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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
55/186

アラクネ

 近衛騎士団団長ブリュンヒルデの執務室。

 そこでミスト将軍がブリュンヒルデに報告していた。


「どうやら地下の結界に穴が開いていたようだ」

「そこから蜘蛛共に侵入されたと? 長らく使っていなかったせいか? すまないが、ミスト将軍。駆除を頼む」


 王城には脱出路として地下通路があった。

 ただ、長く使っていなければ、魔物が入り込むことがある。つまり、それだけ魔窟へとなりやすい。

 それを防ぐために、普段は結界で守られているが綻びがあったようだ。


「おや、珍しいね。君が地下とはいえ、王城のことを私に頼むなんて……」

「……蜘蛛は苦手だ」


 顔を伏せながら赤くするブリュンヒルデ。

 ミスト将軍は一瞬驚いたようにした後、やれやれといった仕種をして。


「分かったよ。アルフヘイム最強にも弱点はあったのだね。では近衛騎士は借りるよ」

「ああ。頼む。私は陛下へ説明して来よう」


 そこへ入って来る者達がいる。エリスとアリシアだ。


「何があったの!?」


 開口一番に説明を求めるアリシアに、ミスト将軍は言う。


「丁度いい。お前達も来い」


 エリスとアリシアは訳の分からぬままミスト将軍に連れて行かれるのだった。



 †



 ミスト将軍とアリシア、エリスは騎士団の詰所へと来ていた。

 そこには助けられた牢番のエルフが酷く落ち込んだ様子で座っていた。そのエルフから詳細を聞く。


「あれは巨大(ジャイアント)蜘蛛(スパイダー)でした。それも何体も。奥の壁が壊されていました。そこから入り込んだのでしょう。私は応援を呼びに行くところを捕まってしまい……あの方は私を助けるために敢えて囮になったのです」

「そんな……早く助けに……」

「待て! 巨大蜘蛛が何体もいるとなればこちらも数を整えるべきだ。すぐに集めて捜索に向かうぞ」

「……わかったわ」


 先走りそうになるアリシアをミスト将軍は諌めると、すぐに副官に指示を出す。

 捜索兼駆除隊はすぐに集まり地下へと向かうのだった。



 †



「うーん……」


 私は目を開く。そして直前までの事を思い出す。

 私は……そうだ。巨大蜘蛛に追いかけられて……生きている?

 だが身体はまだ蜘蛛の巣に引っかかったままだった。


「ああ。起きましたか? お嬢さん」


 暗くて見難いが美少女が私を覗き込んでいた。という事は私は助けられたのか?


「君は……いや、君が助けてくれたのか?」

「ええ、一応」


 このままでは話しづらいので無詠唱の蒼炎で蜘蛛の巣を焼き切る。

 蒼炎の光が辺りを照らし出した。そして私は見た。


「!!」


 目の前に美少女。でも蜘蛛。


 アラクネ。上半身が女性の人、下半身が蜘蛛の魔族。

 本で読んだり噂で知識として知ってはいたが会うのは初めてだ。

 そして周囲には私達を囲う様に蜘蛛の糸が張り巡らされていた。まるで繭の中にでもいるようだ。


「驚きましたか? すみません。こうでもしないと彼らは襲って来ますので……。本当は貴女を助け出せれば良かったのですが、私は非力なので」

「ああ。いや、助かったよ。驚いたけどね」


 私は魔導灯を鞄から取り出して手に持つ。

 明るくなるとやはり驚く。


 その美少女はシルクの様な銀のストレートの長髪。

 同じくシルクのような方腕をだした肩掛けを着ている。

 その間から見える肌は病的なまでに白く、確かに非力そう。

 瞳は何故か興奮気味に輝いている。多少鼻息が荒い気がするのは気のせいだろうか?

 そしてやはり下半身が蜘蛛。


「とりあえず。もっと安全な場所へ移動しましょう。ついてきてください」


 そう言ってアラクネは私の捕まっていた蜘蛛の巣の奥の方へと入って行く。

 私はついて行きながら、簡単に自己紹介をした。

 すると、そのアラクネはアラネアと名乗った。


 そうしてしばらく歩くと、洞窟の小部屋のような場所にたどり着いた。

 そこにあったのはネット状の糸で創られた棚、机、椅子。棚には大量の服が置かれている。

 蜘蛛の巣のようなベッドまである。

 どうやらここがアラネアの住処らしい。だが、他に気配はない。一人暮らしのようだ。


 私は確かめる様にして、勧められたネット状の椅子に座ってみる。

 あーこれは……いわゆる人を駄目にするっていうやつだ。

 先の疲れがまだ残っているのだろう、アラネアがいなかったら眠ってしまいそうだ。


「凄いな……もしかして全部自作?」

「ええ。お恥ずかしながら……見様見真似と言いますか……人の世界では魔族はあまり歓迎されないので……こっそり見に行ったり、冒険者とかが落として行った本などで……」


 この子、凄い子なのでは……と感心してしまう。しかも苦労人の様だ。

 そうしている間にアラネアはお湯を沸かして、お茶を入れてくれた。

 キノコのお茶だそうだ。美味い……疲れた体に染み渡る。


「アラネアはここで一人で住んでいるの?」

「ええ。少し離れた場所に仲間は居るんですがね。私の少し変わった性格のせいで折り合いが悪くなってしまいまして……まあ、言ってしまえば追い出されてしまいました」

「それは、お気の毒に……ごめんなさい」

「いえ、いいんですよ……」


 そうは言いながらも寂しげな表情を垣間見せるアラネア。

 それについてはあまり深くは聞かない方がいいのかもしれない。


「でも何であんな場所に?」

「いや、火事かと思いまして。様子を見に……ソニアさんは?」


 その火事の原因は私だろう……おかげで助かったが……


「私は巨大蜘蛛に追われて……」

「ああ。冒険者さんなんですね。ところでソニアさん、貴女モデルをやりませんか?」


 それは唐突だった。意味が分からず私は聞き返す。


「は?」

「いえ、先ほど蜘蛛の巣に捕まっていらした時にですね、創作意欲が久々に刺激されまして……」

「はあ?」

「つまりですね。美しいと思ったのです」

「ま、まあクール美少女ですから……」

「そうです! それです! 考えてみてもらえませんか? 」


 んん? それ? ってどれ!? 自分で言っておいて意味が分からないが……


「ま、まあ考えるだけなら……」


 アラネアの興奮気味の目付きがヤバい。

 あー、この子かなり変わった性格じゃね? はっきり言おう「同類」の匂いがする!


「良かった! いえ、すみません少々興奮してしましました。何せ、久々だったのです。というのも先の追い出された話になってしまうんですが……

 

 それまで私は自分の仕事に自信を持っていました。

 己の編みだすものこそが至高の存在だと傲慢にも思っていたのです。

 そんな時です。ある一人の冒険者のエルフ女性が貴方と同様に蜘蛛の巣に捕まっていまして……

 それは衝撃でした。


 私は今まで己の作る物こそが真の芸術だと信じて疑わなかった!

 何という視野狭窄(しやきょうさく)! 

 何という愚か者!

 その女エルフの冒険者はただ蜘蛛の巣に引っかかっていただけなのです。

 

 私はそれを見た時、芸術の無限の可能性を感じたのです。美しいと涙していたのです」


 そのアラネアの話に私は感動していた……


「貴様……天才か!」

「まさか……理解者が現れるとは! わかっていただけますか?」

「もちろんだよ。まるで目で見たようにその光景が浮かぶ……これこそ芸術だな。」

「なんと……そこまで……」


 初めての理解者だったのだろう。彼女は涙ぐみながら話を続ける。


「ただ、私はその時のエルフをモデルとしてスカウトしたのですが、断られ……そして何故か変質者として冒険者に追われる事に……そして仲間達からはそのエルフを助けた事で非難を浴びまして、追い出されてしまいました。彼女達にとってはエルフも食料ですから気持ちはわからないではないですが……」

「芸術家は世間に理解され辛いからな……悲しいな……」

「悲しいことですね」


 芸術に関係あったのかよくわからないが、ともかく私はアラネアに共感を抱いていた。


「ならば私と共に来ないか? 何ならモデルも用意しよう。うってつけの人物に心当たりがある!」


 うってつけの人物、例えば蜘蛛の巣に捕まる散華ちゃん……蜘蛛役を私が……

 ぐへへ、想像して涎が……他にもエリスやアリシア先輩、そして青薔薇のメンバー……夢が広がるな!

 

 いかん、私はクール美少女。私はクール美少女。私はクール美少女。

 心の中で三回唱えて心を落ち着ける。


「良いのですか? そこまでしていただいても……」

「勿論だ! 君の芸術を私が見たいのだ! 同志よ」

「はい! よろしくお願いいたします」


 そこまで聞いて私は鞄から一枚の紙を取り出す。


「うむ。ではこの契約書にサインを」

「はい」


 アラネアは素直にサインをした。ちょっと素直すぎない? と逆に心配になったが……


 ともかく私が出した契約書は、生活や文化の違いで問題を起こしがちな魔族を従属させるためのものである。

 俗にいう「使い魔契約」だ。

 決して、身に覚えの無い借金が増えるような怪しい書類ではないので安心して欲しい。


 これによって一応、人の世界での活動は許される。

 言い方は悪いかもしれないが、ペットには首輪をつけておけという事だ。無い場合は野生動物扱いだ。

 当然、責任は主人にかかる。それでも魔族を忌避する者は多いが。

 また「使い魔契約」には特徴があり魔力の相互的な繋がりができる。

 これによってある程度の感覚を共有することができるのである。


「これで君は私の使い魔の一人となった。つまり一心同体。以後励むように」

「んん? どういうことですか?」

「君の芸術をここで埋もれさせるわけにはいかないのだよ。同志よ、共に世界へと羽ばたこうではないか!」

「そこまで私のことを……わかりました! よろしくお願いいたします」


 ちょっと熱意にあてられて、おかしなテンションになってしまった。


 そして次第に冷静さを取り戻すと、今までの事を思い出す。


 そういえば私は脱獄したことになるのか?


「いきなり脱獄してしまうとは……仕方ないか。戻るに戻れないし」


 戻るためには、またあの巨大蜘蛛共と交戦しなくてはならない。無理だ。何体いるか知れない。しかも適当に逃げ回ったせいで道も分からない。


 とりあえず、先ずは外に出ないと……

 そう思ってアラネアに案内を頼む。


「同志アラネアよ、早速ですまないが旅の準備をしてほしい。当分の間は帰って来れないだろう。あと外への道はわかるかな?」

「ええ。わかりました。準備が整い次第、案内しましょう」


 アラネアの準備が終わるまで、私は蜘蛛の巣のベッドで眠らせてもらった。

 それはとても寝心地ちが良かったので、起きた時には疲れも無く全快していた。

 そうして準備が整うと私達は洞窟の外へと向かうのだった。



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