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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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Yes, Your Majesty.

 カリス王都には王命で造られた贅を凝らした式典会場がある。

 自身の権勢を公に示すためのものだったが、皮肉な事にその失墜をも晒す結果となっていた。


 物々しい警備の中、その会場に二人の人物が中心に立った。アルフヘイム女王と光の勇者ローレンである。

 そして勇者が跪いて礼を取ると女王が宣言した。


「アルフヘイム女王マリー・アネットの名において汝、ローレン・デイライトを神聖カリス王と承認する。これよりは共に同盟国として助け合って行こうぞ」


 大群衆の歓声と共にその日、神聖カリス王国誕生と共に新王として勇者が即位した。この報せは瞬く間に各地へと伝えられた。


 当然ながらこれに猛反発したのが前カリス王派、貴族などの既得権益に縋りつく者達である。

 そのため新王は実権の掌握と共に軍の再編を行わなければならず、逃げ延びた前国王一派との戦いの準備に追われるのだった。



 †



 カリス王国ティタン領へと逃れた王はティタン伯に保護されていた。

 普段は領主のティタン伯が使用している場所を今は王が使っている。

 ティタン伯の城は王城と比べてそれほどの遜色は無い。

 しかし付き従う者は少なくなっており、王の機嫌をさらに損ねるには充分だった。


「許さんぞ! あの売国奴め! よりによって王を(かた)るなど断じて許さぬ。それを止められぬなどアストリア伯も口ほどにもなかったか。存外、期待外れであったな。……してティタン伯殿、王都奪還の準備の方はどうなっておる?」

「それが思うように兵が集まっておらず、申し訳ございません」

「何故だ?」


 それは王都を奪われたからだ。明らかに勢いが向こうにある。

 余程横暴でも無ければ国民も傭兵も勢いのある方につく。それは当然の判断と言える。

 こちらには国を守る力が無いことが露呈してしまったのだから。


 そうは思っていてもティタン伯は事実を伝えるわけにはいかない。

 既得権益を守るためには、どうにかして巻き返しを図るしかないのだ。

 故にその疑問には分からないふりをした。そしてティタン伯は言う。


「どうか王のお力で各領主達をお(まと)めください。少々、危機感を煽ってやれば協力を申し出て来る事でしょう」

「そうか……そうだな」


 こうして各地の領主たちは対応を迫られることになる。



 †



 学園の散華ちゃんの執務室。

 その情報をツヴェルフさんが持って来た。教授に知らせるよう言われたらしい。

 彼女は何やら迷っている様子だったが、決心して伝えてくる。


「光の勇者がカリスの新王として立ったそうです。あとアストリア伯が戦死なされたとの報告もありました」


 私達に衝撃が走る。勿論アストリア伯戦死の件だ。


「嘘だ……そんなはずはない!」


 散華ちゃんは激しく動揺していた。無理もない。それは蓮華姉さんも同様だ。

 しかし、私は心を鬼にして迫る。酷ではあるが、今やらずにいると失うものは計り知れない。


「散華ちゃん決断を……」

「すまないがソニア、今は何も考えられない……」

「それは分かる。分かるけど、だからこそ動かなくては!」

「ソニア……いい加減にしてください。分かっていますから」

「……すみません」


 散華ちゃんに詰め寄るも蓮華姉さんに(たしな)められる。

 分かっていると言われれば引きさがらざるをえない。事態は予想よりも急速に進んでいた。

 新王からはすぐに召喚命令か何か連絡が来るだろうことは予測される。

 ただ前国王派がまだ反抗しているとの情報も届いていたので少しだけ猶予があった。


 本来なら約束を果たすためにすぐにアルフヘイムへ行くつもりだったが、こうなってしまっては動けない。

 アリシア先輩とエリスには申し訳ないが、今しばらく待っていてもらうしかない。


 その後、久しぶりの学園で教授に挨拶した後、私は学園の広場へアリスを呼び出した。

 学園に居てくれたので良かった。そして今の状況を伝える。


「アリスすまない。君の協力は無駄になるかもしれない」

「いえ、仕方無いことだと思います」

「あとこれお土産。グランさん達にも渡しておいて欲しい」

「大司教様、ありがとうございます!」


 アリスは私が居ない間、私の代わりに動いてくれていた。丸投げしてしまった事は申し訳なく思う。

 だが、そのおかげで大方の準備は整っている。

 後は散華ちゃんの決断を待つだけだが、こればかりは彼女次第だ。



 †



 しばらくして華咲家にそれは届いていた。

 受け取った姉様がその手紙を読んでいたが、顔が険しくなったのが気になって私は尋ねた。


「姉様それは何ですか?」

「貴女は見ない方が良いでしょう」

「教えてください!」


 私が詰め寄ると、姉様は仕方なくという様子でそれを渡してくれた。


「……散華良いですか……ソニアではないですが、クールになりなさい」

「私は冷静です」

「……仕方ありませんね。私でも怒りが抑えられそうにないのです」

「姉様……」

「おそらく檄文というのでしょうね」


 私は渡されたそれに目を通す。


 『アストリア伯殿は真の忠臣であった。次なる後継者にもそうであることを望む。ついてはティタン伯殿に応じて挙兵されたし。真なるカリスの王』


 とだけ記されていた。それはきっと各領主にも似たようなものが送られているだろう。

 しかし、こうも文面から傲慢さが滲み出ているとは……


「ふふ。これが激怒というものでしょうか。父様を盾にしておきながらこれですか……」

「……散華」

「ええ。分かりました。ソニアの言っていた事が充分に……充分すぎるほど」


 私は今まで感じたことの無い様な怒りに包まれていた。

 父様はもちろん、姉様も勇者パーティーとして、この王と直接対面したことがある。だから、こうした王であることは知っていた。


 私の現状認識が甘すぎたのだろう……


「散華?」

「姉様……決めました。私は王になります」

「……良いのですか? それは華咲の当主となるということでもありますよ」


 姉様の視線が鋭く光る。それはきっと苦難の道だ。私の覚悟が問われていた。

 だが、それでも私は決断する。


「はい」

「ならば母様とお爺様にも報告を。私も行きましょう」

「ありがとうございます」


 私達は母様に承諾を得た後、お爺様の住む別邸へと向かった。



 †



 華咲家別邸。そこには華咲家の爺(ハナサカジジイ)が住んでいる。

 華咲翁を上座にして散華、蓮華、二人の母の(リツ)が正座で対面する。そしてその後方の壁際に執事の藤乃が控えていた。


 こうして双樹を除く皆が集まったのは、今後の華咲家を担う重要な話になるからだった。

 散華から話を聞き終えると、華咲翁は葎と蓮撃の二人に確認する。


「儂は引退の身じゃから強くは言わぬが、お前達はそれで良いのか?」

「はい。二人とも意思の強い子ですから」

「はい。お爺様の了承を得たく……」


 葎と蓮華はそれに了承の意を示した。


「ならば好きにするが良い。いや、手伝いくらいはしてやろう」

「ありがとうございます!」


 四人が去ると華咲家の爺は庭に出る。そして月をみながら語り掛ける様に呟いた。


「双樹よ……何とも奇妙なことになったのう」



 †



 私の家へ散華ちゃんと蓮華姉さんが訪ねてきた。再三迫っていた例の件について決断をしたらしい。

 開口一番、散華ちゃんは言い放つ。


「ソニア、決めたぞ。私は王になる」

「散華ちゃん……」


 喜ぶべきところではあるが、散華ちゃんの様子が何か変だ……

 長い付き合いなのでそう感じてしまう。

 やけに眼光が鋭い気がする。性急に迫りすぎたのだろうか?

 私は戸惑い、焦って……


「待って! 無理してるよね? 本当に嫌なら無理強いはしないから!」

「何故いまさらそんな事を言う? 時間が無いのだろう?」

「それは……そうだけど……」


 私は迷う。何かがあったのだ。そう確信する。

 それを聞くべきだろうか?


「……蓮華姉さん?」


 私は助けを求めて蓮華姉さんを見る。


「ソニア、散華の好きなようにさせてあげなさい」


 そう言う蓮華姉さんのその瞳からは並々ならぬ決意が感じられる。

 それは何が起きても自分が責任を取るという決意だった……

 ならばこれ以上の詮索は無粋でしかないだろう。


「……わかりました。散華ちゃん一つ聞かせて欲しい。それは復讐ですか?」

「そうだ」


 私は即答した散華ちゃんを見て悟る。

 私は決定的な間違いを犯したのかもしれない……

 どうしようもなく、やってしまったのかもしれない。


 私は目を閉じて一息つく。


 ならば私も私の責任を取らなければならない。

 そして私は散華ちゃんをしっかりと見据えて告げるように。 


 私は私の王へと礼を取る。


仰せの(イエス ユア )ままに……(マジェスティ)



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