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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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謁見2

 白銀の鎧姿の警備兵が大扉を開けたので、私達は謁見の間へと入る。

 豪華絢爛というよりは威厳を与えるために造られたであろうそこは、私たちに充分な重圧を感じさせる。

 高段に座し別格の威厳を放つ女王。

 脇に将軍達、その反対側に神官、文官が控え、一様にこちらを見ている。


 空気が重い。

 だがそれは私たちに対してではなく、何か重大な決断がなされた後のようなそれだった。

 そんな印象を受けた。

 これは拙いかもしれないなと思うが、今は口にも態度にも出してはならない。

 謁見の間を進み礼をして跪くと、壇上から声が掛かる。


「良く戻った。エリス。アリシア。報告は聞いている。ご苦労だった」

「はっ! ありがとうございます」

「それで、ミスト将軍からは我に頼みがあると聞いたのだが?」

「はい。それについてですが、先ず紹介させてください。こちらの二人、私達が所属するパーティー青薔薇のメンバーです」


 アリシア先輩の言葉を受けて私は一歩前に出る。


「お初にお目にかかります。青薔薇のソニア・ロンドと申します。パーティーリーダーは先の事故の後始末で来られなかったため、代理リーダーを務めております。女王陛下にお会いできました事、恐悦至極に存じます。不躾ながらこの度はお願いの儀があって参りました」

「ふむ。青薔薇はアストリア伯の御息女がリーダーを務めているのだったな」

「はい。その通りでございます」

「ではアストリアからの公式の使者という事で良いのかな?」


 その問いが来る事は想定していた。

 ただ、これを認めると問題がある。カリス王国は当然知らないからだ。つまり、アストリア伯、散華ちゃんの父に離反の疑いがかかってしまう。

 他方で認めない場合、一冒険者の言を一国の女王が聞いてくれるかという疑問がある。

 そして私は一つの決断を下す。


()()()()私的というしかありません。密使という扱いでお願いします。」


 ある意味最悪の、ばれなければいいのよ作戦だった。失敗したら散華ちゃんが何とかしてくれる! ……はず。


「ほう、なかなか面白い答えだな。ならば話を聞かぬわけにはいかぬな。では私的な使者殿、話を聞こう」

「はい。では単刀直入に言わせていただきます。パーティー青薔薇へエリス、アリシアの両名をください。もちろん対価は可能な限り支払わせていただきます」


 女王はそのお願いを聞いて、エリスとアリシアに問いかける。


「……確かに盗賊共よりは誠実ではあるが……お前達はどうしたいのだ?」

「私達はソニア達と共に行きたいと思っています」

「それは女王の剣としての役目を抜けるということだが、相違ないな?」

「はい。ございません」


 代表してきっぱりと答えたアリシアに頷くと女王は瞑目して考える。

 勇者との密約では形式上はアストリアは手に入るだろう。だがそれは果たして上手くいくだろうか?

 何よりあの男たちがそれを許すだろうか……あの犯罪王が……そして華咲翁……

 しかし、華咲家の動向次第では敵に塩を送ることになりかねない。


「保険は必要か……」


 女王は決断する。どちらに転んでも良いようにと。

 知らないうちに青の書を見つめていたのは気のせいか……


「できれば残ってもらいたいがエリス、アリシアお前達の意思を尊重はしたい。条件次第では許しても良い。」


 

 おや、思っていたより好感触か? などとそのときの私は思っていた。


「……ところで。先より何やら懐かしい魔力を感じる。見せてみよ」


 その女王の言葉に何を? などとぼけるわけにはいかない。心証を悪くするだけだ。

 アルヴィトの話を聞いて思い当たるのは一つだ。

 できれば見せたくなかった。これを見せることが何を引き起こすか分からなかったためだ。

 だが、ハイエルフの目を誤魔化すなどできるはずもなかった。


「……分かりました」


 私はエリスとアリシア先輩に目配せすると、幾分か緊張しながら黒水晶のペンダントを取り出す。闇の鎧の結晶だ。


「それは!!」


 それを見た女王の反応が尋常では無い。目を驚愕に見開き王座より立ち上がる。


「陛下?」


 脇に控えるブリュンヒルデでさえ女王の態度に困惑している。


「そうか、まだ……残っていたのだな……」


 そう言う女王の目には光るものが湛えられている。


「だが、私の知っている物と形が違うな。全て献上せよ……それが条件だ」


 私はホッと胸を撫で下ろす。払えない額を請求されずに良かった。しかし……


「嫌っ!」


 そう反発したのはアリシア先輩だった。

 一瞬で場が緊張に包まれる。


「これは大事な物なの……」


 そう言うアリシア先輩に、私は優しく諭すように語り掛ける。


「アリシア先輩、新しい物をプレゼントしますから。この場は……」

「わかったわ……ソニア、約束よ」


 渋々だったが、アリシア先輩は納得してくれた。

 私、アリシア先輩、エリスがそれを渡す。

 リリスの分は作ってないので渡していない。予備に二つ作っても足りなかったのだから仕方ない。

 リリスにも今度何かで埋め合わせをしなくてはなと思う。


 女官が進み出てそれを女王へと献上する。

 献上されたペンダントを手に取ると女王はそれを検分した。


「この細工……新しいな。最近作られた物か……やったのは貴様か?」


 そう言う女王は何か怒っているっぽい? 


「はい。私が頼んで作ってもらいました」


 冷や汗が出るのを感じるが、下手なことは言えないので正直に話す。


「ならばこれだけではないはずだな?」

「はい。残りの五つはアストリアの私のパーティーメンバーが持っています」

「そうか……我が身を砕かれた気分だ。つまり我は怒っているのだろうな。とは言えお前達にとっては理不尽な怒りだろう。本来であればこれを持参したお前達には褒美を取らせるべきかもしれぬ。故に約束は守る。ただし、それまで貴様には虜囚となってもらう。それとエリス、アリシアにはその間はこちらで働いてもらおう。それで、そこの魔族、リリスと言ったか……残りを持って来るように」


 私を人質に交換ということらしい。

 だが周囲の重臣たちは別の件で騒ぎ出していた。

「魔族だと……」

「王城に魔族を入れるなど警備は何をやっているのだ!」


 それを聞いたリリスは気分を害したのか。


「これはご主人様の為に戦うべきなのでしょうか?」


 一瞬にして場が凍り付いた。

 リリスさん、やめて! リリスが有能すぎて心労が……

 隣ではつられて臨戦態勢を取ろうとするアリシア先輩をエリスが制している。

 ここのところエリスは大活躍だな! 後で褒美をやらねば。 


「リリス、悪いけどアストリアまでお願い。散華ちゃんに話せばわかってくれるはずだから」

「かしこまりましたわ。ご主人様」


 私はリリスへそう言うと、女王へ向かって。


「女王陛下。全て承諾いたします。約束よろしくお願いいたします」

「うむ。相分かった」


 話はまとまった。ブリュンヒルデがミスト将軍へ促す。


「ではミスト将軍、地下牢へお連れしろ」

「はい」


 こうして私は一時的に人質となった。



 †



 城下地下牢へと私はミスト将軍に連れられて入った。

 石造りの壁や床、そこに鉄格子がはめられている。

 ミスト将軍が申し訳なさそうにして状況を話してくれた。


「お前達は健闘した。ただ一歩遅かった。陛下は光の勇者と組まれた」

「それはどういう……?」

「陛下はアストリア地方をお望みだ。お前達は理不尽に感じるだろうが、これはカリスへの制裁の意味もある」

「それは……許容できませんね」


 正直、ただの一般市民にとっては税金を払う先が変わるだけで、あの女王なら今の王より待遇が良くなる気もする。ただ華咲家にとってはどうなるかわからない。


「だろうな。ならばどうするのかね?」

「女王陛下へお伝えください。そのときは正式な使者としてお会いしましょうと」


 私のその言葉に気に入った、というようにミスト将軍は破顔した。


「……了解した。ただし、脱獄はあまりお勧めしない。牢番がいるからな。それと陛下からのお達しで拘束はしないし所持品を取り上げることもないそうだ。心証は良かったのだろう」

「そうですか……」

「そしてこれだけは言っておかねばな。陛下は約束は違えないお方だ」

「そうでしょうね」


 思えばアルヴィトも良くしてくれた。彼女は青の書を見たからだと言っていたか。


「お前が助けてくれたのかもな……」


 呟いて私は青の書を撫でる。


「では、私は行こう。次に会った時が、戦場の敵同士ではないことを祈っているよ」

「そうですね。ありがとうございました」


 お礼を言う私にミスト将軍は半身を向け、受け止めたというように目を閉じて片手を挙げる。

 そうして去っていった。


 カッコイイな! 今度私もやろうと思う。


 一人になった私は考える。エリスとアリシア先輩は問題ないだろう。

 ならば後はリリスが使いを果たすのを待つだけだが、一体何日監禁されるだろう?

 リリスは有能過ぎて、私でもその能力を計りかねるところがある。もしかしたらそれほどかからないかもしれない。


「散華ちゃん達に連絡をしておくべきだが……やっぱり無理か」


 王城には防御結界が張られている。地下牢なら尚更だった。


「識界へは行けるかも知れないが……ここでは女王に捕捉されるだろうな」


 いろいろと考えようとしたら眠くなった。


「とりあえず疲れたな。少し寝よう」


 地下牢なので綺麗ではない。とはいえ犯罪が少ないのか、カリスの牢やダンジョンと比べると別格に綺麗とも言える。

 所持品を取り上げられなかったのは有難い。魔法で簡単に掃除をすると鞄から外套を取り出す。

 それを被りながら鞄を枕にして眠る。ダンジョンでもそうしている。いつもの事だ。


 さすがに王城の地下牢なので他に囚人はいない。もっとも、いたらいたで困るが……

 番兵はいるそうだが、出口付近を守っているのだろう。ここからは見えない。


 一抹の寂しさを感じながら、私は眠りに落ちていった。



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