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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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先生2

 アルヴィトは思い出すようにして語り始めた……


「今からおよそ千年前になるでしょうか……エルフとダークエルフは対立していました。

 いつ戦になってもおかしくない、そんな状況でした。

 そんな折、私は彼女と出会いました。


 当時は私もまだ子供で年が近いエルフにちょっかいをかけようとしたのかもしれません。

 当然、そんな状況ですから初めの内は半ば喧嘩のようなものでした。

 そんな事を何度も繰り返して。


『エルフを青空とするなら、ダークエルフは星空だ』


 ある時、彼女はそう言いました。

 私はその考えを素敵だなと思ったのです。

 彼女となら共に歩めると。彼女の力になりたいと。

 勿論、当初は相当の反発がありました。


 私達が大人になりそれぞれ一族をまとめるようになっても根強くそれは残っていました。

 私と彼女は大いに悩みました。

 行き詰まっていたのだと思います。


 そんな時でした、ある一人の魔女がふらりと現れたのは。

 不思議な魔女でした。

 強く優しい魔女でした。

 その存在を例えるならまるで宇宙(そら)――」


 懐かしみ、大切なものを思い出すように語るアルヴィト。


「闇の魔女……」


 私はポツリと思い当たる言葉を漏らす。

 アルヴィトはちらりとこちらを見て頷いた。


「そうです。魔女の協力を得た私達は次第に周囲を納得させて行きました。

 そうしておおよその目処がついた頃でした。

 魔女は行方不明になっていました。


 私達は懸命に探しましたが見つかりませんでした。

 その当時の冒険者達の間で流れた噂では大きな戦争に巻き込まれて死んだというものでした」

「戦争ですか?」


 じゃあ、やっぱり死んでいるのか? と思い詳しく聞いてみる。


「ええ。魔女の住んでいた国は今は無くなってしまった大国でした。

 たしかそこはグラズヘイムと呼ばれていました。高度な魔導技術を有していた国でした。

 その国の魔導技術の発展は人々に恩恵をもたらすと同時に一つの悲劇を生みました。女神を模した少女達――模造女神と呼ばれていましたか……それに端を発した内戦だったようです。それに巻き込まれたとの事でした。」


 うん? 何か聞いた事あるような……ある。私は「闇の鎧」の話だと思い出す。


「心当たりが有るようですね?」

「はい……。しかし、戦わなかったと聞いた気がしますが……」


 クロの話では確かそうだったはず。戦えなかったと。


「そうですか……ならばその後の事でしょう。大いに嘆き悲しんだ魔女はデュラハン達を率いて模造女神達と戦ったそうです。模造女神は十二柱いたと言われています。事実、それ以降その国は跡形も無く消えてしまいました。模造の女神達と共に。今ではその魔導技術の一端が伝わるのみです」


 あれが十二柱も? 確かにそれでは国が亡びるのもわかる。


 アルヴィトは銀縁の眼鏡を外してそれをじっと見つめながら。


「これもその魔導技術の名残なんですよ。他に自動人形(オートマタ)もそう。当時は異界の技術が流入したなどと言われていたほどです」

「異界? 識界の事ですか?」


 それは少なくとも私の知っている識界ではなさそうだった。


「いいえ、違います。識界は内的世界あるいは天上界などとも呼ばれて広く知られています。特に魔法を扱う者には必要不可欠な世界です。ですが異界とは隣の世界とでも呼べば良いのでしょうか? この世界とは異なる世界です。もっとも在るかどうかも分かっていない噂話ですが……いずれにせよ、それほどの技術革新があったのです」


 自動人形……識界で会ってからしばらく会ってないツヴェルフさんを思い出す。

 確か彼女はその当時の事は覚えていないのだったか?

 それにしてもツヴェルフさんと識界で会えたのは驚いた。

 異界か……確かにあってもおかしくはない気がする。

「当時は我々もこの国の事で手一杯でした。他国の事に気を回せる余裕など無く……みすみす彼女を失ってしまった。それを私達は後悔しているのです。私よりも特に彼女の精神への影響はひどく……今ではハイエルフなどというものに至ってしまった。私はね、あの姿を見る度に胸が苦しくなるのですよ。だからこうして少し離れた場所で隠居しているのでしょうね。できることなら彼女を助けてあげて欲しい。それが私の願いです」


 そのハイエルフの女王に付き合うアルヴィトもかなりの力の持ち主のはずだ。

 私達に何かできるのだろうか?


「……善処はします。あと、仮にですが闇の魔女がその異界というものに行ってしまったとしたら?」

「それはお手上げですね。でも彼女は諦めてくれないでしょうね。ただ異界へ行くには門があると聞いた事はあります。これも噂ですが」

「門ですか……そんなものがあるとしたら……」


 私は思い出す。女王は既に世界の隅々まで情報を集めたはずだ。


魔窟(ダンジョン)……」

「賢い子。その賢さが身を滅ぼさない事を願うばかりです。この子達……エリスとアリシアを不幸にはしないでくださいね」

「……はい」


 それは長い時を生きるエルフの忠告だったのだろう。

 あるいは私たちに自分たちの姿を重ねたのだろうか……


 沈み込みそうになる空気を一転するように、アルヴィトは声音を上げた。


「本当に貴女達は昔の私達にそっくりね……長々と昔話をしてしまったわ。その『青の書』を見たせいかしら?」


 彼女はそう言って私の持つ青の書を一瞥する。何か懐かし気なものを思い出すように。


「?」

「ああ。ごめんなさい。言ってなかったわね。闇の魔女、彼女が持っていたのが『黒の書』と呼ばれていたものだから……」

「黒の書ですか……詳しく聞いても?」

「いえ、今はやめておきましょう。少し長く話しすぎてしまったわ。疲れたでしょう?」

「そんなことは……」


 と言いかけたものの、実は頭の中が一杯な気はしていた。少し整理したい。


 それにしても黒の書か、青の書があるのだから他もあるとは思っていた。思わずぞわりと身震いする。

 べ……べつに集めたいとか思ってないんだからね! 

 はっ!まさかお婆ちゃんそのために魔導書店なんぞを……

 お婆ちゃんが魔導書を集めていたのは知っている。魔法の研究のためだと思ってたけど……

 そんなことを考えているとアルヴィトが言った。


「長旅の疲れもあるでしょう。ここまでにしましょうか。部屋は自由に使って頂戴」

「ありがとうございます」


 お礼を言って、貸してもらった部屋へエリスに案内されて向かう。

 その部屋にはベッドが四台並んでいた。窓の傍に机と椅子がある。

 部屋へ入るが、一緒に来ると思っていた先輩とリリスが来ない。


「あれ? 先輩達は?」

「アリシアはリリスを案内しているわ。食事の準備をするそうよ。私はちょっとリリスが苦手……いや、何でもない……とにかくアリシア達に任せたわ」


 エリスはやや憂いの表情で窓の外などを眺めている。

 うむ。きっと旅の疲労が残っているのでしょう。


 丁度良いので私は疑問に思った事を聞いてみる。


「エリスとアルヴィトは血縁?」

「ん? 違うはずよ。と言っても同じダークエルフだし、全く関係ないわけではないと思うけど……何故そう思うの?」

「似てる気がするから」


 そう言うとエリスは少し嬉しそうに。


「そう……先生はダークエルフにとって誇り。当然、私の目標でもある。だからかしらね」


そう言って微笑むエリスは眩しく映り、ちょっとだけ私に罪悪感を覚えさせるのだった。



 †



 私はアルヴィトに善処はすると約束したものの、何をどうすればいいのかと言われると具体案は浮かばなかった。

 私も少し気分転換に出て来ると言って廊下に出た。エリスが「案内する?」と言ってくれたが断った。

 適当に廊下を歩いているとリリスとアリシア先輩は厨房らしい場所で食事の準備をしていた。

 邪魔をしないように通り過ぎる。そうしてまた少し歩くと大窓があり、そこで窓の外を見ていたアルヴィトを見つけた。私は声を掛ける事にする。


「広い場所ですね」

「元は学校として作られた場所ですからね」


 彼女は穏やかに微笑んで返してくれる。なるほどエリスが目標と言ったのも解る気がする。


「ところで気になっていたんですが、孤児院と聞いた割には子供を見かけませんが……」

「基本的にエルフは長寿のせいで出生率は低いのです。それに加え、今は立派に育って皆出て行きましたから。それに他に立地の良い孤児院もありますし。こんな離れに来るのは特別な子ぐらいですよ」


 ああ、そうかエルフだからなと思い至る。そうした意味では色々と私たちとは違ってくる。

 でも特別な子ってなんだろう? エリスとアリシア先輩は特別なのか?


「特別な子ですか……それは特別な才能を見出された子、例えば女王の剣に選ばれるような……そういう解釈で良いのですか?」

「ふふ。軽蔑しますか?」

「いえ……」


 あまり深く聞かない方が良かったかもしれない、とちょっと後悔する。

 どこでもある程度はそうした、しがらみのような事情があるのだろう。孤児院の運営ともなれば尚更だ。


「仮にそうだったとしても私は彼女達には幸せになって欲しい。しかし、まあ見事に私の後を継いでしまって。強制はしていないはずなんですがね……ああ、言ってませんでしたか? 私も女王の剣の一人のはずです。外されていなければですが……何せ最初の一人ですからね」

「女王の剣ですか……そう言えば詳しく聞いてない」


 旅自体が始めてなのに、結構な長旅だ。

 仕方ないのかもしれないが、いろいろと不備が目立ってきていた。浮かれていた点も否定できない。


「そうですね……あまりこの国の内情を話すのは良くないですが、あの子達が見込んだ子ですし、少しなら構わないでしょう。


 一の剣、筆頭の近衛騎士団団長ブリュンヒルデ。彼女はこの国の最強戦力でしょう。ただ陛下の傍を離れることはありませんから、万一、敵に回ったなら逃げる事をお勧めします。


 二の剣、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの神官三姉妹。この三人が主に内政を担当しています。


 三の剣、将軍のミスト。はもう会っていますね。ブリュンヒルデに匹敵するのは彼女くらいでしょう。


 四の剣、同じく将軍のスカディ。確か今はカリスへ盗賊問題の事後処理に向かっていると聞きました。今はこの国に居ないはずです。


 五の剣、宮廷魔術師ゲンドゥル、彼女は神官三姉妹とはあまり仲が良くないらしく滅多に姿を見せません。気にしなくても良いでしょう。


 六の剣、エリス、アリシアは説明するまでもないでしょう。


 七の剣、半ば引退の私、アルヴィト。


 これで「女王の七剣」と呼ばれているんですよ」


 七人にしとけよ! と激しく突っ込みたい気分です。

 しかしお陰で状況が明確になった気がする。


「助かります。なら相対する可能性があるのは近衛騎士団団長と神官三姉妹くらいということですね」


 ミスト将軍は今のところ味方と言っていいだろう。不確定要素ではあるが。


「申し訳ないのですが私の支援は期待しないでください。私が隠居の身であるのは私が動けば国が二分されることを自覚しているためでもあります。この様な身でもまだ影響力が残ってしまっていまして。特にダークエルフにとっては。そうなれば我々のしてきたことは水泡に帰してしまうでしょう」


 エリスの言った様にアルヴィトはダークエルフにとって英雄であり目標なのだ。だからこそ動けない。


「いえ、充分助かりました」

「ふふ。そろそろ食事もできる頃でしょうか? アリシアの料理の腕は上がったのかしら? 久しぶりなので私も楽しみです」


 先輩、期待されてますよ! と私は思うのだった。



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