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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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鬼退治

 対峙した相手は深く呼気を発して、戦闘前の儀式のように獲物を品定めしていた。

 戦鬼(オーガ)……戦いというものに取り憑かれた醜悪な凶相。人型でありながら強靭な肉体は人の域を越えて大型化し、頭には角が生えている。

 これまで多くの冒険者を屠ってきた、決して油断できない相手だ。

 

「では鬼退治と参りましょうか!」


 そう言った姉様はその威圧感に負けじと、前に出て戦鬼と対峙する。

 姉様がやる気だ。

 いや、これは皆を鼓舞するために敢えて言ったのだ。私はその意を汲む。


「ハハッ! 姉様が言うと似合いますね。皆、姉様に続くぞ!」


「「はい!」」


 ツヴェルフ、アリス、クリスティ、リリィが応じる。藤乃も頷いた。

 先ほどまでの絶望的な雰囲気が一変する。

 皆に闘志が(みなぎ)るのが分かる。

 やはり姉様は頼もしい。私も思わずニヤリとしてしまう。


 その時。


「ガァァァァッ!!」


 オーガが吼えた。

 こちらの雰囲気の変化に気づいて威圧してきたのだ。

 そして戦鬼もまた戦闘態勢に入る。その手にしているのは棒状の大岩だ。

 人二人分ほどある筋骨隆々な体躯にそれは、なかなかに凶悪な威圧感だ。


 私は皆に指示を飛ばす。


「ツヴェルフ、藤乃はデュラハン達を! 無理せず抑えてくれるだけでいい! アリス、リリィは詠唱準備! 狙いは小鬼(ゴブリン)共だ! クリスティはその防御を! 姉様! 」

「ええ。散華! 退路をこじ開けますよ!」


 だが先に動いたのはオーガだった。

 手にした大岩を前に出ていた姉様へ振り下ろす!


 ドオオオオォォン!!


 まるで大砲の様な一撃が地面を(えぐ)った。

 蓮華は後方へ飛んで躱すも、地面から抉られた礫が弾となって襲う!


「くっ!!」


 避けきれずに傷ついてしまう。


「姉様!」

「大丈夫です。かすり傷です。それにしてもなんて力ですか」


 あまりの衝撃に地面には穴が開き、オーガの持っていた棒状の大岩も半ばから折れていた。

 オーガは折れたもう一方を拾うとまるで太鼓を叩くように姉様へ連撃を浴びせる!


 だがそうはさせない。オーガが姉様に気を取られている隙に私は走り込み、既に背後を取っていた。


 オーガの背に斬撃を放つ!


「硬いなッ!」


 斬撃は入ったものの、致命傷には至らなかった。肉の表面をわずかに掠めただけだ。


「グウッ!」


 それでもオーガは驚いているようだった。オーガの皮膚は硬い。

 恐らくこのオーガがこれまで対した冒険者は一撃を入れることも叶わなかったのだろう。


 周囲を遠巻きに囲んだゴブリン達はオーガの暴威に近づけないでいる。

 ゴブリン達の一部がオーガを援護しようと弓を構えた。


 しかし私と姉様はゴブリン達からの射線にオーガを入れて盾になる様立ち回る。

 ゴブリン達はそれを無視してそのまま何本もの矢を放った!


 普段なら何発矢を浴びようと気にも留めないからだろう。それほど硬い皮膚だ。だが今回は私が背中に傷つけていた。その傷口に矢が突き立っていた。


「ガアアアアアアッ!!」


 堪らずオーガは咆えると手に持った一本の大岩をゴブリン達に投げつける。


「「ギャッ!!」」


 大岩に潰され何体ものゴブリン達が圧死した。

 ゴブリン達は震えあがりオーガへの援護は無くなった。


 オーガの怒りに燃える目が私を捉える。私を危険視したのが分かる。


「さあ。来るがいい」


 綱渡りのような緊張感の中、私は刀を突きだし挑発する。


 オーガが突進から渾身の力で大岩を振り下ろしてきた!

 しかし私は避けるまでもなかった。


「終わりです」


 オーガの背後から静かな声がかかる。姉様だ。


「華咲流 花鳥風月 『飛燕』」


 華咲の剣の奥儀を花鳥風月で表した時それは「鳥」にあたる。その剣閃は飛燕の様に弧を描く。

 神速の斬撃がオーガを背後から両断していた。


 私ですらその剣技に見惚れてしまう。姉様はやはり美しい。


「姉様……また強くなってませんか?」

「ふふ。愛の力です」


 うむ。深く聞かない方がヨサソウダ……



 †



「ずいぶんと戦い慣れしてるじゃないか」


 クリスティはげんなりしていた。

 小鬼(ゴブリン)共は、弓で詠唱をしているリリィとアリスを正確に狙っている。

 ゴブリン達から無数の矢が飛んでくる。


 クリスティは全身鎧(プレートアーマー)を着ている。手には(シールド)長剣(ロングソード)。騎士らしい格好だ。


 クリスティは盾で矢を防ぎながら二人を護る。

 ゴブリンが多いせいで矢の数も多い。

 クリスティは全身を使うようにして守りを固めた。


「ふふ。前の私なら激昂して突撃していたかも知れんな」


 クリスティは思う。大会での敗北は己の力になっていると。力にするのだと。

 クリスティは矢の雨を耐え続けた。

 そうしてしばらくすると。


「炎よ――」

「光よ――」


 前方の宙空に展開した魔法陣から火炎と聖光がゴブリン達に降り注いだ!

 アリスとリリィの魔法である。


「「ギャアアアアア!!」」


 ゴブリン達は逃げ惑うが次々と殲滅されていく。

 一掃されたのを確認するとアリスはクリスティに声を掛けた。


「お待たせしました」

「ふふ。待たせ過ぎだ……」


 安心するとクリスティは膝をついた。盾と鎧で矢は防げてもその衝撃は完全には殺せずにクリスティに伝わっていたのだ。そして何より数が多すぎた。

 アリスとリリィは目を合わせるとすぐにクリスティの治療に入流のだった。



 †



 ツヴェルフの大剣がデュラハンを両断する。


「やりますね」


 藤乃が素直な感嘆の声を漏らした。


「以前のデュラハンよりは弱い様です」


 それは前のデュラハンとも戦ったツヴェルフゆえの感想だった。


「そうですか。その話は散華様から聞いています。危ない行動は控えていただきたいと何度も申し上げているのですが……」


 不満を漏らしながらも藤乃は、手にしたサーベルを振り下ろして一体を葬る。


「貴女もやりますね。頼まれたのは抑える事でしたが……倒してしまっても良いのだろう? というやつですね」

「ふふ。貴女、面白いですね」


 ツヴェルフの言葉に対してそう藤乃が感想を漏らした。


 執事服の藤乃と修道服姿のツヴェルフという奇妙な組み合わせが華麗に舞った。

 追ってきたデュラハン達は次第に数を減らしていった。


 その中でツヴェルフは後悔していた。メイド服を着てくれば良かったと。



 †



 私と姉様はオーガを倒すと藤乃達の援護に回った。

 しばらくすると追手は止んだ。

 デュラハン達は先の場所を護るのを優先したのだろう。


 私達は警戒しつつ、息を整え小休止を取る。

 その間に皆は一通りの治療を行なっていく。


 私は考えていた。

 オーガ達は待ち伏せしていたのではないのか?

 思えばヘルハウンドもタイミングが良すぎた気もする。

 となると、考えられるのはエルフの妨害か……


「姉様。気のせいかも知れないのですが……」

「ええ。分かっています。ざっと調べてみましょう」


 簡単にだが辺りを調べてみた。だが、これといった証拠は見つからなかった。


 そこへ藤乃から声が掛かる。


「散華様。これ以上は……」


 藤乃には私達を無事に連れ帰るという母様からの使命がある。

 これ以上留まる事は許してはもらえないだろう。


「ああ。分かった。皆良くやってくれた。帰還する」


 私達は上層へ引き返すべく出発した。


 途中に魔物が何体も襲って来たが堅実に対処する。

 そうして私達は上層へたどり着いた。


「戻って来たわね」


 アンナさんがそう言って出迎えてくれた。


「お疲れ。中層はどうだった?」


 グランさんが労をねぎらいながら聞いてくる。


「デュラハン達に追われまして。すみませんが、少し休ませてください」

「そいつは災難だったな。ああ。充分に休んでくれ」

「ありがとうございます」


 私達は警戒をグランさん達と学生達に任せて、休ませてもらう。

 皆が思い思いに休憩に入ったのを見届けながら私は確認する。


「グランさん、こちらはどうでした? 何かありましたか?」

「ああ。いや、問題ない。魔物は出たが対処できた。皆、優秀だよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 そこでアンナさんが話に入って来た。


「そう言えば、エルフのパーティーが中層へ降りていったわよね?」

「ああ。そうだったな」

「エルフのパーティーですか?」


 私は平静を装いつつ尋ねる。


「ええ。あまり見たことがないパーティーだったから気になったのよ。最近来たのかしら?」

「そういえばそうだな。中層まで行くんだからかなりの実力者のはずだが……俺もこの街に長いが、初めて見たな」

「それでそのパーティーはまだ中層に?」

「いいえ、すぐに引き返して行ったわ」

「そうですか……ありがとうございます」


 話を聞いて私は姉様の許に向かった。


「姉様」

「ええ。聞いていました。目的は妨害工作か、排除でしょうか。あるいは単純に監視と言うこともあり得ますが……。いずれにせよ、こちらの動きが察知されたと見て間違いないでしょう」

「大部隊を動かしたのは早計だったのでしょうか?」

「知られるときには知られるものです。それよりも早めにソニア達に連絡しておいた方が良さそうですね」

「……そうですね」


 その後私達は皆で表層へ向かい、桜花と残りの学生達と合流した。

 私達は皆の無事を確認すると街へと帰還するのだった……





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