三国会談
会議が終わって解散したと思って瞑目していたが、そこに声をかけられる。
おおう、完全に油断していた。
独り言を喋っていたかもしれない。ちょっと恥ずかしい。
声をかけてきたのはグランさん達、騎士団のトップ達だ。
冒険者のパーティー名は何だったか? 確か「グランブルー」だったな。
アリスがそう言ってたはず。何でもグランさんが顔を青ざめさせて走り回るからだとか。酷い話だ。
きっとリリィがつけたのだろう。奴は男には容赦がない。よくアンナさんが許したものだ。でも名前だけ聞くと確かに良いかもしれない。
「ソニア。土産ありがとな」
「ああ、いえ、こちらこそ色々と押し付けてしまって……ありがとうございます」
グランさんに続いて、アンナさん、クリスティ、リリィからもお礼を言われる。アリスには前に言われたのでお辞儀された。
「いや、まさかカリスが落ちるとはな……おかげで俺が騎士団長か、これで冒険者は引退かな。まあ丁度良かったのかもな」
「引退はともかく、よろしくお願いします。暗黒騎士団は多少個性の強い子ばかりですが、良い子達ですよ。アンナさんも困った時はアリスに相談してください。今まで彼女が率いてくれていましたので」
「ええ。わかったわ」
実際、しばらくは冒険者はやってられないだろうが、その経験を生かしてもらいたい。
「それとこれはお願いなんですが、暗黒騎士団と聖騎士団は優秀ですが、経験不足の感は否めません。なのでグランさんとアンナさんには垣根を越えて指導していただきたいのです。クリスティとリリィ、アリスもそういうことでお願いします」
「ああ。わかった」
グランさんが了承してくれたのでアンナさん、クリスティ、リリィ、アリスも了承してくれた。
両騎士団は国防の要だ。しかし元は学生達が主体なので全体的な戦力の底上げが必要だった。
新設の近衛騎士団については心配していない。こちらの元は華咲流の武闘派集団だからだ。
華咲一門なので、散華ちゃんと蓮華姉さんを当然のように守っている。つまりは今まで通りだ。
あえて言うならそこへ入れられたツヴェルフさんが心配と言えば心配か?
いや、ツヴェルフさんなら大丈夫な気がする。気づいた時には師範代とか呼ばれてそうだ。
ともあれ、お願いをしたらやる気になってくれたグランさん達は早速騎士団を見に行ってくれた。
「うむ。どことなく宰相らしい仕事をした気がする」
そうして私は満足すると帰る事にする。先ずは目前の会談を成功に導かねばならない。
†
慣れない仕事に調べ物をしたり、リリスに教えてもらったりして忙しく駆け回っているとその日はすぐにやって来た。
私はたたき起こされる様にして馬車に乗せられると、気づけばその街に来ていた。
神聖カリス王国とアストリア王国の国境の街イリス。
その一画の高級住居が会談の場所だ。先の大戦で没落した貴族の所有物だったらしい。
今から、ここで三国の会談が行われる。
皆が席に着きそれぞれ国王の紹介と挨拶を終えると、私はアルフヘイム女王に先に片付けるべき用件を伝える。
いきなりは失礼かとも思ったが、あちらも首を長くして待っていたはず。許容範囲だろう。
「女王陛下。まずは先の約束に際しまして、逃げ出した形になってしまったことを謝罪します」
「よい、こちらも不手際があった。そして救われた者もいる。こちらも謝罪と共に感謝する」
「ありがとうございます。では約束の品です。お受け取り下さい」
私は残り五つの闇の鎧のペンダントを提出する。それをブリュンヒルデが検品して問題ないと判断するとアルフヘイム女王へ渡した。
「うむ。確かに受け取った。ではこちらも約束を果たそう」
そして女王の後ろに控えていたエリスとアリシア先輩がこちらへと来る。それを見ているとその隣に仮面の人物がいることに気づいた。
仮面をつけているので物凄く浮いている。その男はこちらを睨んでいる気がするのだが気のせいだろうか。
いや、見ているのは散華ちゃんか? 散華ちゃんの方を見ると明らかに様子がおかしい。
なんだかすごく変な汗をかいている様な……。何故か隣の蓮華姉さんの様子も同じだった。
いや、落ち着け。ここは重要な場だ。軽率な行動はしてはならない。それは二人もわかっているはず。と考えているとアルフヘイム女王がこちらへ来る二人に話しかけた。
「エリス、アリシア。お前達二人はよく働いてくれた。感謝する」
「ハッ!ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
エリスとアリシア先輩が畏ってお礼を言う。
ふう。私はようやく一つの目的を果たしたと安堵する。二人は私に視線を送って頷いて来たのでこちらも頷いて返す。そして二人は私達の後ろに控えた。
先ず一仕事終えたことに息つく暇もなく、会談は進んで行く。
話が進む内に意外にもアストリアは国家として快く迎え入れられた。
そうして話し合いが進む中、それはアルフヘイム女王から発せられた。
「さて、今までダンジョンを攻略できなかった者達に、これ以上任せてよいものかどうか……」
その言葉にその場が凍り付いたかのようになった。
対する散華ちゃんは確認のために問いかける。
「それは我々の力が足りないと仰りたいのか?」
「ああ、そうだとも。攻略できていないのは何かしら強力な魔物などが倒せないという事であろう? ではそんなものをいつまで放置できるのか……いずれ地上に現れるのは明白では?」
私はデュラハンの事を思い出す。今は同情的になっているが、かの者は多くの犠牲者を生み出した。しかも地上に出ようとしていた。それはアルフヘイム女王の懸念を裏付けるにたる事実だった。
しかし散華ちゃんは毅然として応じる。
「……ふむ。その懸念はもっともだな。であれば我々の力を見ていただくのが手っ取り早いか」
「ほう。面白い事を言う。それは戦争をするという意味で捉えて良いのかな?」
アルフヘイム女王の目が妖しく輝く。対する散華ちゃんは不動の構えだ。
「戦争には違いないだろう。しかしお互いに徒らに兵を減らすこともないはずだ。精鋭同士での力比べではどうか?」
女王二人が牽制し合う。それには答えず、アルフヘイム女王は続きを促した。
「エルフという種族は長寿のかわりに出生率が低いと聞いている。兵を集めるのは大変なはずだ。こちらも兵を減らしたくない。特にそちらの神聖カリス王国の前ではな。お互い利があると考えるが?」
「ハッ、嫌われたものだな。まあ、無理もないか。闘技場の件以来、お互いこんな立場になるとは思ってなかったろうしな。こっちはいいぜ、なんなら審判してやるよ」
散華ちゃんの言葉に神聖カリス王はそう言うとこちらを睨んできた。主に私を。
もちろん目を逸らしてやりました!
アルフヘイムでは気付かれなかったが、さすがにもうバレている様子だ。
後ろでダンが笑っているのが苛つく。そういえばあの薔薇男がいないな……パーティーでは無かったのだろうか。
「ふむ。良かろう。ならばその力とやら見せてみよ。それでは我々が勝った場合はダンジョンの管理権と兵の駐留権をいただく。それとダンジョン攻略に際していくらか便宜を図ってもらおうか」
「良いでしょう。では我々が勝てばそちらの捕虜を返していただきましょう」
散華ちゃんの言葉に女王の後ろに控える仮面の男は苦笑している。
んん? 後ろの仮面男を散華ちゃんは捕虜だと言ったのか? つまり正体がわかっているのだ。
だから散華ちゃんと蓮華姉さん、二人の様子がおかしかったのか……
「わかった。神聖カリス王殿もそれで良いな?」
ここでアルフヘイム女王は隣の勇者へと確認する。
「そちらが良ければ俺は構わねえよ。独立しちまったんだから領有権は無理だったが、これで約束は果たしたことになるんだろう?」
「ああ。それで良い」
「なら、決まりだ」
意外にもあっさり承諾した勇者。いや、大会での印象が悪すぎてそう思っただけか……
きっと神聖カリス王国も忙しいはずだ。一地方の独立したアストリアなどより、大国なのだから。
「では日時は一月後、場所はリーヴ大森林。詳細は追って地図を送ろう。人数は……十人でどうか?」
しっかりエルフが慣れている森林地帯を指定してくる辺りアルフヘイム女王は抜け目ない。
「了解した」
アストリア王、散華ちゃんが了承してそれで決定となった。
代理戦争のような妙なことになってしまったが、まだ少しだけ猶予はある。こちらも向こうも準備が必要だ。
今はアリシア先輩とエリスが帰って来たことを素直に喜ぼう。
「アルフヘイム女王陛下。そちらの捕虜殿と少し話をさせてもらっても良いだろうか?」
「ああ。好きにすると良い。約束さえ守ってもらえればな」
「感謝する」
散華ちゃんはアルフヘイム女王に断りを入れると、蓮華姉さんと仮面の男を連れて退出した。
†
控室用の別室。
私はそこへ姉様と仮面の男を連れ出した。
そして気づけば私は仮面の男に詰め寄っていた。
「言いたいことはたくさんあります。どうして連絡を下さらなかったのか! いえ、それが出来なかったのだとしても母様を心配させる様な事は! ……知っていますか? こちらでは戦死ということになっているんですよ!」
私はこんなことを言いたいわけじゃない。でも混乱してしまってどうしようもなかった。先の会合はよく乗り切れたと自分を褒めたいくらいだ。
「ああ、うむ。すまなかった。散華。蓮華。あの場、戦場を納めるにはそうするより他に無かったのだ。どうしてもアストリア伯戦死という情報が必要だった。父上に連絡はしたが、そういう状況なので内密にしてもらった。許してくれ」
そうして仮面の男は仮面を外した。その男は元アストリア伯、華咲双樹だ。
仮面をしているくらいでは気づかないはずも無かった。何より華咲流独自の立ち居振舞い。そして腰に提げるは名刀「濡羽鴉」。
分からないはずが無かったのだ。
そして私はその穏やかに微笑む顔を見た途端に、何故詰め寄っていたかなど頭から吹き飛んだ。
「父様! 良かった……生きていたんですね」
「父上……」
私と姉様は父様の胸に飛び込むと涙を堪えられなかった。
「本当にすまなかった。心配をかけたな。そして良く華咲を……いや、アストリアを守ってくれた」
父様はそう言って私達二人を包み込む様に抱きしめてくれた。
「良かった……」
そう何度も何度も口にする。そんな在り来たりな言葉しか出なかった。それは姉様も同じだった。
それからしばらくして落ち着くと、私は決意を告げた。
「父様……必ずアストリアへ帰っていただきます。待っていてください」
その言葉に驚いたような表情を見せたあと、父様は再び穏やかに微笑んで……
「ああ。期待している。アストリア女王陛下」
「やめてください。いくら父様でも怒りますよ!」
そうして三人で笑い合った。
私と姉様は目を合わせて頷き合う。絶対に負けられないと心に誓うのだった。




