サバイバル(三)
私が一息ついてスカディに乱された精神状態を落ち着けていると、散華ちゃん達本隊が追いついて来た。
散華ちゃんは私の許へ来るなり、途中で見たものについて聞いて来た。
「さっき、泥まみれのスカディが泣きながら走り去って行ったが……何があった?」
聞けば余りにも悲し気な様子に声をかけられなかったそうな……
私は散華ちゃんに事情を話すと、非難がましい目でみられたのだった。
「……そうか、とりあえずその技? は禁止だ」
「ええっ! 何で!? 偶然だったけど、むしろ散華ちゃんに使いたいのに!」
「何故私に……とにかく禁止だ」
「泥まみれの散華ちゃんは美しいと思うのですが……」
睨まれました。
確かにエルフはプライド高いからな。
今回のこともそういうことだったのだろう……たぶん。
ならば下手をすれば外交問題になりかねない。私もこんなことで外交問題を作りたくはない。
「だが、ともかくこれで一勝か。あまり褒められた勝利ではないが、良くやった」
褒められているのかいないのか、複雑な心境だ。
もうスカディのことはどうでもいいので、現状を話そうとして私は気づいた。
「しまった!」
そうだった! アリシア先輩とエリスが交戦中のはずだ!
罠にかけたスカディを速攻で倒して駆け付ける手筈だったのだ。
あまりのスカディの行動に時間を浪費してしまった。
だが後悔している時間も惜しい。
すぐに散華ちゃんに二人のことを告げる。
「それを早く言え! 行くぞ!!」
「待ちなさい!」
とそこで待ったの声をかけたのは蓮華姉さんだった。
「霧が濃いです。そしてこの場には罠が張ってありますね?」
私は蓮華姉さんに頷く。
「ならば大将はここに布陣するべきです」
「確かに……」
その意を汲み取り散華ちゃんも同意する。
罠を最大限に効果的に使うためにはやはり餌が必要だからだ。
「エリス達の所へは私が行きましょう。私もエリスとはそれなりには長いですから。藤乃、ツヴェルフ、散華を頼みます」
「はい。お嬢様」
「了解しました」
「姉様……わかりました」
蓮華姉さんの提案に皆が了承した。
そうして話が纏まると、蓮華姉さんは私に向かって言った。
「ではソニア行きますよ」
「はい!」
私は連れて行くらしい。となるとアラネアだが……。
「アラネア、罠の補強をお願い。まさかスカディが破るとは思わなかった」
「そうですね。私も驚きました。わかりました、完璧に仕上げます!」
「ということで散華ちゃん達はアラネアを守って欲しい」
「ああ。任せておけ」
こうして方針が決まると私と蓮華姉さんは頷き合い、霧の中を進んで行った。
†
魔法がその内的精神力に由来するように、個々の得意、不得意な属性はどうしても出てしまう。
独自魔法を己で定めた生き方と表現するなら、それはもう性格と言っても過言ではない。
「アリシア……本当にお前とは相性が悪いな」
「そうかしら? 私は嫌いじゃなかったわよ?」
「能力の話さ」
「分かってるわよ」
ミストの霧は既にアリシアの風魔法によって散らされていた。
加えて周囲にはアラネアの張った罠がある。迂闊に逃亡も許されない。
袋の鼠という言葉が相応しい状況にあった。それは状況だけ見ればという条件つきだが。
「すぐにソニア達が来るでしょうね。でも……」
「ああ。できれば私達で方をつけたいわね」
アリシアに賛同するように、隣に立つエリスは応じた。
同じ施設で育った仲間だ。
そうした因縁から決着は自分達で着けたかった。
それは相手も同じだった。
「良く言いました。成長した貴方達の力、存分に見せてみなさい!」
「ああ。技の相性だけで勝敗が決まるわけではない。来るがいい!」
対峙したアルヴィトとミストは同調するように言い放つと、ミストが駆けてアリシアへ肉迫した。
アルヴィトは後方で待機している。
……のではない!
「天空に輝く数多の星々よ……その力の片鱗を今ここに示せ……」
すでに詠唱に入っていたのだ。それに勘付いたエリスは……
「させない! 紫電!」
エリスは紫電を身に纏い、雷の如き速度でアルヴィトへと迫る!
「良い判断です。ですが……私の戦歴を甘く見ないでもらいましょうか!」
エリスの最速の剣はアルヴィトの杖によって止められていた。
「なッ!?」
「さて、お返しです」
「星屑」
至近距離でまともに魔法を浴びたエリスは弾き飛ばされた。
「くっ……」
一撃で大ダメージを負ったエリスはあまりの力の差に愕然としてしまっていた。
「もう終わりですか? エリス……貴女には期待しているのです。ここで私を超えて見せなさい!」
体中から悲鳴が上がっている。既に満身創痍だ。
「これほどか……それでも……先生に期待されてるなんて言われたら、奮起するしかないわよね!」
エリスは息も絶え絶えで立ち上がる。
今の一撃で負けていてもおかしくはなかった。
しかし、それは嬉しいことだ。エリスの目指すべき先に彼女はいるのだから。
「さあ続けましょうか!」
「行きます!」
アルヴィトは嬉しそうに微笑む。
エリスはそこへ、今一度迫るのだった。
†
「どこ見てんのよ。相手は私でしょう!?」
視線を外したミストにアリシアは苛立つ。
そう言われてもミストはいつも通りの余裕の態度だ。
「ふふ。師弟というものは良いものだと思ってな……」
「ずいぶんと余裕じゃない」
「そうでもないさ。私は霧使いだろう? 相手をはぐらかすのが上手くなってしまって困っているのさ」
「!?」
相手にしていたミストが突然アリシアの前から消えた。それはもう霧の如くに。
そしてすぐさまアリシアは後ろから切りつけられていた。
「……ほう良く止めたな」
「やってくれるじゃない」
辛うじてミストの剣を止めたアリシアだったが、気を許せる状況ではない。
「くっ……」
次の瞬間には止めたと思っていた相手がまた消えているのだ。
「相性が悪いのはどっちよ!」
アリシアは自身の性格がやや直情傾向にある事は自覚がある。
こうした相手を惑わす剣技は苦手だった。
「くっ……」
辛うじて大気の流れから先読みはするものの、反応できなくなれば終わりだ。
魔法を放とうにも相手の場所を特定できなければ、躱された上に背後を突かれてこちらがリタイアだ。
「つまりはジリ貧ってわけね。さて、どうするか……」
ミストの剣を辛うじて受けながら考える。
しかし、どうしても勝てる案が浮かばない。
焦りだけが募っていく。
しかも戦っているうちにエリスとも離れてしまった。
いや、ミストのことだ。意図的に引き離したのだろう。
エリスの援護は期待できない。
「抜け目ないわね。まあ、勝てないのなら仕方ないわよね……」
やはり不敗の将軍の名は伊達ではなかったのだ。
「どういうつもりだ?」
気配が変わったアリシアにミストは警戒する。
「決まってるでしょ? 勝てないなら道連れにすんのよ!」
「ふふ。それは怖いな。だがそうはさせぬ!」
「やってやるわよ!」
ミストは強い。
ならばどうするのか……
アリシアは決めたのだ。後に託すと。
「私が決めて……私が創る……」
「風は思いのままに吹く あなたはその音をきいても それがどこから来て どこへ行くかを知らない」
「『緑風の聖霊』!」
アリシアを中心に風が嵐の如く吹き荒れる。
それがミストへ向かって放たれた。
だが無茶な独自魔法は当然、自身の首を絞める事になる。
「『霧幻』」
風がミストへ向かったと思われた時、その言葉と共にミストは消えていた。
「終わりだ。アリシア……」
アリシアは突然背後に現れたミストの攻撃を受けて倒れた。
そしてミストは勝った。
「ぐッ!?」
その時、雷撃魔法が背後からミストを撃ち抜いていた。
ミストは驚くようにそれを見つめて。そして納得すると微笑む。
「そう言うことか……やられたよ。見事だ。アリシア」
そう言い残すとミストは倒れた。
ミスト将軍を撃ち抜いた雷撃を放ったのは私だった。
アリシア先輩は私の接近をいち早く気づいていたのだ。
アリシア先輩の独自魔法はミスト将軍も警戒せざるを得ない。しかも相打ち覚悟なら尚更だ。
それは見事にミスト将軍から私の存在を隠していた。
そしてアリシア先輩に勝った時、一瞬の隙ができたのだ。
私はアリシア先輩に駆け寄ると抱き起して声をかける。
「アリシア。良くやった……」
「そうでしょ。ソニアもっと褒めて良いわよ……」
そう言い残すとアリシア先輩は眠る様に意識を手放した。
その表情は誇らしげで美しいものだった。




