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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
52/186

謁見1

 時はしばし遡る。

 ソニア一行とミスト将軍が盗賊を退治しアルフヘイム王国へと向かっている頃。


 カリス王国とアルフヘイム王国の国境の街トール。

 ここではカリス側とアルフヘイム側のそれぞれに役所が置かれ、様々な交渉の場となっている。


 そこで盗賊退治の報告を受けて将軍スカディと神官ウルドはカリス王国の重臣と交渉を行っていた。


「使者殿。それは捏造(ねつぞう)というものではないですかな?」


 カリス重臣のその言葉にスカディはキレそうになった。

 それを隣に座るウルドが制して述べる。


「この魔導具「隷属の首輪」これはそちらの国の王都で使われている物と聞いておりますが?」

「確かにそれは認めましょう。しかしながら盗賊の所持品。遺憾ながら王都から盗まれた物にございます。残念ながらごく稀に脱走などを図る者もおりますれば、闇市などに出回ってしまうのも致し方なく。こちらもほとほと困っておるのですよ」

「なるほどあの数でごく稀にね……」


 スカディの皮肉にも厚顔な重臣は動じない。しらを切り通すつもりらしい。

 継いでウルドは一通の封書を取り出す。


「ところがです。私達が討伐した盗賊はなかなか頭が切れるようでした。この手紙をご覧ください」

「これは……我が国の警備兵の巡回図のようですな……なるほど内通者がいるとおっしゃりたいのですな。しかしながらこれこそ我が国の関与はないとの証拠になりますな。大方、末端の兵士がはした金欲しさにでも漏らしたのでしょう」

「その続きをご覧ください」

「! これは……!?」

「依頼書でしょうか? エルフを二十人献上せよとありますね。さらにカリス王都までの出荷ルートでしょうね。保身の為か、あるいはあなた方を脅そうとしたのでしょうか? しっかり証拠を残してくれていましたよ。これによると内通者は貴方の様ですね。それとこれはごく一部です。破棄しても無駄ですので」


 ここに至っては厚顔な重臣も観念した。

 このままでは首を斬られるのは重臣の方だと悟ったのだ。


「あの、馬鹿め! 証拠は残すなとあれほど! それに重臣共め、私を王都へ呼び戻すというから協力してやったのに。自分達で追い出しておいて、この私を使い捨てるだと! 断じて許せるものか! ……良いでしょう。私と家族の身の安全と財産の保護を約束してくれるなら全て話しましょう」

「……わかりました」


 そこからカリス重臣は全て語った。

 交渉が終わり、見事な変わり身を果たした重臣達が去る。


「不満そうですね」

「良いのかよ……このままだとまた同じ繰り返しだぜ」


 そのスカディの懸念はわかる。だがまだアレには使い道がある、とのウルドの判断だ。


「これ以上はカリス側の問題でしょう。それに彼は職と地位を失ったも同然ですから再起は難しいでしょう。仮に再起したならしたで、あのような者を残しておくカリスは末期でしょうね」

「そうかよ……」


 席から立ったウルドは、エルフらしいその美しい体を伸ばす。


「はあ……それにしてもあのような者を相手にすると疲れますね。私は王都へ報告に帰ります。スカディ、貴方は引き続き見張りをお願いします。恐らくあの者を消すために暗殺者が送られて来ると思いますので。死なれても構いませんが、出来れば残りの証拠を受け取ってからでお願いします」

「ちょ……私も疲れた帰る!」

「今しも捕まった同胞は苦しんでいると言うのに将軍の貴方が帰ると?」

「ぐっ……わかったよ」


 そうして王都へと帰還していくウルドを見送りながら。


「休みたい……」


 酷く疲れた気がするスカディだった。



 †



 ソニア一行が謁見へと向かう前。

 アルフヘイム王国謁見の間。

 高段に座す女王の前に三人の男達が跪いている。

 それを囲むように重臣たちが並んでいる。


 その三人の男達の一人が一歩前へ出て恭しく一礼すると口上を述べた。


「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく、変わらず美しく壮健であらせられます事お喜び申し上げます。この度謁見の叶いましたこと、いついかなる時におきましても我が身の光栄と致す所存にございます。この不肖なる薔薇にとって斯様(かよう)な幸運に巡り……」


 そこで女王は片手を振り上げて制する。


「良い……本題に入るが良い。薔薇殿」

「はっ! ありがとうございます。では先ず紹介させていただきます。こちらが光の勇者ローレン殿、そしてこちらが炎の勇者ダン殿です。お二方とも陛下のお役に立てればと馳せ参じた所存にございます」


 薔薇の男が身振り手振りで二人を紹介する。それに合わせて二人も敬礼で返す。


「ふむ。それは有難い事だが、確か光の勇者殿は風の噂で死んだと聞かされておったのだが……情報の間違いであったかの?」


 そう尋ねる女王の目が鋭く輝いた気がするのは見間違いだろうか。


「いえ、確かに一度お亡くなりになられました。しかしながら我が秘術によってこの通り生還した次第にございます。」


 それを聞いて控えていた重臣たちが騒ぎ出す。


「死者の蘇生だと……そのような大罪、赦されるはずがない……」

「それに……秘術だと……どうにも怪しいものだ。偽物ではないのか?」


 女王はその言葉に微かに、ほんの指先だけであったがピクリと反応する。


「静まれ! 陛下の御前である!」


 そう言って場を収めたのは女王の傍らに立つ近衛騎士団団長ブリュンヒルデだ。

 黄金の輝ける髪が片目を隠しているのは顔の傷を隠すためか。

 身に着ける白銀の鎧はこの国の高官が身に着けるものと同様だが、その存在感は隣に座る女王に劣らない。


 場が静まると一歩前に出たのは勇者だった。


「俺が生きていようが死んでいようがそんなのはどうでもいい。要は俺が役に立つかどうかだろう? いや、役に立つはずだ。女王様、あんたは俺を欲しているはずだ。それも喉から手が出るほどにな」

「無礼な! 勇者とは言え、何様のつもりだ!」


 勇者の物言いに一度は静まった重臣たちも声を荒らげるが、女王の一声で沈静化する。


「よい! 興味深いな。何故そう思う?」

「現カリス王……アンタらも苦しめられているのは聞いている。盗賊を放置しているのは奴だ。いやむしろ繋がっているのだろう。俺は奴にいいように使われた。つまり復讐がしたい。であれば共通の敵のはずだ」

「ふむ。確かに賊共には困らされておるが……証拠はあるのかね?」

「証拠はアンタ達が既に持っているのだろう? そう聞いてるぜ」


 今まで静かだった神官三姉妹が騒ぎ出す。


「きっとゲンドゥルですね。私の上げた報告を漏らしたのでしょう」

「あのおしゃべり女。困ったものだな」

「でもわかってた……」


 それだけ言うとまた静かになった。


「ふむ。では具体的に何をしてくれるのかな? そして我に何を望む?」

「戦争を起こす。そのための兵を貸してくれ。現カリス王を潰す」

「戦争は簡単に起こすべきものでは無い。それに光の勇者と呼ばれるほどの者なら我が国の兵など必要ないのでは?」

「慎重だな。それとも交渉を有利に運ぶための計算か? まあいい。俺は一度、失敗したからな。確かに模造女神さえ動けばここに来ることは無かった。あんな国でも厄介な忠臣ってのがいるのさ」  


 女王は知らず模造女神という言葉に反応していた。指先だけであったが。


「なるほど。それで現カリス王を倒したとしてその後はどうする?」

「アンタが統治したければ勝手にしてくれ。まあそれはそれで反発があるだろうが……」


 女王はしばし考えるように瞑目して。

 目を開けると勇者へと告げる。


「良かろう兵を貸そう。ただし絶対条件として奴隷となったエルフの解放」

「当然だな。わかった」

「次に貴様が王になること」


 それにはローレンの方が驚いていた。


「ほう。俺を王にして何をさせようってんだ? 傀儡になれってんなら今のカリス王と何ら変わらねえ。アンタにも牙をむくことになるぜ」

「逆に問おう。王にならずに犯罪者共からエルフの解放が可能なのか? 地方領主たちがどう動くかわからない現状で、王を討った後の混乱はどう鎮める?」

「……わかったよ」


 そう問われて勇者は渋々受け入れる。確かに不可能ではないが、無責任ではあると感じたためだ。

 やはり女王なだけはある。一筋縄ではいかないらしいとローレンは素直に感服する。

 なるほどカリス王とは全く違うと言うのは本当らしい。


「最後にアストリア地方の領有権。後は貴様の好きにするがいい。この条件、呑めるか?」


 勇者も考える。確かに一地方を渡す事になるが、その分女王の本気が窺える。

 しかもアストリアでは死んだという嫌な思い出しかない。むしろ好都合でさえある。

 そうして考えて結論をだす。

 たとえ罠だったとしても乗ってやるさと。


「良いだろう。その条件呑んでやる」

「うむ。では貴殿等を客将として滞在を許そう。案内は……ゲンドゥルがするのだったな。ではよろしく頼む」


 ちなみにダンは全く話についていけずに呆けていた。事前情報すら与えられていない彼には仕方がないのかもしれない……。

 あるいは荘厳で厳粛な雰囲気の中、並び立つエルフの美男美女に囲まれてはそれは一般的な反応だったのか……


 交渉がまとまった勇者一行は敬礼を返すとその場を去る。

 そこへ女王が待ったをかけた。


「時に薔薇殿……」

「はっ! 何でございましょう?


 呼び止められたのは薔薇男一人だったので、勇者二人は一礼して先に退出していった。


「あまり城下を騒がせないでもらえると助かるのだが?」

「もちろんでございます。この不肖の薔薇、陛下の御心に沿わぬ事は決して行いませぬ」

「そうか……呼び止めて悪かった。下がってよい」

「はっ!」


 礼を返して謁見の間を出た薔薇の男はそこで一息つく。

「ふぅ……釘を刺されてしまいましたねぇ。後はゲンドゥルに任せましょうか」


 薔薇の男はそう言うと、先を進む二人の後を追った。

 前方に先を進む二人を見つけるが、何やら知人らしい人物と話をしている。


「おや、あれは……確か青薔薇(クールビューティー)の方々でしたね……少し様子を窺うとしましょうか」


 そうして柱の陰に潜んだものの、挨拶程度の話しかしていない様子だった。


「青薔薇ですか……あの青衣の娘の事でしょうね。昨日の落書きの件が気になりますね……少しカマをかけてみますか」


 薔薇の男は道に迷ったふりをして、合流するのだった。



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