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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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心配

 ミスト将軍の剣の一閃が、また一体の巨大蜘蛛を切り裂く。

 既に蜘蛛の死骸は辺り一面に広がっていた……


「粗方、片付いたか。ここまで数を増やしているとはな……おかげで少々苦戦した」

 

 地下牢から洞窟内へと進んだ討伐隊は激戦の末、大方の駆除に成功していた。

 近衛兵はエルフの中でも精鋭揃いだ。

 それにもかかわらず、死者こそ出なかったものの負傷者が何人も出てしまった。

 近く、戦争も控えている。このようなことで戦意がくじかれるのは避けたい。

 ならばこの辺りが潮時だろうと、ミスト将軍は判断を下す。


「撤収するぞ!」


 しかしそれを受け入れられない者もいる。アリシアだった。


「ソニア! 何処にいるの!」


 アリシアは必死になってソニアの姿を探すもまるで気配がない。最悪の状況が脳裏によぎる。

 それを見かねて、エリスから声がかかる。


「一度戻りましょう。今のアンタは見てて危ないわ。それに皆疲労してる」

「でも!」

「ここに居ない事はアンタが一番よく分かってるでしょう? 冷静になりなさい。それでも分からないなら力づくで連れて帰るわよ」

「でも……いえ、そうね」


 エリスのいう通り、アリシアは風や大気の流れで気配を察知できる。できてしまう。

 ソニアがこの場所にいないことは明白だった……


「ソニア……無事でいて……」


 アリシアはその場所に思いを残しながらも、帰るしかないのだった。



 †



 ウルド、ヴェルザンディ、スクルドの執務室。


 彼女等は内政を任されていることもあって、その部屋には関連資料が所狭しと並べられている。

 聖樹信仰の神官では女王を除けば最高位を与えられている彼女達は、その繋がりを活かして内政を行っている。

 信者達は国内だけでなく国外にも及んでいるため、その影響力は計り知れない。


 巨大蜘蛛の報告は神官三姉妹へも届いていた。

 そのことでウルドはスクルドへと詰問(きつもん)していた。


「スクルド、事前に察知できなかったのですか?」

「何度も言ってる……未来を見ても意味はない。未来を変えようとした結果が、私が見た未来と全く同じだった時の絶望……未来を見ることに意味はない」

「それは分かりますが……せめて、知らせるだけでも……」


 こうしたことがままある。いつものことだと思いながらヴェルザンディは止めに入る。


「まあ落ち着けよ姉貴。幸い大事無かったんだし」

「……そうですね」

「これも予定調和。全く意味はない」

「貴女はまた……」


 本当にいつものことだと思いながらも、ため息が出てしまうウルドだった。



 †



 私はアラネアに案内されながら洞窟の出口へと向かっていた。


 しばらく進んで来たが、洞窟内はあれから魔物が出ることはない。

 というのもアラネアが独自のルートを構築していたからだった。

 彼女の糸は頑丈で並みの魔物は通さない。私が助かったのもそのおかげだ。

 なので安全に進む事が出来た。


 そうしてついて行くだけで洞窟を出ることができた。

 洞窟を出るとそこは森の中だった。歩いた距離から考えると、恐らく王都の外だろう。

 外へ出た事でホッとする。全く、酷い目にあった……などと考えているとそこへ声がかかった。


「お待ちしておりました。ご主人様。おや、そちらの方は?」

「リリス!? あ、ああ。こちらは同志アラネア。先輩として面倒を見てあげて欲しい」


 まさか、ここで待っているとは……さすがに驚いた。


「ふふ。かしこまりましたわ。よろしくお願いいたします」

「よ、よろしくお願いします。ほわぁ、お美しい方ですね」

「うむ。類は友を呼んでしまったのだ。ところでリリス何故ここに?」

「ええ。ご主人様の危機を感じまして、ですが無用でしたね」


 先のアラネアと同じく、リリスとも使い魔契約で繋がっている。それで察知して心配してくれたらしい。

 

「いや、助かる。では散華ちゃん達に連絡は?」

「致しました。今はペンダントを集めてもらっています。後でまた連絡が来ることになってます」

「そう。ありがとう」

「いえ。それでこれからどうしますか? 馬車はあちらに用意してございますが……」


 さすがリリス。優秀だ。


「うーん……王都へ戻った方が良いのだろうけど、脱獄扱いだったら嫌だな。ミスト将軍の言っていたことも気にかかる。それにアラネアもいるし一度アストリアへ帰るべきか……でもアリシア先輩達が心配してるだろうな。王城は結界があるから連絡できないし。下手に連絡すれば捕まる恐れも……」


 わたしはあれこれと悩んだ末、決断を下す。


「よし、帰ろう。アリシア先輩達には次の街で手紙でも送ろう」

「わかりましたわ」


 そうして私達は馬車に乗ってアストリアを目指すことにした。



 †



 手紙を出すため次の街へ向かった私達だったが、街の手前でやはり問題があるだろうとの結論に至った。

 それはアラネアのことだ。

 アラネアは美少女だ。だが蜘蛛だ。世の中、このギャップが良いという上級な方々ばかりでは無いのだ。


「巨大なスカートで隠す案はどうだろう?」

「嫌です。可愛くないでしょう?」


 私の提案はアラネアに即座に却下された。むむ、さすが芸術家。並々ならぬこだわりがある様だ。

 特に衣服への執着は驚かされる。彼女の背負い鞄には大量の衣服が詰まっているのは確認済みだ。


「幻術で騙すにしても限界があるしな……リリス、何か案はない?」

「そうですね……見たところ古代の呪いのようです。この腕輪は効果あるでしょうか……」


 リリスはアラネアを観察すると鞄から腕輪を取り出した。それをアラネアに着けさせる。


「おおっ!」


 言われるままそれを身に着けたアラネアに、劇的な変化が起きた。

 蜘蛛の脚部から呪的な魔素が霧状に放出された。


 それが霧散すると現れたのは美少女だった。ちゃんと人の脚だ。洞窟に住んでいたせいか白くほっそりした脚だ。服で隠れているがきっとハイテナイ。ゴクリ……


「良かった。呪い封じの魔導具ですわ。ただそれを着けている時は蜘蛛の能力は使えなくなりますのでご注意を。それは差し上げますわ。先輩ですから」

「そんな悪いです。でもこれが無くては街に入れない……」


 アラネアが悩んでいる。うん、分かる。見るからにお高そうな魔導具です。

 しかも古代の呪いを打ち消すような希少品である。アラネアは悩んだ末に。


「そうだ! リリス先輩にぴったりの服を作ります。時間はかかりますけど……」

「まあ。それは楽しみですわ」


 リリスの有能さは留まるところを知らないな。クロよ……メイド長の夢は儚く散るかもしれん。


「むう。だが、これはこれで問題おきないか?」


 見るからにか弱そうで、変質者が寄って来てしまいそうだった。


「そこは私達が護れば良いでしょう」

「そうだな。では行こう。同志アラネアは決して私達から離れないように」

「はい。わかりました!」


 おそらくアラネアにとっては初めての街中だ。期待に目を輝かせている。


 結局、エルフの街だったので私達の心配は杞憂だった。エルフのプライドの高さを思い知る。

 この分ならアルフヘイム王国内では安全だろう。

 私が指名手配でもされていなければ……一応、顔は隠しておく。


「すごいですよソニアさん! あれを見てくださいよ! おや、あれは何ですか?」


 ただ、同志はさっきからこの調子なので目立ったことは言うまでもない。

 私は簡単に買い物をして、手紙を出し終えるとその街を後にした。



 †



 その日、エリスはアルヴィトの許へ訪れていた。アルヴィトから呼ばれたためだ。


 あれ以来、アリシアの塞ぎこみ様が酷い。

 もしかしてあのとき、止めるべきではなかったのか?

 エリスはそんな事をつい考えてしまうのだった。

 丁度良いので、そのことを状況説明のついでにアルヴィトへ相談していた。


「先生。私は間違っているのでしょうか?」

「ふふ。貴方を見てると昔の私を思い出すわ。私達はそういう役回りなのかしらね。いえ、先ずはこれね」


 アルヴィトがそう言って鞄から取り出したのは手紙だった。エリスはそれを受け取って読む。


「これは! ……先生! 人が悪いですよ。知ってたんですね」

「ふふ。ごめんなさい。貴方があまりに真剣に話すものだから途中で止め難くてね。すぐにアリシアにも報せてあげなさい」

「はい!」


 そこには簡潔にこう書かれていた「心配かけてごめんなさい。ペンダントを集めて戻るので待っていてください。 ソニア・ロンド」と。


「でもどうして先生の所に……」

「貴方達が王城から出て来なかったからでしょうね」

「なるほど、アリシアが地下に(こだわ)ったから連絡が取れなかったと……ソニア、やはり無事だったのね。では先生、すぐに知らせたいと思いますので失礼します」

「ええ。アリシアとミストにもよろしくね」


 エリスはアルヴィトに一礼して部屋を出た。

 そうしてエリスが王城へ戻るときにはその足取りは軽くなっていたのだった。



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