言葉の歯切れが悪い。言いづらい事なのか?

 それに何故師匠まで呼ばれているのか……


「ここからは私が話しましょう」


 それを継いで、蓮華姉さんが話を進める。


「その犯人達なのですが……。どうやら暗殺者ギルドと呼ばれている者達だったらしいのです。そしてその捕虜二人をこちらで預かることになりました。名前はアウラとグレイス」


 それを聞いた師匠が驚きの為か、息をのむ。


「やはり知っているのですね……」


 一度蓮華姉さんは瞑目するとそれを告げた。


「はっきりと言いましょうアイリーン。私は貴女を疑っています」

「ちょっと……蓮華姉さん何を……」


 その穏やかでない言葉にさすがに私も黙ってはいられない。

 だが、それに反して師匠は黙したままだった。


「ソニア……これは一国の興亡がかかったとても重要な問題なのです」

「それはどういう……」


 本当に何がどうなっているのか、意味が分からない。


「オリンポス城が落ちた理由が判明しました。件の暗殺者ギルド、当人達は『断罪の剣』と称しているそうですが……その犯行でした。つまりはアイリーン、貴女の所属する教団ですね?」

「なッ……!?」


 驚いて思わず立ち上がり、師匠の方へ振り返る。

 だが師匠は私とは目を合わせようとはせず、瞑目して静かに聞くだけだった。


「……ですが、私も貴女を疑いたくはないのです。ここで詳細を話しなさい」


 それは命令だった。

 蓮華姉さんは追い込むように話を進めて行く。

 ここで逃げることは許さない。その意思が伝わってくる。

 それが最大限の譲歩なのだろう……それはわかる。わかるが……


「ええっと……。もっと穏やかに……ですね……話し合いを……」


 とりあえず意味がわからないながらそう言ってみる。


「ソニア……貴女にも関係のある事です。今は黙っていなさい」


 どういう事!? ますますわけが分からなくなった私は、言われた通りにおし黙る。


「その暗殺者ギルド……狙いはどうやら七識の書と言われる魔導書だという事です。もちろん貴女の青の書も含まれます」


 もう驚きしかない……つまり私の青の書が狙われているって事は……暗殺者ギルド?

 え、何? 私、殺されるの? もう何が何やらだ……


 混乱しかない私の隣で、師匠は静かにその瞳を開く……


「その様子ではもう大方の予想はついているのでしょうね……ならば私から話す事はありません」


 そう言ってそれをはっきりと拒んだ。その瞳は美しく決意に満ちてとても揺らぎそうにない。

 蓮華姉さんはそれを見て落胆したのだろうか……一つ息をつく。


「そうですか……残念です。ならば、しばらく身柄を拘束させてもらいます」


 おそらくこうした返答も想定していたのだろう。

 しかし、さすがにここは黙っていてはいけないと思い私は割って入る。


「ちょ……ちょっと待ってくださいよ! 師匠は何もしてないじゃないですか!? なのに拘束って……」

「それを聞くために呼んだのだ……。それを拒否するのであれば仕方あるまい……」


 散華ちゃんの声が私に届く。その声は硬く、不本意である事がわかる。わかってしまう……


「ソニア……良いのです」

「……!?」


 さらに当の師匠にまで止められては私は引き下がらざるをえなかった。


 蓮華姉さんは目配せをして藤乃が頷く。

 そして藤乃は師匠を連れ出すように会議室をあとにした。

 師匠は黙したままそれに従うのだった……


 って呆けている場合ではない! わからないが、何かをしなくては!


 私はそれを追って会議室を飛び出した。


「待って! 待ってください!」


 藤乃は止まってくれたが……


「……行きましょう」


 師匠はそのまま歩みを止めなかった。

 それがショックで私はその場に崩れる。

 ただ一言。


「師匠は私が幸せにする!」


 遠ざかる彼女の後ろ姿に向かって私はそう叫んでいた。


 それに振り返る事もなく師匠は行ってしまう。

 私の叫びは虚しく、ある種のもの悲しさを孕んで廊下に響いた……



 †



 追いついた藤乃はアイリーンを連れて城門へと向かう。


「良いのですか?」

「覚悟はしていたつもりですが……知られたくないことというのはあるものですね」


 アイリーンはその表情を隠すように俯きながら進む。

 胸を締め付けられるような痛みに耐えながら……


「ソニアに?」

「おそらく……上手く説明できそうにありません」

「そうですか……」


 それからは二人とも沈黙を保ったままだった。


 王城の門前で藤乃は待機していた先刻の護送用の馬車と兵に引き継ぐ。


「丁重にお連れしろ」


 隊長と副隊長の了承を確認すると、藤乃は王の守護へと戻っていった。

 こうしてアイリーンは収容所へと向かった。


 馬車でしばらく移動すると収容所が見えてくる。

 高い塀をくぐって中へ入ると、そこで同行した副隊長の女性が話しかけてきた。

 隊長は男性なので彼女が案内するのだろう。


「お姉さんも下手を打ちましたね……事情は知りませんが……」


 建物の中へと歩きながら、独り言のように彼女は続ける。


「知ってますか? この間までここでポニーテール学派やらツインテール学派なんてのが捕まってたんですよ。女神様の御使い……聖天使様って言うらしいんですけど、それがポニーテールかツインテールかで争ってたらしいんです。馬鹿ですよね……ウケる!」


 一人で思いだし笑いをしている副隊長だった……


 すごくどうでもいい話のようだ。

 もしかしたら慰めようとしてくれているのかも知れない。


 私がどう反応したものか困っていると、それを察したのか……


「いやほら、お姉さん美人だから……ポニーテール学派やらの勧誘に引っ掛からないでくださいね」

「忠告はありがたく受け取らせていただきます」

「他にも近く凄腕の暗殺者が送られて来るなんて話も聞きましたし……このところどうなってるんでしょうね」


 一介の兵士にまでその不安は広がっていた。

 事情を知る身の一人としてアイリーンは心苦しく思いながらも、想定よりも事態の悪化が急速に進んでいることを認識させられるのだった。


 そうして独房へと案内すると副隊長は去った。


 独房の簡易ベッドに腰をおろすとアイリーンは目を瞑り、現状の確認をする。


 凄腕の暗殺者とはアウラとグレイスのことだろう……

 まさか六剣聖が二人も捕まるとは……二人は六剣聖では割とまともな方だったと記憶している。

 

 先の副隊長の話では、ここへと送られてくるそうだ。

 これはもしかしたら好機なのだろうか……いや、そう判断するには早計がすぎるか……

 ともかく接触して話ができる状況を……


 ソニアの方は大丈夫だろう。心配ではあるが、彼女は多くの者に護られている。

 私とは違う……そう思うとなぜか悲しくなった。


「ふふ。おかしいですね……。嫉妬でもしているのでしょうか……まったく、あんなこと言うからですよ」


 師匠は私が幸せにする!


 別れ際のそのソニアの声が耳から離れなかった。

 まるで毒のように……心を侵食していく。それはとても甘美に響く。

 

 すでに私は幸せなのだと思う。


 だからこそ護らなくてはならない。護られなくてはならない。


「必ずや私の手で決着をつけます」


 独房で一人残されたアイリーンはその決意を誰にも聞かれないように口に出した。


 あの女は必ず私の許へ来る。


 それは信仰にも似た確信だった。



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