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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(下)
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出発

 出発の日。私の家へ数台の馬車がやって来ていた。

 華咲家から来たそれには散華ちゃんと蓮華姉さんも乗っていた。国王陛下一行の馬車なのでそれなりに豪華にしてある。散華ちゃん達は嫌がったが、権威付けのためなので仕方ない。

 まだまだ近隣諸国に国として認められているかは疑わしいので、こうしたところからも威厳を持たせなくてはならないのだ。


 馬車から降りてきた散華ちゃんと蓮華姉さんに挨拶がてら報告する。

 いつもちゃんと報告しろと言われているのだ。私はできる子。過去の失敗は繰り返さない。


「どうも。ゴーレムマスターのソニアです。今日私が皆さんに一つご忠告を申し上げたいのは、ゴーレムを作る際には自宅の庭の土を使うと、稀にミミズや虫の幼虫などが出て来るから気をつけろ! という事です」

「朝からどうした……そんな知りたくもない情報はどうでもいいわ! 出発するぞ。準備しろ」

「びっくりするのです!」


 私の力説に、散華ちゃんは全く興味がない様子でした。


「こっちはお前にびっくりだよ」

「それにゴーレムからミミズが生えてたらどうするんですか! それはもうモンスターじゃないですか!」

「おいやめろ。ちょっと想像しただろ!」


 嫌がる散華ちゃんにそんなことを報告していると、続々と皆が集まって来る。


「何だか行ったり来たりで忙しいわね」

「そうね。でも馬車の移動中はゆっくり休めるはずだわ」


 そう話をするアリシア先輩達とエリスも疲れ気味なのかもしれない。

 ならばしっかりと休んでもらって、戦いに向けて万全の状態で臨まなければならないだろう。



「今さらだけど国王と王妃不在で大丈夫なんだろうか?」


 私は散華ちゃん達に現状の確認をするために聞いてみる。


「本当に今更だな。先の会合にも出席しただろう? 国事というのはそういうこともある。それに後のことはお爺様に任せてあるから大丈夫だ」

「そっか。じゃあ大丈夫か」

「まあ、お爺様はそうしたことが嫌で隠居したのにとぼやいていましたが……母上が、父上のことを隠していた罰ですと納得させました」


 散華国王の言葉に、蓮華王妃が補足してそう言った。


 渋々了承する華咲翁が想像できる。本当に大丈夫か?


 やや心配になりながら、馬車への荷物の積み込みを着々と進めているとそれを聞いていたのか。


「それに俺達もいるからな。安心して行ってこい。要所の宿場町には先んじて騎士団員が安全を確保している。逆に退屈だろうがな」


 そう言ったグランさんを筆頭に、騎士団幹部と師匠も見送りに来てくれていた。


「そうですか。ありがとうございます」


 警備状態も万全のようだ。


 そうして諸々の確認を行っていると、アラネアがやって来る。


「ご主人様のマネキンのお陰で製作がはかどりました。ありがとうございます」

「いや、いいんだ。マネキンじゃなくてゴーレムだけどね……ハハ」


 所詮、自動で動かないゴーレムなんてそんなものさ……くっ、帰ったらまた研究しよう。

 一応、それらしい文献は持ってきている。移動中に読むためだ。


「おかげで予定より早くできましたよ。皆さんにお渡ししますね」

「おお! 間に合ったのか!」


 私は歓喜する。さすがアラネアだ!

 だが、ちょっと無理をさせてしまったかもしれない。線の細い体に疲労が見て取れる。


「はい。リリスさんにお渡しした服をベースに考えた戦闘服。【夜ノ女王】シリーズです。耐刃性能もありますが、耐魔法を主眼におきました」

「おお、これで勝てる!」


 黒色のリリスの服をベースにしながらも、各人に合わせてそれぞれ少しだけデザインを変えている凝りようだ。

 確かに服をよく見ると薄く魔素の流れが出来ている。

 闇の鎧を手放したのは痛かったが、これならば遜色はないはずだ。

 皆が驚きと共に喜んでいた。


「あら、私にも貰えるのですわね」

「ええ。前に渡したものはドレス型でしたが、より軽装化してあります。戦闘特化型に改良したものです」

「素晴らしいですわ。ありがとうございます」


 しっかりリリスの分まで作っていたようだ。アラネアには本当に苦労をかけた。

 短い時間の中、各人の採寸から行ったのだ。忙しくてついて行けなかったのが悔やまれる!

 「さあ、アラネア採寸に行こうか」と期待を込めて言ったら、「あ、もう行ってきましたよ」と言われたときの絶望!

 私はどうしてマネキンなど作っていたのか!

 あ、ゴーレムだった……


 そして……困惑している者が一人。


「何故私にも……? 戦闘服ですよね。確かにサイズは測ってもらいましたが、今回は参加できないと言ったはずなのですが……」

「ご主人様が是非にと。それはもう大変な熱意で。絶対に似合うからだそうですよ」


 困惑する師匠にアラネアがそう説明する。そうなのだ。私の見立てでは、これは寧ろ師匠に似合うはずなのだ。是非とも着てもらいたい!

 しかし師匠は悪いと思っているのだろう、ただ困惑していた。もうひと押しが必要か。


「師匠。日頃の感謝として受け取ってください!」

「ですが……いえ、わかりました。ありがとうございます」


 やはり気になってはいたのだろう。それほどアラネアの衣装は素晴らしいものなのだ。受け取った師匠は実際、嬉しそうだ。


「アラネア。短い期間でよくやってくれた。移動中の馬車では存分に休んでくれ。では出発しよう」


 散華ちゃんがアラネアを労うと、馬車は戦いの地へと出発した。


 その日、出発の前に士気は大いに高まったのは語るまでもない。



 †



 何事もなく馬車は進んで行く。

 本当に何もないな……


 努力の成果でもう平和になった? いや、グランさん達、両騎士団が優秀なのか……魔物すら現れない。

 本当に何もない……



 そして目的地へ進む事半ば程過ぎた頃、夜陰の宿場町にてそれは起こった。


「国王陛下! 不審者を捕らえました!」


 深夜ではあったがツヴェルフさんは実直に行動し、その者を捕らえていた。

 しかし、その者は反論した。


「待て! 濡れ衣だ!」


 そして陛下は、その者を蔑むような目で見つめると言い放った。


「……ソニア……何度目だ!」


 はい。私です。散華ちゃんの蔑む様な目が素敵です。


「五度目? 六だっけ?」

「……お前は何がしたいんだ?」

「一緒に寝ようと思っただけだよ!」

「……」

「貴女は宰相なのですよ。夜間の不用意な行動は慎みなさい」


 散華ちゃんだけでなく、蓮華姉さんからも注意を受ける。

 正座させられた私の隣から、同じく正座して……説得力、皆無である。


「因みに王妃は八度捕まっています」


 納得いかぬので言ってやりました。


「こほん……近衛騎士は優秀ですね」

「姉様……」


 話を逸らすように言う蓮華姉さんに散華ちゃんも呆れている。

 そうなのだ。近衛騎士は優秀なのだ。ツヴェルフさんと藤乃の鉄壁の護りを崩さねば勝機はない。


「ぬう。次こそは!」

「次は無い。さっさと寝ろ!」


 陛下はお疲れの様子だったので、引き下がっておきました。



 †



 リーヴ大森林に程近いリーヴの街。普段は辺境の長閑(のどか)な街だ。

 雰囲気は街と言うより村の方が近いかもしれない。ただアルフヘイムとアストリアの要衝ではあるので、雑多な人々は多かった。

 そこが今、両軍の物々しい警備によって守られている。それゆえに長閑ながら、何処か剣呑とした緊張感に包まれていた。


 私達は国境を越えてすぐのその街に、本当に何事もなくたどり着いていた。これほどの警備だ。当然と言えば当然だった。こちらは新興国だが、もう一方は歴史ある大国なのだから。


 ただ何故か散華ちゃんが、疲れ気味だっただけだ。きっと蓮華姉さんのせいだろう。


 私達が決められた宿で休んでいるとそこへ使いが来た。なので私が代表して話をする。


「やあ、久しぶりだなソニア・ロンド。無事に辿りついたようで何よりだ」

「ミスト将軍! お久しぶりです」


 戸口に相変わらずの格好良さで、そのエルフの将軍は立っていた。中へ案内しようとすると、用件を伝えに来ただけなので、ここで良いそうだ。


「うむ。では約束通り明後日には森へ入ってもらう事になっているが、その前に明日、簡単なお披露目がある」

「お披露目ですか?」

「この街の代表達が是非にと言っていてな。まあ国を代表するとなると、そういうことも必要なのだそうだよ。内心では私もどうなのかとは思っているがね」


 そう言うミスト将軍の公明正大さには何度も助けられている。

 きっとこれも政治なのだろう。であれば参加しなくてはならない。


「なるほど」

「ついては試合の詳細な確認と顔合わせはその時に行わせてもらう」

「わかりました」

「ああ。それと戦闘用の正装があるのだろう? それで来てくれたまえ」


 そう言ってミスト将軍は微笑んだ。

 既に知っているとは……アリシア先輩達が自慢してしまったようだ。気持ちはわかる。それにすぐに知れることだ。問題はない。

 かく言う私もアラネアの衣装はもっと評価されるべきだと思っている。そうした場が提供されるのだ。悪い話ではないだろう。


 私はバツの悪そうにしているアリシア先輩とエリスをチラ見しつつ、了承の意を告げた。


「試合前にあまり長居するのも悪いだろう。では、そういうことでよろしく頼む」

「はい。わざわざありがとうございます」


 そう告げる私に微笑みを返すとミスト将軍は帰って行った。

 相変わらずのカッコ良さだな……いや、うちのエルフ娘達も負けていない!

 そう思って二人を見る。


「私はアリシアが自慢するのを止めようとしたのよ?」

「そう言うエリスだって自慢気にしてたじゃない!」


 ……二人は足を引っ張り合っていました。完敗でした。


 な、仲が良いのだと思うことにしよう。



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