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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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アストリア王国誕生

 戦死報告以降、アストリア伯、双樹氏から連絡は来ないらしい。お爺さんが情報を集めているらしく任せているそうだ。

 散華ちゃんも蓮華姉さんも無理をしている事が見て取れる。しかし今は頑張ってもらうより他はないので私は切り出す。


「はい。では、それはそれとして切り替えて行きましょう」

「おい。私の決意は?」

「そういうのはいいでーす。サクサク進めて行きましょう。準備は粗方整っているとはいえ、やる事は多いですからね」

「……お前のそう言う所、逆に感心するわ。ちょっと感動した自分をぶん殴りたい……」


 うむ。これぞクール美少女の真骨頂です。たとえ冷たいと言われようが、涙を呑んで耐えるのです。


「それでは近く声明を発表しましょう。場所は再建された学園の闘技場で良いでしょう。先も言いましたが生徒会には既に根回しは済んでおりますので、そのまま直属の騎士団として働いてくれるでしょう」

「お前はまた勝手に……」


 私の言葉に散華ちゃんは呆れていたが、私は居なかったので主に頑張ったのはアリスだ。


「冒険者ギルドやアストリア領民の方は私とお爺様で根回ししておきましょう」

「それは助かります」


 蓮華姉さんの言葉に頷いて応える。あと華咲が動いてくれれば、もうほぼ完了したようなものだ。


「王城はどうしましょうか? 華咲家も悪くは無いですが、私としては学園を改築した方が適している気がします。それとも新しく造りますか?」

「いや、新しく造るのは現実的ではないだろう。余計な反発を招きかねない。華咲家は難攻不落ではあるが相応の人員への対応が必要となると不安がある。やはり学園が相応(ふさわ)しいだろう」

「では、そうしましょう」


 私が提案して散華ちゃんが決めていく。大枠が決まると細部を詰めていく。



 そしてメインイベントがやってまいりました。

 私はアラネアを呼ぶ。彼女は今はメイド服姿になっていた。作業服として渡したものだが、とても喜んでくれた。 

 彼女は長年洞窟暮らしだったので様々な物に興味を示すが、中でも服飾については特別だった。


「同志アラネアよ。やってしまってください」

「ご主人様、良いのですね?」

「良いのです。そのために私についてきたはずです。私は約束を守りますので」

「はい。ありがとうございます!」


 アラネアが腕輪を外す。脚部が蜘蛛に戻るが、メイド服はスリットを入れて改造してあった。

 伝えてはあったが、実際見たのは初めての散華ちゃんと蓮華姉さんは驚いている。


 そしてアラネアは手を振る仕種をすると、突然散華ちゃんが壁に磔にされた……


 いや、壁のやや手前にあるそれは蜘蛛の巣だ。事前に用意してもらったそれはアラネアの特製で巧妙に隠蔽されていた。注目しても分からないほどに。


「なっ!? ……何をするんだ!」

「これは!? ソニア、 場合によっては許しませんよ」


 散華ちゃんが怒るのはともかく、蓮華姉さんまで怒る。だが、その目は散華ちゃんに釘付けだ。

 私は散華ちゃんと蓮華姉さんに説明をする。


「王たるものそれに相応しい恰好をしなくてはなりません」

「それとこれに何の関係が!?」

「少しサイズを測らせてもらうだけです」

「普通に測ればいいだろう!」

「それじゃ、楽しくない……いえ、精度の高い詳細なデータが必要なのです。何せ王様ですので」


 私は盛大なため息を吐きながら、わかってないなと伝える。口が滑ったのはご愛嬌だ。


「楽しくないって言ったな!」

「やれやれ……王たる者こんなことで動じてはいけないのです」

「勝手なことをっ……」


 散華ちゃんは暴れて脱出を試みている。その度に糸は絡まりもはや自力での脱出は不可能だろう。


「くっ、何だこれは! 全く動けない? 魔法は?」

「おっと、私の家を火事にする気ですか? 王様が民家を火事にするとか、いきなり醜聞を立てないでくださいね。もっともそれはアラネアの特製ですのでそう簡単に切れませんが」

「むぅ……」


 静かになった散華ちゃん睨まれる。私の隣でアラネアが喉を鳴らす。

 蓮華姉さんは心配そうに振舞っているが、明らかに興奮している。

 全く助ける気は無いようです!


「一応、王妃の分も作っておきましょうか」

「くっ……仕方ありませんね。やってください」


 そう言って、蓮華姉さんは散華ちゃんに飛びつく。


「ちょ……姉様!?」

「あら。ごめんなさい。何分慣れていないもので」


 明らかに故意だった。やりますね……。私は一応注意しておく。


「くっつかれると測りにくいのですが……」

「そうですね。散華ごめんなさいね……離れませんと」

「姉様! どこ触ってッ……。やめっ……。ちょっ……姉様ッ!?」

「あら。さらに絡まってしまいました」

「……」


 平然と離れるふりをしながら、散華ちゃんを触りまくるとは……さすが王妃、侮れぬ。

 そして顔を上気させた蓮華姉さんは散華ちゃんを見つめて言う。


「陛下、王妃とお呼びください」

「呼べるかっ!」


 実に楽しそうである……


「ずるい。羨ましい。けしからん! ぐぬぬ。イチャイチャしおって……私もッ!」


 と私も勢い良く飛び込んでみたのだが……勢いがつきすぎて隅の方に引っ掛かってしまった。


「ぬおおおおっ! 痛恨のミス! 早く脱出を……」


 焦って、もがいたせいで完全に絡まってしまう。


 不覚ッ! 動けぬ。


 そんな中でも、アラネアは荒い息を吐きながらも計測をこなしていく。計測を終えて十分に堪能した後、アラネアは散華ちゃんを解放した。

 そして蓮華姉さんも測り終えると解放した。私はそれを指をくわえて見ていることしかできなかった。

 私はガックリと肩を落として声をかける。


「あのー、そろそろとって欲しいんですが……」

「今日一晩はそうしていろ」


 言いながら散華ちゃんから、冷ややかな視線を送られました。

 王はご立腹だったのです。


 助けを求めて同志、アラネアを見る。


「ご主人様。最高です!」

「あ、うん……」


 こちらも興奮状態で駄目そうです。

 結局、アラネアが満足するまで吊るされました。しっかりと私の分も測り終えて。



 †



 先に決めた声明を発表するための式典の日。

 

 学園、闘技場の控室に散華ちゃんが到着する。

 散華ちゃんが来たので、私は衣装を取り出す。その儀礼用衣装は一週間不休でアラネアが制作してくれた。

 本当はもっと時間をあげたかったが、事態は切迫しているので王と王妃の分だけ急いでもらった。国民に王の威信を印象づけるためのものだ。


 新王として立った勇者は実権の掌握を急いでいるし、前カリス王の方は一向に集まらない兵に苛立ちを見せているらしい。

 ともかく、そうしたおかげもあって、間に合ったのだった。


「……男物だな」

「いいえ、男装に見える女性用王衣です。アラネア渾身の力作ですよ。疲れて今は眠っていますが、やりきったというとても良い寝顔でした。そして今回はスペシャルアドバイザーに来てもらいました。」


 少し不満そうな散華ちゃんに私が言うと、蓮華姉さんに連れられてその人物が現れる。


「藤乃!?」

「はい。お嬢様、いえ陛下……すみません、まだ呼び慣れていないようです」


 男装の麗人、華咲家執事藤乃である。今日もきっちりと男性用執事服だ。彼女には手伝いを頼んでいた。

 藤乃はテキパキと散華ちゃんと同時に蓮華姉さんまで服装を整えていく。

 蓮華姉さんの王妃衣は普通に女性用だ。


 アラネアの作った衣装は素晴らしかった。

 王と王妃という出で立ちなのだが、しっかりとお金をかけました的な嫌らしさが無い。それでありながら、立派に見える。

 カリス前王との決別という意味ではこれほどしっくりくるものはないだろう。

 私と藤乃は準備の整った二人を満足気に見る。


「お二方共に素晴らしいです」


 藤乃がそう言ったように、二人とも元が良いのと相まって神々しささえある。


「そうか……そうだな。藤乃、ありがとう。ソニア、後でアラネアに礼を言っておいてくれ」

「ええ。わかりました。では行きましょう」


 なんだかんだ言っても、散華ちゃんも満足していた。

 蓮華姉さんは散華ちゃんを見て、うっとりしている。


 そうして私と藤乃が先導し私達は会場へ向かった。



 †



 学園の闘技場。

 先の大会での損傷は完全に復旧され、今そこには大勢の人々が集まっている。


 場内には規律正しく礼服に身を包んだ学生達が並び、その前列には生徒会改め、アストリア王国騎士団。

 観客席には市民達。私と藤乃、ツヴェルフさんとリリスは護衛として王妃の後ろに陣取る。

 師匠は目立つのを嫌がったのでアイリスを連れて観客席で見ていてくれるはずだ。

 クロは家で疲れて寝てしまったアラネアの世話をしている。


 そしてやはり、アリシア先輩とエリスが居ないことはとても寂しく思う。



 急遽設営された壇上へと散華ちゃんが登る。王の威厳を振り撒きながら赤の絨毯の上を歩く。

 その凛々しく美しい姿に皆が圧倒され、息を呑むのが伝わってくる。

 観衆はその勇姿を記憶に焼き付けたことだろう。


 登り終えて、散華ちゃんは皆の方へと視線を投げる。

 そして諭すように語りだした。


「前カリス王は王都を追われ失墜した。だが、これは当然の報いである。神聖カリス王が発表したように奴隷制を復活させようとしたためだ。よって我々は前王には組しない」


 そうなのだ。その点に置いて神聖カリス王は迅速だった。これはやはり、後ろでアルフヘイム女王が手引きしたためだろう。


「では新王はどうなのか? 分からない。これは実績が全く無いからだ。加えて先日の大会の件もある……」


 勇者は王都では人気があるらしい。王都ではだ。逆にここでは先の大会の印象もあって、最悪だった。

 あの大会、特に決勝戦ともなれば皆が注目していた。勇者が一度、死んだところまでは皆逃げて見ていないだろうが、あの大混乱を引き起こしたところはしっかりと目撃されていた。


「よって、我々は決意した。アストリア領は今日を持って、アストリア王国として独立を宣言する!

 そしてしばらくは不肖ながらこの私、華咲散華が王権を握らせて頂く!

 皆の力を私に預けて欲しい。よろしくお願い申し上げる!」


 その日、会場には割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った。


 アストリア王国、そしてアストリア王の誕生である。


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