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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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先生1

 いくつかの街や村を越えて森を抜けると、馬車はアルフヘイム王国の王都へと入っていた。

 被害者たちを送り届けながらの行軍に少し時間がかかってしまったが、おかげで充分休めたと考えればそれほどのことでもない。

 街へ入る前には大きな門があったが、ミスト将軍のおかげで止められることもなく通る事ができた。


 しばらく前から巨大な樹が見えている。

 山一つ分ほどあるのではないだろうかと思うほど大きな樹だ。

 その樹を囲むように湖があり、それを背景に街が出来ていた。

 街の最奥、湖と巨大樹を背に白亜の城が見える。

 あれが女王の居城だろう。


「凄いな……」


 その絶景に思わず感嘆の声が出る。


「ふふ。そうだろう。聖樹の威容もそうだがこれほど自然と調和した都は他にあるまい。ここはエルフにとって聖地だからな」


 そう言うミスト将軍でさえ自慢に思っている様子だ。


 門をくぐってしばらくすると露天商が多く立ち並び、活気に溢れてくる。この辺りはアストリアと同じだ。

 だが、アルフヘイム王都なだけあって街にはやはりエルフが多い。エルフが大半で次にダークエルフそして常人(ヒューマン)は旅人や冒険者や商人がちらほらいるだけだ。


「むぅ。私が目立ってしまう……」

「? ソニアはいつも目立っているわよ。自覚なかったのかしら?」

「何ですと!?」


 アリシア先輩の言葉に私は驚いた。

 馬鹿な……私は目立たないことを標榜して生きてきたはず……


 まさか!?


「フッ……いつの間にやらクール美少女へと至ってしまっていたのか……ならば目立ってしまうのも仕方ない」


 その言葉にアリシア先輩は少し考えるようにしてから言った。


「……喋らなければそう見えない事も無いのかしら」


 条件付きだったようです。


 そうこうしているうちに、馬車は大通りを進んで行く。

 大通りの中心に近づくにつれて、次第に人通りは落ち着きを見せていた。

 この辺りは普通に建物にお店が並んでいるようだ。


「気になっていたんですが、エルフは神話の神様や聖人の名前が多いですよね」

「そうね。もちろん同一人物では無いわ。エルフは長寿だから神話とか大切にするのよ。それにあやかって名付ける事が多いのよ」


 これもそうした文化なのだろう。


「なるほど。でも同一人物がいても気づかないんじゃ? エルフって見た目若いままで余程歳を取らないと変わりませんよね」

「ふふ。そうかも知れないわね。隣に住んでる人が実は神話の英雄とかあるかもしれないわね」

「それは浪漫がありますね」


 アリシア先輩とそんな雑談をしている内に私達は広場へと至っていた。

 どうやらここが大通りの中心らしい。

 そこでミスト将軍が馬上から声をかけてくる。


「私は報告のために登城するが君たちはどうするかね?」

「そうね……旅の疲れもあるだろうし日を改めた方が良いかも知れないわね。陛下へは帰って来た事だけ伝えてくれる?」


 私には勝手が分からないので、代表してアリシア先輩が応えてくれる。


「了解した。近く参内すると伝えておこう」

「お願い。私達は先生の所へ行くわ」

「ふむ。そうだな。帰って来たのだから挨拶しておくべきだろう。了解した。ではまた後日」

「ええ」


 そうしてミスト将軍たちは私たちの馬車とは離れて行った。


「先生というのは?」


 私は今の話にあった先生についてアリシア先輩に聞いてみる。


「ええ。私とエリス、ミストもだけど学校のような施設で暮らしていたことは話したかしら? そこの先生で私達の師であり、親のような人よ」

「むぅ。いきなり親に紹介されてしまうのか……緊張してしまうな」

「そ、そうね。そんな風に言われると意識しちゃうじゃない……。ま、まあ部屋が空いていれば使わせて貰えるだろうし」


 アリシア先輩の挙動がおかしくなっている。うむ。いつも通りだな。

 馬車は城へと続く大通りを外れて横道へと入って行く。


「先ほど将軍が聖樹と言ってましたが、あの巨大な樹のことですよね」

「ええ。聖樹と呼ばれて信仰の対象になっているわ。信仰の自由は認められているけど、聖樹信仰は事実上この国の国教の様なものね」

「なるほど。どおりで神官をよく見かけると思いました」


 しばらく街の様子を堪能していると馬車はだんだん人気の無い森のような場所へと入って行く。

 それからもしばらく進み、街はずれの森の中の様な場所にその古風な館はポツンと建っていた。


「ここよ」

「なかなか雰囲気があるというか……静かなのは好きですけど……」

「はっきり言って良いのよ。怖いくらいでしょ? 私も初めはそう思ったわ。歴史のある建物だそうよ」

「ええ。まあ……。怖いくらいに美しいと言うべきでしょうか」


 馬車を建物の脇へ停めて馬を休ませる。

 馬車を降りた私たちの眼前にあるのは、その歴史ある建物だ。

 王城にはさすがに劣るのだろうが、それでもかなり立派な建築物が視界を占めている。

 なるほど、学校と言われればその通りなのかもしれない。


 その間に私達にきづい気づいたのだろう、女性が玄関の階段を降りてきた。

 ダークエルフの女性で銀縁眼鏡を掛けている。若く見えるがエルフの年齢は分かりづらい。どことなくエリスに似ている気がする。


「先生……ただいま」

「ただいま戻りました」


 アリシア先輩とエリスがやや緊張した様な面持ちで挨拶をする。

 私とリリスはその後ろで会釈をした。


「ええ。お帰りなさいアリシア、エリス。しばらくぶりね。お友達もつれてきたのね。中で話しましょう。案内して頂戴」

「はい。先生」


 口調は穏やかで優しそうだが、直立して挨拶する二人の様子から厳しい人なのかなと思ってしまう。


 館へ入るとエリスとアリシア先輩に先導されて廊下を進む。

 私達は応接室らしい場所へ案内された。その綺麗に整えられた室内からは几帳面さがうかがえる。

 椅子へ座るように勧められたので、座らせてもらった。


「では先ず挨拶ですね。ようこそ「世界樹の庭」へ。私が当院の院長を務めますアルヴィトです。二人もよく無事に戻りましたね。お帰りなさい」

「はい。ただいま先生……」


 アルヴィトと名乗った女性とエリス、アリシア先輩は感慨深げに目を合わせて微笑む。

 アリシア先輩がそれに続いて私たちを紹介する。


「じゃあこちらも紹介するわね。こちらが私の主人、ソニアとその従者のリリス」


 その紹介に私たちは目を丸くしていた。特に主人というところに。


「「えっ!?」」


 リリス以外の皆が驚いている。アルヴィトはもちろん、私も驚いていた。リリスだけは当然だとでも言う様に普段通りだ。


 なんてことだ! アリシア先輩は天然なのだ!

 しかも普段はそうは見えないのに、ここ一番でぶっ込んでくるタチの悪さ……完全に油断していた。


「聞き間違いかしら? 主人って聞こえたのですが……」

「聞き間違いではなくて言い間違いですね。主人ではなくてパーティーリーダーです。アリシアは昔からポンコツな所があるので」


 エリスがフォローしてくれる。

 アリシア先輩はポンコツじゃないわよ! と抗議していたが、私は心の中でエリスできる子! と称賛を送っていた。


「そ、そう」


 アルヴィトはやや不審気にしているものの一応納得してくれた様子だ。


 うん? 今、私がパーティーリーダーって言われた様な……

 そうか、散華ちゃんが居ない今は私が代理でパーティーリーダーになるのか?


 ではパーティーリーダーらしく振舞わねばならないな!


「ええ。本当のパーティーリーダーが所用で来られなかったので、私が代理でパーティーリーダーになりました。というわけで娘さん達をください!」


 言った。言ってやりましたよ! パーティーリーダーらしく潔く!


「……」


 アルヴィトは固まっている。エリスがお前もか、という冷めた目で私を見る。


 あれ?


「一応、言っておきますがパーティーメンバーとしてくださいということです」


 エリスはフォローしてくれる。うん。信じてた。今日のエリスは頼もしいな!


 しばらく固まっていたアルヴィトだったが、一息ついて包容力のある笑みをたたえると言った。


「ふふ。面白いお友達ですね。なるほど。確かに私は二人の母親の様な存在かもしれませんね。では応えましょう。先ず父親の承諾を得なくてはなりません」

「父親ですか……なるほど分かりました」


 ここは孤児院と聞いている。

 そして父親というのはやはり女王様のことを暗示したのだろうと思い至る。


「聞いても良いですか?」

「何でしょう?」

「この国の女王様とはお知り合いですか?」

「ふふ。鋭いですね。ええ。これでも私は昔はダークエルフの族長などしていましてね。彼女とは長い付き合いですよ」

「えっ!? そうなの?」


 アリシア先輩が私と同じように驚いている。

 ダークエルフとエルフの仲を取り持ったのが今の女王だとい聞いている。その片方の族長ともなれば因縁浅からぬ仲だろう。


「やはりポンコツ……私たちが女王の剣に選ばれたんだから何となく察するわよね」


 エリスは知っていた様子だ。アリシア先輩はエリスに向けて「ぐぎぎ……」と唸っていた。


「では「父親」について詳しい話をお聞かせ願えるでしょうか?」

「ふふ。ソニアだったわね。あなた抜け目無いわね。気に入ったわ。そうね。女王陛下については話せないけれど「父親」についてなら問題ないかしら……」


 彼女は「父親」が女王陛下だとは言っていない。それとなく示唆するのみだ。

 

 だが彼女は私達の知らないことを知っているはずだ。


 ならば私は彼女の言葉を聞かなくてはならない──



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