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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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帰路

 エリスの持ち帰った手紙に泣いて喜んだアリシアだったが、そのためか瞬く間に情報は伝わっていた。

 その件について女王の部屋で、ブリュンヒルデは対応を尋ねていた。


「ソニア・ロンド、生きていた様です。どうしますか? 追いますか?」

「よい……我々は助けられたのだろう? それにミスト将軍の話では、次は正式な使者として来るそうだ。ならば楽しみに待つとしよう」


 女王はペンダントを手で弄びながら答える。そして手の中のそれをじっと見つめる。


 (ようや)くだ。漸く手掛かりが現れた。やはりアストリアのダンジョンだったのだ。事態が動き出したのを感じる。しかし……


 何故だ……? なぜ私はこれを舐めたいなどと……

 呪いか? いや、かつて見た時にはそんなものは……

 それは蠱惑(こわく)的に輝き、抗いがたい誘惑に誘われる。

 思わず舌が伸びようと……


「陛下?」

「ひ、ひゃい!……オホン」


 ブリュンヒルデが(いぶか)しがっている。

 我に返った女王は顔を赤らめながらも平静を保とうとした。


「何でもない。先ずは目前に迫る戦争について考えるとしよう。準備の方は?」

「はい。間もなく完了する予定です」

「ならば勇者に知らせるのだ」

「了解しました」


 そうしてブリュンヒルデは退室した。


「危なかった……」


 女王は顔を赤らめながら苦悩する。


「舐めるべきか、舐めざるべきか、それが問題だ……」



 †



 私はアストリアへの帰りの馬車の中で、散華ちゃんと連絡をとっていた。

 通信用の魔導具だ。形状は各種あるが一般的なのはプレート型かイヤリング型だ。

 主に男性が前者を、女性が後者を選びやすいらしい。

 私も小型のイヤリング型だ。ラピスラズリという石と銀で装飾されたお気に入りだ。


「散華ちゃん。よく聞いて欲しい」

「ああ。どうなった?」

「女王様とは約束できた。あと残りのペンダントを渡せば恐らく大丈夫だと思う。一度あげたものを返して貰うのは申し訳ないけど、エリスとアリシア先輩のためにお願い」

「ああ。リリスから聞いている。既にこちらで用意してある」


 良かった。その件は大丈夫そうだ。だが、もう一つ問題がある。


「それで、ここからが重要なんだけど……勇者が生きてた」

「何だと! あの状況でどうやって……」


 それはわからない。でも問題はそこじゃない。ミスト将軍が教えてくれたことだ。


「うん。それで知り合った将軍の話だと、勇者とアルフヘイムの女王様は手を組んだらしい。それでどうも、エルフの拉致に関連して、アストリアを制裁として貰うと密約したみたい」

「なっ……! それは本当か!?」

「聞いた相手はエルフだからね。ほぼ確実」

「何ということだ……! これでは父様の苦労は……」


 実際、華咲家にとっては酷い話だった。

 どこの誰かも知れない悪事を犯した王侯貴族のせいで領地を取られようとしているのだから。


「それでここからが最重要なんだけど……いや、やっぱりここでは拙い気がする」

「何だ? 気になる物言いだな」

「いや、これはタイミングが重要な話だから。帰ってから話す」


 この話は慎重にならざるを得ない話なので、こんな馬車の中ではしたくなかった。


「そうか……わかった。それにしてもソニア、お前はやればできるのだからいつもこのくらいちゃんと報告してくれれば……」

「右往左往してくれる散華ちゃんが大好きなのです」

「……おい」


 そうして通信を終える。後の対応は散華ちゃんがどうにかするだろう。

 きっと散華ちゃんも寂しがっているに違いない。

 はやく会いに帰ってやらねば!



 †



 カリス王国王宮。そこはこれでもかというほど豪華絢爛(ごうかけんらん)に彩られていた。

 その王の間。そこには王が特別に懇意(こんい)にしている者だけが訪れる。

 例えばこのカリス王国ティタン領領主のように。


「陛下、いかがですかな? エルフの奴隷は?」

「奴隷などおらぬよ。ティタン伯殿?」


 ティタン領領主の言葉にカリス王は心外だと言うように答える。


「そうでしたな。失言でした。エルフの使()()()でしたな」

「うむ。王とはいえ、ままならぬものよ。奴隷制度を復活させたいのは山々だが、民意というものがあるでな。愚民共には良い顔を見せねばならんのだよ。それに臣下の反発もあるだろうからな」

「ああ。アストリア伯ですね」

「そうだ。あれほど融通の利かない奴もおるまい。だが奴は盾としては使える」


 酷い言われようだが、そのアストリア伯に王都の警備、警護を任せているのはその力をあてにしてのことである。


「頭の痛い話ですね」

「分かってくれるか? ティタン伯殿」

「勿論でございます。この身、陛下の御為ならばどんな困難も乗り越えて見せましょう」

「おお。真の忠臣は其方(そなた)のみじゃ。感謝する」

「勿体無きお言葉。感涙に堪えませぬ」


 ティタン伯は泣き真似をする。それに感動したかのように王も応じるのだった。

 そんな腹の探り合いをいつも通り終えると、ティタン伯は王の間を退室した。

 その帰り。


「これはこれは、アストリア伯殿。城内警備の確認ですか? ご苦労な事ですな」

「これはティタン伯殿。近頃よくこちらにお越しになられますが、何か問題でも?」

「いえいえ、何も問題ありませんよ。ただの世間話をしに来ているだけです」

「そうですか。では続きがありますので失礼を」

「はい。頑張ってくださいね」


 アストリア伯、現華咲家当主華咲双樹(ハナサキソウジュ)は考える。

 ティタン伯、あまり良い噂を聞かない御仁だ。容疑者の一人でもある。

 だが一人を捕まえたところで意味が無い。正直ここまで腐敗しているのかと嘆きたくなる。

 何より一番厄介なのは……


「やはり陛下が関わっているのか……しかし、いくら諫言(かんげん)を申し上げても聞く耳を持たれぬ。これでは……」


 華咲双樹は有能ではあるが、曲がったことを決してしない男だった。

 その信念故に窮地に立たされているのは自覚がある。


「父上なら、問答無用で切り伏せるでしょうね。それが羨ましい」


 つい愚痴が出てしまうのだった。



 †



 ある魔導学院のとある一室。華咲家の爺はその男と面会していた。


「近頃やけにきな臭くなってきておるが、お前さんの仕業じゃなかろうね? 犯罪王さんよ?」

「また随分と古い名を持ち出したものですね……私はこの件には全く関わり有りませんよ。私にとっても不利益にしかなりませんし。それに仮に私が犯人だったとして、私が証拠を残すとでも?」

「ああ。そうじゃったな」

「分かってもらえたなら結構です」


 そうは言いながらも、一挙手一投足を見逃すまいと、互いの鋭い視線が絡み合う。


「互いの領域には不可侵。そう昔、決めたはずじゃな」

「ええ。勿論、心得ておりますよ。だから動かなかったんですがね」

「ふん。邪魔したの」

「いえいえ。お気になさらず」


 男の言葉に満足したのか、華咲家の爺は帰って行く。

 それはただの確認だったが、二人にとっては重要なことだった……



 †



 馬車はアルフヘイム王国を抜けてカリス王国へと入っていた。

 その国境の街を抜けて進んでいる道中。私達は男達に囲まれていた。


「アンタら女三人なんだろう? 俺たちが護衛してやるよ」


 そう言って、どう見ても山賊なリーダーが下卑た笑いを顔に張り付けながら道を塞いでいる。


「いきなりかよ……」


 私たちはカリスへ入って早々にこんな事態に遭遇していた。


「先の街で目を付けられてしまったようですね。アラネアが」

「ええっ! 私のせいですか?」

「いや、悪いのはあいつらだよ。っていうかもう山賊飽きた。リリス行っちゃって」

「そうですね」


 馬車は駆け足で進み出す。行く手を阻もうとした賊達は慌てたように逃げ惑う。


「ちょ……!!」


 リーダーは驚きながらも武器を振りまわそうとしたので、リリスの魔眼で一睨み。

 崩れ落ちたリーダーはそのまま馬に跳ね飛ばされた。

 追って来ようとした奴等には私が無詠唱で蒼炎を放っておいた。

 賊達の中心に飛んだ蒼炎は爆発した。その爆風で何人も吹き飛ばされていた。

 それだけで山賊達は戦意を完全に失っていた。


 男達は呆然として、去って行く馬車を見送るしかなかった。



「やっぱり、カリスって治安が悪いんだな……」


 私はアルフヘイム王国を見習ってほしいと思うのだった。


「すごいですよ! お二人とも強いんですね!」

「ああ。うん。それにしても……無詠唱でまさか爆発するとは……ちょっとだけ強くなったんだろうか?」


 興奮気味なアラネアと対照的に私は冷静に考える。

 危機的状況に陥った事で強くなったとか?

 そう言えばお婆ちゃんが「青の書」との結びつきがどうとか言ってたからそれだろうか?


 そんなことがありながらも馬車は一路アストリアを目指すのだった。



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