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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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サバイバル(九)

 ブリュンヒルデが持つ剣から何やら力が溢れている。

 これは……スクルドと同じなのか?

 だとしたら、ブリュンヒルデも呪い持ちか?


 いや、そう決めつけるのは早計だろう。

 ブリュンヒルデの剣技は本物だ。


 天賦の才というよりはこれまで培った確かな地力を感じる。

 むしろ剣の方からブリュンヒルデへ向かって力が働いている様に見える。

 となると私の青の書と同じ……


「魔剣か!」

「ほう……良く気づいたな。目が良いらしい。そうだ。これは魔剣グラム。私に勝利をもたらす剣だ」


 勝利をもたらすって意味が分からないな。

 もっとも、それが分かったところで、打つ手がないか……

 と思っていたのだが、考えれば何かしら案が浮かぶものらしい。


「閃いた……閃いてしまった!」


 そう、閃いてしまった。

 それはアラネアの蜘蛛の巣が引っ掛かって、その魔剣の切れ味が悪くなっていたのを見たせいでもある。

 アラネアの糸には魔力抵抗があるらしい。戦闘服「夜ノ女王」の素材にもなっている。


 それが魔剣の力を妨害していたのだろう。

 つまりアラネアの繭は結構な防御力なはずだ。焼かれさえしなければ。

 そして私には遠隔操作魔法マネキン、もといゴーレムさんがある。

 つまりアラネアの繭へ逃げ込めば一方的に攻撃できるのでは?


 そう思いつくと私はすぐさま転がる様にアラネアが顔を出している所から繭へ飛び込んだ。

 しかし……


「あっ、しまった……お尻が引っ掛かった!」


 マズイ……バタバタともがいてみる。

 ちょっと恥ずかしい……いや、実はかなり恥ずかしい。

 私のお尻が大きいからではない。そこに鞄があるからだ! きっとそうだ!


「ご主人様……何やってるんですか!?」


 驚きながらもアラネアが中から引っ張ってくれてなんとか侵入に成功した。

 ブリュンヒルデは呆気にとられたのか、動かなかった。

 まさか自分から罠に掛かるとは思わなかったのだろう。

 結果オーライだ。


「フハハハハ。油断したなブリュンヒルデ! 見よ、これこそ無敵要塞! このまま蹂躙(じゅうりん)してくれるわ! 行けゴーレムさん!」


 思わず笑みが漏れてしまう。もはや勝ったも同然だ!

 火炎魔法は厄介だが、とことん邪魔してやれば良いのだ!


 そしてゴーレムが組みあがるとブリュンヒルデに襲いかかった。


「何っ!」


 と最初こそ驚かれはしたが、ゴーレムは一刀のもとに切り伏せられてしまった。

 ブリュンヒルデに切り伏せられる度にまた作る。

 おかしい……名案だったはずなのに……

 私の魔力が先に尽きるか、ブリュンヒルデの体力が先に尽きるか……

 両者は持久戦へと突入していた。



 †



 華咲の剣技の応酬が一段落すると、しばしの静寂の時が訪れる。

 双方とも無傷とはいかず無数の傷を負ってはいたが、しかして致命打には至っていなかった。


「このままでは埒が明きませんね」

「姉様。手加減されていると思いますか?」


 散華は焦り気味に姉に尋ねた。そこには自分が足を引っ張っているのでは? という焦燥があった。


「それはないでしょう。父上の覚悟は本物です。あの人はアストリアへ帰る気が無い。それがわかりました。もっとも娘二人を相手に思うところが無いわけではないでしょうが……」

「そんな……どうして!? 帰らないって……母様も待っているのですよ!?」

「それは直接聞けば良いでしょう」

「!! ……そうでしたね。わかりました」


 私は何を焦っているのだ……相手は父様なのだ。直接聞けば良いではないか……

 散華は冷静さを取り戻すように一つ深呼吸をした。


「相談はおわったかな?」

「父様……一つ質問があります」

「何だ? 散華」

「帰る気が無いとは本当ですか?」

「ふむ。さすがだな……私の決意を読み取ったらしい。そう言ったのは蓮華の方か……」


 それは紛れもなく肯定だった。


「!! なぜですか!?」

「蓮華。散華。これは言うべきか迷ったが、私は罪人なのだ。罰を受けねばならぬ」

「分かるように説明してください!」


 散華は認められないとばかりに父に詰め寄る。


「簡単な事だ。かつてカリスの重臣だった私には相応の責任があるということだ。私は失敗した。王を諫める事にも。犯罪者として処断することにも。私は私の忠義を誤ったのだ……」

「そんな……ことは」


 深く悔恨する様子の双樹に反論しようとして、散華は何も言い返せなかった。それは当事者でしかわからない苦悩だったからだ。


「お前達は立派に成長した。もはや私が教えるべきことは何もない。私の望みは一つだ。散華、蓮華お前達の力しかと私に見せてくれ。それを持って華咲の後継者と認めよう」

「父様!?……それはどういう……」

「言っただろう。私は帰る気がない。だから華咲をお前達に託したい。だが、それには相応の力を私に認めさせねばならぬ」


 双樹の決意がその両目の眼光から窺い知れる。

 それは紛れもなく本気の目だった。

 それを受けて一歩前へ進み出たのは蓮華だった。


「……わかりました。散華、わたくしが切り開きます。合わせなさい」

「姉様!?」


 散華は痛感していた。

 実際のところ散華は当主代行だ。それは双樹の死亡説が流れたためであり、双樹が生きてアストリアへ帰るならすぐに家督を返すつもりだった。それが叶わぬと知るや、それは散華を酷く動揺させた。


 だが、そんなことでは揺るがない者が隣にいる。

 この玲瓏(れいろう)な姉こそ、その名を馳せる英雄「雪月花」なのだ。


 父様の引退宣言には驚くが、迷っている暇などない。姉様が活路を開くと言っているのだ。

 情けない姿を見せたままではいられない。


「本当に尊敬に値する……」


 散華にとって普段はソニア同様に意味のわからない行動が目立つ姉だったが、こうして隣に並ぶと心強い。

 その背を見ながら散華は心を落ち着けた。


 双樹の愚直なまでの剣撃に蓮華は果敢に立ち向かう。

 姉様は言った。私が切り開くと。ならばその機を逃してはならない。

 自らを研ぎ澄ませる様にしてその機会を待つ。


「華咲流『蒼樹』」

「華咲流『月花』」


 まるで根をどっしりと構えた大樹の様な双樹の剣と対照的に蓮華の剣は儚げな花だった。

 だがその剣には何故か目を惹かれる華があった。


 長い時が流れたようであり、一瞬だった気もする。

 双樹との激しい奥義の打ち合いの果てに一筋の道が見える。

 蓮華はその道を逃さない。


「華咲流花鳥風月 『白雪』」


 それは風に舞う白雪の如く蓮華の剣技を体現した奥儀。

 蓮華は身を挺してその活路を開いていた。


 「ぬうっ!!」


 双樹の黒刀「濡羽鴉」が弾かれた!


「今です!」

「ここだ!」


 恐るべき同調力で散華は双樹へと迫った。


「むうっ!?」


 双樹も避けきれないと悟るや防御に回る!


 今は姉に及ばずとも……否、一瞬で良い。今だけは及んで見せる!

 散華は開眼するかのようにして、その意思を瞳に宿す。


「華咲流花鳥風月『緋月』」


 思えば姉の背中ばかり追って来たのだと思う。

 だから……


 そこへ滑り込むように散華の剣撃が走った!


「本当に……強くなった」


 その一撃を受けて双樹は倒れた。


 しかし……


「踏み込みが浅かった……姉様すみません」


 散華には手応えでわかった。双樹にしっかりと防御された事が……

 己の未熟さに歯嚙みする。もはやこれ以上の好機は訪れないだろう。

 無念だが、負けを認める事も考えなくてはならない。

 そう思っていたが、立ち上がった双樹は満足気に言い放った。


「いや、お前達の勝ちだ。私は負けを認めよう。限界らしい」

「父様!?」


 本当かどうかは甚だ疑わしいが、このサバイバルのルールでは負けを認めた方が負けだ。


「散華……わたくしもここまでのようです」

「姉様まで!?」


 だがそう言った双樹に比べて姉は見るからに辛そうだった。こちらは本当に力を出し切ったのだろう。

 そして双樹はその刀、濡羽鴉を蓮華へ差し出した。それは華咲の当主が代々受け継いできたものだ。


「蓮華。受け取りなさい。私はお前が受け取るべきだと思う」


 その言葉に私はチクリと胸が痛む。だが、それを姉様が受け取るのは当然だ。私はまだまだ不甲斐ない。


「ありがとうございます。ですが、父上。それは散華にお渡しください。わたくしと散華は一心同体……何も問題ありませぬ」

「そんな……駄目です! 姉様!」

「そこまで……わかった。今はお前が一歩先んじているが、確かに散華も申し分ない。では散華、受け取りなさい」

「しかし!」


 双樹は認めたが、散華はそれを認められない。なおもくらい下がろうとするが、それは姉に止められた。

「良いのです。わたくしは姉ですから……。貴女も知っているでしょう? わたくしの二つ名を。「雪月花」にとってこの黒刀「濡羽鴉」はいささか不似合いにすぎる……」


本当にどこまで格好良いのか……この姉は……


「……わかりました。そこまで仰るなら今は私が預かります。ですが、いずれ必ず何かお返しをします。私は姉様から受け取り過ぎている……」

「まあ、それは楽しみですね……」


 蓮華はそう言って微笑むとそのまま眠るように倒れた。持てる力を出し切ったのだ。


「姉様!?」

「大丈夫だ。疲れただけだろう。散華、頑張りなさい」

「はい。父様」

「……と藤乃もか……。さて、どうやって街まで運ぼうか、二人ならいけるか?」

「!! 藤乃!?」


 双樹の言ったことに驚き、散華が視線を移すと倒れた藤乃が見えた。

 謎の騎士Mが倒したらしい。ソニアの言ではアルフヘイム女王だそうだ。


 丁度そこへ街まで帰っていた審判団の副団長達が帰って来た。


「おや? 団長が見当たりません。しかもどうやら帰還者が三人もいる様子です。ということは残りは二人と三人のはずですが……ここに一人ずつ残っているという事は団長はもう一方へ行ったのですね」


 審判団副団長はそう判断すると。


「ならばもう一度帰りますか。では怪我人を担架へ」

「ああ。私は歩ける。二人を頼む」

「わかりました」


 双樹と副団長は短くそう話すと、審判団は蓮華と藤乃を担架へ乗せてまた街へと戻って行った。

 そして残された二人は対峙する。


「ここに至っては覆面は無礼か……のう、アストリア王」


 そう言って謎の騎士Mはフルフェイスの兜を脱ぎ棄てる。

 兜の下にあったのは予想通り先の会合で会った顔だった。


「やはり、貴女でしたかアルフヘイム女王……」


 アストリア王とアルフヘイム女王の直接対決は静かに始まっていた。



 †



 鬱蒼と生い茂った森の中、そこには石組みの神殿跡らしきものがある。

 かつては荘厳な神殿だったことが窺えるが、今は風化しつつ蔦で覆われており、その遺影を残すのみだ。


 男はその中心の円形に組まれた石碑の跡へ向かう。

 そして懐から石板状の魔導具を取り出すと、恭しく祈るように詠唱を始めた。


「大地の守護者にして古き森の番人よ 大地母神の七つの鎧の一つたる現身よ

 その雄叫びは洪水 その口は火 その息は死 彼の者の名は──フンババ」


 男の手にあった魔導具が光を帯びる。


「永き眠りより今一度甦れ!」


 激しい地鳴りの音と共に大地が揺れた。

 砂煙をまき散らしながらその大きな影は地中より現れた。


「オオオオオオォォォォ──!!」


 その咆哮はこの世すべてに届くかのようだった。

 近隣で聞かなかった者などいないことだろう。

 薔薇の男は満足気に頷くと言った。


「さあ、第二幕を始めましょうか!」



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