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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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サバイバル(四)

 ダン達にミスト将軍とアリシア先輩が運ばれて行く。

 これで八対七だ。依然負けてはいるが、それほど差があるわけではない。

 アリシア先輩は私に後を託してくれた。ならばそれに応えなくてはならないだろう。


 アリシア先輩の風魔法のお陰で霧は晴れていた。

 しかし、そこで私は自身の失態に気づいた。

 木漏れ日を受けて罠がキラキラと光っている。美しい光景ではあるが……


「むう。タダでは倒れないか……さすがミスト将軍だ」


 罠には結露が生じていた。それが光を反射していたのだ。

 これではバレて警戒されてしまう。

 しかし、ここで罠をはずしていては今度は私が危ない。おそらく敵の本隊も近づいているはずだ。

 ミスト将軍も後へと託したのだった。


「今はアラネアを信じよう」


 アラネアならすぐに気がつくだろう。何かしら対応してくれるはずだ。

 そうして私はエリスの許へ向かった。エリスの許へは先に蓮華姉さんが向かっている。

 それほど遠くはないはずだ。



 †



 エリスは何度もアルヴィトへと向かい、その度に傷が増えていた。

 力の差は歴然だった。それでもエリスは折れることは無い。

 それを見てアルヴィトは戦いながら過去を思い起こしていた。



 思えばエリスは昔から私の真似をしたがった。

 同じダークエルフとして尊敬されていることは知っているが、そうした者は他にも大勢いる。

 しかし、こうも私の真似をしたのはエリスだけだった。


 アリシアも始めの内はエリスと同様に真似をしていたが、すぐに飽きてしまった様子だった。

 ミストは始めから自身の道を決めていた。そしてエリスはひたすらに私の真似をした。

 そう昔の光景が脳裏にふと過る。


 いつか聞いたことに、学ぶの原点は真似るだと言う。

 きっとこの娘は私の後を継ぐのだろう。

 いつからか漠然としたその想いが私の胸中に湧いていた。


 ただ、それを託すためには私の複製(コピー)では困る。

 私は意識を目前へと集中し直す。


 エリスの隣には蓮華が立っていた。エリスが粘るうちに、追いついてきたのだ。


「貴方だけでは私に勝てないでしょう。さあ、どうしますか?」


 アルヴィトからのその言葉を聞いてエリスは……


「蓮華、すまない……」


 悩みすらしなかった。


「私だけでやらせて欲しい」

「わかりました。貴女は頑固ですから」


 それを聞いてアルヴィトは先によぎった事を思い出しながら言った。


「愚かです……」


 昔から何だかんだ言われても、アリシアは要領が良い。逆にエリスは頑固で真面目だった。

 どちらが正しい正しくないの話ではなく、そうした性格、あるいは己で決めた生き方なのだ。


「ですが……そういうの、嫌いじゃないですよ」


 アルヴィトはまるで昔の自分を見ているかのように嬉しくなってしまうのだった。



 †



 私は蓮華姉さんを見つけると傍に寄って行った。

 蓮華姉さんが見つめる先でエリスとアルヴィトが戦っている。


「ソニア。来ましたか……」

「蓮華姉さん、手は出さないんですね」


 私は蓮華姉さんに合流してすぐに気づいた。

 蓮華姉さんが動かないからだ。


「ええ。エリスにはそうしなければならない理由があるのでしょう。ソニア、私達にはエリスのような因縁はありません。エリスが倒されたら二人で倒しますよ。確実に。すぐに敵の本隊も現れるでしょうから」

「はい。私はアルヴィトには世話になったのですが、わかりました。それと報告ですが、アリシア先輩は倒されました。ミスト将軍を倒して」

「そうですか……わかりました」


 そう会話を交わす間にもエリスは何度も倒され、そして立ち上がった。

 正直、見ていられないほどだ。

 歯がゆい想いは蓮華姉さんの方が強いかもしれない。


 アルヴィトは強い。何せ戦歴が桁違いだ。聞いた話が本当なら実際に年月という意味で桁が違う。

 だから本来なら三人がかりででも、倒さなければならない相手だ。


 しかし、それはエリスが許さないだろう。

 それがエリスにとっての矜持なのだ。


 だが、無慈悲にもエリスに勝ち目は片鱗すら表れていなかった。


「……それでも、楽しそうですね」

「ええ」


 蓮華姉さんに私は同意した。そう、二人とも楽しそうなのだ。

 もはや、勝敗など頭に無いのかもしれない。


「少し羨ましく思えてきました」

「蓮華姉さんの相手ならいつでもしますよ?」

「ふふ、もう少し修行し直してから言いなさい」


 そう言って笑われた。まだ駄目だったらしい。

 だが、チャンスはあるって事だな! と前向きに捉えることにする。

 そんなことを言い合いながらも私達の視線はエリスから離れない。


 しかし、エリスの限界が確実に近づいて来ているのは誰の目にも明らかだった……



 †



 体中が、ボロボロだ。

 アラネアの作った服が無ければここまで耐えられなかっただろう。

 しかし、眼光だけは鋭く光る。

 まだ諦めるなと魂だけが叫んでいる。


「一度くらいは良い所を見せなくてはね……」


 先生は私の浅知恵など、とうにお見通し。策を弄するなど愚の骨頂。

 ならば残る本気の力をぶつけるしか道はない。

 出来ることがそれしかない。

 エリスはそう決断した。


「私が決めて……私が創る……」


「天の原 踏み轟かし 鳴る神も 思ふ仲をば 裂くるものかは」


「『紫の雷霆(ケラウノス)』!」


 エリスの周囲の大気が帯電し、無数の紫の雷が走る。

 狙いは一つ。アルヴィトへ向けてエリスの残る全魔力を動員する。

 これで決める! そう覚悟の籠った一撃だ。


「良い覚悟です。ならば受けて立ちましょう」


 対してアルヴィトは懐から何かを取り出す。

 どうやらそれは魔導書らしい。どこかで見た様な紫の装丁。


「あれは……!?」


 どこかで何も……青の書と同じじゃないか!

 私は驚愕と共にアルヴィトを見つめる。隣の蓮華姉さんの眉もピクリと動いていた。


「確か持って無いとは言ってませんでしたよね……嫌だわ。記憶が曖昧ね。最近、同じことを話したりしてしまうのよね。歳かしら……」


 アルヴィトは私達に向けてそんなことを言いながらも油断無く詠唱を紡ぐ。


「其は雷神の大槌 其は紫陽の迅雷 雷霆よ紫の書の盟約に従い裁可を下せ」


「『紫の雷霆(ケラウノス)』!」


 詠唱呪文こそ違うが、驚くべきことにアルヴィトも同じ魔法を詠唱した。

 次第にアルヴィトの周囲も帯電し紫の雷光を帯びる。


 私と蓮華姉さんは驚いている。独自魔法は他者が使えないからこその独自魔法のはずだ。


「どういうことなんだ……」


 私達が驚いている間に二人の魔法は衝突した。

 雷霆が荒れ狂う。


 そしてぶつかり合うと凄まじい光を発して消滅した。

 それが何度もぶつかり合い発光しては消える。


 何度も繰り返されて次第に穏やかになり発光も消えていった……

 そして倒れたのはやはりエリスだった。


 アルヴィトは倒れたエリスを抱きとめる。


「良く頑張りましたね」


 その表情は穏やかなものだった。


 やはりこうなったか。しかし、エリスは頑張った。

 ならば次は私達の番だと意気込むが……そこでアルヴィトから声がかかった。


「ソニア。エリスは私が街まで運びましょう」

「はい?」


 ん? どういう事だ?


「やはり歳なのでしょうか……これ以上の戦闘は厳しいようです」


 嘘でしょう! と突っ込みたくなったが、退いてくれるならそれはそれで助かる。


「え? それは助かりますけど、良いのですか?」

「ええ。それではソニア、そして蓮華さんでしたね。頑張ってくださいね」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 アルヴィトはにこりと微笑むと本当にエリスを背負って行こうとする。

 私はそれを呼び止めた。


「ああ、アルヴィト。一つ聞いてもいいですか?」

「ええ。わかっています。街に帰ってからにしようかともおもいましたが、この際です。少し話しておきましょうか」


 私の聞きたいことは分かっているらしい。


「先ず独自魔法ですね。実際、同じに見えたかもしれませんが、それはエリスの努力ですよ。昔からエリスは私の真似をしたがりましたから」

「むむ。それは……可愛いな」


 小さいエリスがアルヴィトの真似ばかりしているところが容易に想像できた。


「ふふ。起きたら言ってあげてください。そしてこれ」


 アルヴィトは先の魔導書を出した。


「貴女の睨んだ通り「紫の書」です。言って無くてごめんなさい。ただ、あまり言いふらす様なものではありませんし」

「やはりそうでしたか」

「他に聞きたいことがあるなら、終わってからにした方が良いでしょう。すぐに本隊がやって来るでしょうから」

「そうですか。ありがとうございます」


 アルヴィトは一礼すると、今度こそエリスを背負って行ってしまった。

 紫の書には驚いたが、だからどうなるということでもない。ただ、ついに姿を現したかとは思う。

 それよりもエリスは後で褒めてやらねばなるまい。


「……やったね。これもエリスの頑張りのおかげだろうか」

「残念ですね。私は戦ってみたかったのですが……」


 蓮華姉さんの意見は私とは違ったようです。

 華咲は戦闘狂か!?


 不思議そうに二人で顔を見合わせていたが、エリスとアルヴィトが帰ってしまったのでもうここに用はない。

 どころか、アルヴィトが言ったようにここに居ては拙い。


「ここに居ては拙いですね。戻りましょうか……」

「はい」


 蓮華姉さんも同じ考えだったので、そう返事をしたところで……


「む。蓮華とソニア君か……」

「父上……」


 まだ距離はあるが、双樹氏が来てしまった。それだけではない。後から続いて続々と現れるエルフ達。

 敵の本隊が来てしまったのだった。


「二人では拙いです! ここは逃げましょう!」

「ええ。そうですね 先に行きなさい 殿(しんがり)は努めます」

「わかりました」


 蓮華姉さんに促されて私は先に踵を返した。

 罠を利用しながら縫うように後退する。


 私達を見つけた双樹氏とブリュンヒルデが迅速に迫り来る!

 逃げながらも何度も打ち合うが、さしもの蓮華姉さんですら防戦一方だ。それだけではなく後方ではゲンドゥルと神官三姉妹が、隙あらば魔法を放とうと詠唱の準備をしていた。


 だが、逃げれば逃げるほど罠は多く張ってある。敵も警戒したのか、しばらく進んで距離を取るとそれ以上は追って来なかった。


「アラネアがやってくれた様だな」


 ここまで来ると、既に罠についていた露も落とされていた。

 もちろん残っているものもあるが、それが逆に効果的に警戒を促していた。


 当然だが、私達も気を付けなくてはならない。

 ある程度は来る時に把握しているが、森の中ではわかりづらい。

 乱れた呼吸を整えながら、状況を確認する。 


「蓮華姉さん大丈夫ですか?」

「ええ、かすり傷ですが、やはり強いですね」

 

 蓮華姉さんは傷を受けてしまっていた。

 魔法で蓮華姉さんの傷を癒しながら、私達は本陣へと向かった。


 そこでふと考える。ブリュンヒルデと双樹氏を一緒にさせては拙いと。

 先ほどの戦いで二人が前衛の要だとわかった。

 できれば分断したい。


 それにもう一つわかった事がある。

 ブリュンヒルデは罠を凄く警戒していた。

 ミスト将軍の残した露で見えているにも関わらずだ。

 おかげで連携が崩れて逃げることができたのだ。


「これが活路につながれば良いが……」


 対策を考えながら私達は本陣の散華ちゃん達の許へと急いだ。



 †



 エリスは夢の中に居た。どうやら母親らしき人に背負われているらしい。

 孤児である私達に母親はいないはずだ。などという理性は夢の中では通用しない。


 身体中が痛い気がする。しかし、不思議と温かい気持ちになった。

 抱き着いた背中から愛情らしきものが溢れてくる。

 だからやっぱりママなのだろう。

 ぼんやりとそんな夢を見ながら、エリスはその母の背で揺られていた。


 森の中をアルヴィトはエリスを背負い街へと向かう。


「ママ……」


 エリスが気が付いたのかと思い確認するが、寝言だったようだ。


「寝言ですか……それにしてもママって、私なんてひいひいひいひいひいおばあちゃんくらいでしょうに……この子は体ばかり大きくなって……」


 そうしてまたアルヴィトは歩き出す。

 そう口にしたアルヴィトだったが、その表情には満更でもないというのが隠しきれていなかった。



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