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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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それぞれの思惑

 ダンジョンの出入り口にある砦の門から冒険者の一団が出て来る。

 その一団の大半が校章の入った外套、または腕章をつけている。学生達だ。

 皆が無事に帰って来た事を喜び、ほっとした表情を浮かべている。


 その光景を物陰から窺う視線がある。

 その者達は革鎧や長剣、弓や杖などの装備から冒険者のパーティーだとわかる。

 特徴的なのはエルフとダークエルフで構成されている事だった。


「へえ。無事に戻って来れたんだ。彼女達強いね」


 その中の一人、戦士姿のダークエルフの女が独り言のように呟いた。


「スカディ。遊んでないで報告に行きますよ」


 そう咎めたのはエルフの女神官だ。


「ウルド。少しくらい休もうよ。報告したらまた何か仕事押し付けられるよ」

「……貴女にはもう少し女王陛下の剣の一人として自覚して頂きたいものです……ですがこのような仕事は確かに遠慮したいですね。それに急な仕事でしたし、貴女の言い分も分かります。ですので報告してから休みましょう」

「……真面目め。仕方ないそれで妥協するか」


 そのエルフのパーティーははしゃぐ学生達を横目に見ながら、報告をするためその場を後にした。



 †



 砦を出て広場に出た学生達は安堵したのも束の間、自然に整列する。

 皆、生徒会であるという意識を高く持っているためだ。

 そして会長(散華)が前へ出る。


「皆今日はよく働いてくれた。感謝する。皆、疲れている事だろう。しっかりと休息を取って欲しい。それでは解散!」


 会長の言葉が終わると解散となった。

 今度こそ安心した雰囲気に変わり、皆は談笑したり疲れて帰ったりしている。

 そんな姿を傍目に見ながら一人、壁際に腰を下ろしてアリスは思う。


「遠いな……」


 近づけたと思っていた。肩を並べるまでとはいかなくても後ろに控えるぐらいには。

 それがどうだ? 目で追うのがやっとではないか。

 上には上がいる? そんな事は知っている。言われるまでもない。


「結局、私がどうしたいか。なのだろうな……」


 私はそう独り言を呟いてしまう。


「そこは()()だろう?」


 そう言って近づいて来たのはクリスティ、とリリィだ。


「……盗み聞きとは感心しませんね」


 私はばつが悪かったので、そっぽを向きながら悪態をついてしまった。

 しかし、クリスティはやれやれといった様子で肩をすくめただけだ。


 むぅ。大人ぶって……ちょっとイラッとしました。


「まあ。皆考えることは同じですわよね」


 そう言ってリリィが間に入る。


「そうだな。そこで提案だ。我々でパーティーを組まないか?」


 唐突にクリスティはそんな事を言った。


「私とですか?」


 少し驚いた。暗黒騎士団と聖騎士団は犬猿の仲とまではいかないものの、仲が良くはない。

 それは暗黒騎士団の成り立ちが聖騎士団に対抗するためだったところも大きいからだ。


「そうだ。だが勘違いしてくれるな。何もこちらへ引き込もうとしているのではない。あくまで対等な立場を維持しつつだ」

「そうですよ。それに聖騎士団は近いうちにわたくしが乗っ取る予定ですから邪魔しないでくださいね?」


 リリィが不穏な事を言う。冗談を装いつつも目が本気だ。……とんだ獅子身中の虫だよ!


「……それは断固阻止しよう。ともかく私はお前を認めている。アリス、私と共に来い!」


 そう言ってクリスティは手を差し出す。

 やだ、クリスティがちょっとカッコイイ。


「ふふ。大司教(ソニア)様がいなかったら惚れてしまったかもしれませんね。良いでしょう。その提案に乗りましょう」


 私はその手を取った。それをしっかりと握った彼女は私を立ち上がらせる。


「ああ。よろしく頼む」


 その手にリリィも手をのせて。


「強くなりましょう」


 そうして奇妙な三つ巴のパーティーが結成された。


「ところで今さらだが……何で暗黒騎士団なんだ?」


 クリスティが本当に今更な質問をする。


「どういう意味ですか?」

「いや、大層な名前だと思ってな。聖騎士団もそうだ。学生のお遊びだから許されるのだろうが……下手したら国に喧嘩を売りかねないだろう?」

「そうですね……」


 この話題は拙い。クリスティの言いたいことはわかる。

 まるでもう一人、王を立てているみたいだと言いたいのだろう。

 そして私は知っている。大司教様はやってしまう女だということを。

 私は知らないふりをして、あからさまに話題を変える……


「しかし、三人ですね。ダンジョン探索をするなら、少なくとも後二人は欲しいところですが……」

「そうだな。しかし我々について来られる者となると……」


 聖天使(散華)様達には及ばないものの、私達はそれなりには強い。

 そこは自負しているので、悩む。

 緩い基準を設けるならいくらでも居るのだが……

 自分達の不甲斐なさを棚に上げている気はするものの、それでは目的にそぐわない気がする。


「学生では居ないでしょう。ギルドでその都度、応援を探すしかないかもしれません」


 リリィがきっぱりとそう言った時だった。


「良い話ね。私も乗らせてもらおうかしら」


 そう言ったのは伝統的な魔女姿の女性。

 たしかこの女性は応援で来ていた。聖天使様達の知り合いのはず……


「アンナさんでしたね。先程はどうも」


 クリスティが代表して挨拶をする。彼女も変わったなと思う。

 私と同じく、思うところがあったのだろう……


「ええ。よろしく。アリス、リリィ、クリスティよね。大会でも拝見させてもらったわ。素晴らしかったわよ」

「ありがとうございます。それで先の話ですが……つまり我々のパーティーに入ってもらえるということですか?」

「ええ。私とグランもパーティーを探していたのよね。これでも冒険者としては経験豊富よ。損はさせないわ。どうかしら?」

「それは有難いが……」


 そう言ってクリスティはちらりとリリィの方を見る。


「男は無理!」


 リリィがそう言って断固拒否の姿勢を取っていた。

 ああ、リリィってやっぱりそういう方向……私は気をつけようと思った。


 それはともかく、アンナさんがグランさんと行動を共にしているのは明白だった。


「強くなりたいのでしょう? それに大丈夫よ。グランは私の物だから」


 おう。アンナさんカッケー。

 それにはリリィも何か感じ入るところがあったのだろうか……


「むむ……良いでしょう。これも聖女たる者への試練……。よろしくおねがいします」


 なんて低難度の試練なんだ……。その神様、大丈夫か?

 とは思ったが、リリィが折れたのでアンナさんはニッコリと微笑んで。


「ええ。こちらこそよろしくお願いするわ」


 そうして今度こそパーティーが結成された。


 その後、アンナさんを探して現れたグランさんだったが……


「マジか……」


 事後承諾だったらしく、後から聞かされたグランさんは顔が引きつっていた。

 グランさんは誰か一人でも男を入れないかと提案していたが、リリィの「男は無理!」で却下された。



 †



 ダンジョンへの偵察から帰った翌日。

 生徒会長執務室。


 昨日はさすがに疲れが出て解散となった。

 今は私の他、姉様、ツヴェルフ、アイリーンが集まっている。


「昨日はお疲れさまでした。すぐにでも詳細を聞きたいところですが、ソニア達に連絡するなら二度手間になりますね。一緒に聞かせてもらいます」


 アイリーンがそう言った。アイリーンはアイリスを残せないため昨日は不参加だった。


「ああ。助かる。ではソニアに連絡する」


 私はソニアと連絡を取るため遠距離通話用の魔導具を取る。その魔導具は小型で耳飾りにもなる。

 使わない時は机の上のスタンドにでもかけておけば、ちょっとしたオシャレアイテムだ。


 しばらくしてソニアと繋がる。


「ソニアか?」

「ああ。散華ちゃん? ちょっと今、都合悪い。後で識界の方でお願い」

「そうか……分かった。では半刻後でどうだ?」

「うん。それでお願い」


 私はアイリーンに向き直る。


「都合が悪いそうだ。半刻後に識界で会う事になった。アイリーンとツヴェルフはどうする?」

「分かりました。行きます」

「……私は行けるのでしょうか?」


 すぐに肯定したアイリーンに対してツヴェルフは不安そうだ。

 ツヴェルフは自動人形(オートマタ)だ。まだまだ自動人形には解明されていない謎が多い。

 特に彼女は遺跡で発掘されたため、失われた技術(ロストテクノロジー)そのものと言っても過言ではない。


「そうだな。こればかりはやってみなくては分からないな。では練習してみようか。まだ半刻ある」

「そうですね。わたくしも付き合いましょう」


 姉様が協力してくれる。ソニアと識界へ向かった時も姉様と一緒だった。


「では私は危険が無いように見ていましょう」


 アイリーンは見ていてくれる。

 三人が手を取り合う。


「では精神を同調させるんだ」


 そうして半刻が過ぎた。


 

 †



 識界。


「おおう。師匠とツヴェルフさんまで来てる」

「ソニア。これは凄いですね……」


 ツヴェルフは感激しているようだ。キョロキョロと辺りを見回している。

 私達は練習の成果か、どうにか無事に識界の蒼炎の魔女の家の前まで来ることができた。


「私の家は伝言板じゃないんだがね。まあいいさ。あがりな」

「ソニア。この方は?」

「私のお婆ちゃんです」


 ツヴェルフとアイリーンは驚いていた。

 無理もないだろう。蒼炎の魔女は有名だ。それが更に若くなっている。

 どうにか二人は簡単な挨拶を返していた。


 私たちは蒼炎の魔女の言葉に甘えて家へ上がらせてもらう。

 皆が腰を落ち着けると私は切り出した。


「先ずそちらの状況から聞こうか。何があった?」

「うん。山賊を倒したらエルフの将軍に傭兵に誘われて傭兵になりました。今、エルフの王都に帰還中です。周りに兵士が大勢います。護衛されているともいえますが、連行されているともいえます。監視されているのであまり連絡できません。今も先輩達に見張ってもらっています」

「それはまた……」


 唖然としてしまうが、ソニアにとってはいつも通りの事だ。と自分に言い聞かせる。


「うむ。事情は分かった。ではこちらも話そう。闇の魔女の墓所だが、それらしい場所は見つけた。だがデュラハン達が多くて容易には手が出せない。それと、どうもエルフ達にも知られたらしい。確証はないが、妨害らしきものを受けた」

「妨害か……自分たち以外に知られるのは嫌ってところかな? となると下手に闇の魔女の墓所なんて言い出せないか。切り札にするのは危険かもしれないな……」


 ソニアはそう言うとしばらく考え込む。


「私も魔女連中には何人か知り合いがいるが、闇の魔女については聞かないね。もしかしたらそこに封印でもされているのかもしれないね」


 その蒼炎の魔女の言葉に私達は驚く。


「封印ですか……」


 封印……最近、それを見たことがあることに私たちは思い至っていた。アイリスだ。

 彼女は模造女神として封印されていた。そして今ではアイリーンの許で暮らしている。


「仮に封印されていたとしても女王という立場では自由に他国へ出入りする事は叶わないだろう。お忍びなら可能かもしれないが、それではダンジョン攻略は絶望的だ。名うての冒険者でも成果が上がっていない現状。エルフの女王はダンジョンそのものを抑えにくる可能性が高いかもしれないね」


 どうやら教授に続いて、蒼炎の魔女まで同じ意見らしい。


「山賊の問題もありますね。やはり戦争になりますか……」


 私の言葉に皆が黙り込む。

 決定的とは言えないまでも、急速に深刻な問題へと発展しだしている気がする。


 そんな中……


「これは危機的状況だろうか……あるいは絶好の機会かも知れんな……」


 ソニアのそんな独り言が、妙に私の耳に残るのだった。





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