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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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魔窟

 ダンジョン前。

 そこは石造りの堅牢な砦で囲われている。ダンジョンから出ようとする魔物を封じるためだ。

 今も残るこの砦こそ、この街の起源だ。それから増築や改築を重ね続け、今の街となった。


 その砦の門へは何人もの冒険者達が出入りしている。

 魔物の素材を集めに来る者、研究者、討伐依頼を受けた者、護衛……理由は様々だ。


 そんな中、二人の冒険者が我々を待ってくれていた。

 グランさんとアンナさんだ。

 グランさんは装備を新調していた。

 前まではボロボロの装備だったのでアンナさんに何か言われたのだろう。

 ランクアップも果たしたので良い機会だったのだ。

 アンナさんはいつも通りの魔女らしい格好だ。スリットから見え隠れする美脚も健在だ。

 私が挨拶をしようと近づくと先にアンナさんから声を掛けられた。


「来たわね」

「わざわざすみません。よろしくお願いします」

「ああ。今回は失敗しないさ」


 二人には生徒会の護衛をお願いした。

 やはり学生だけでは不安だったためだ。

 以前、学生に死亡者が出てしまっている。その時、ソニアを助けたのがグランさんだった。

 その時のことをグランさんは失敗だと思っている。

 私は当事者ではないが、話を聞く限りでは良くやってくれたと思う。学生とは言え冒険者は基本、自己責任だ。


「散華様。桜花の準備も整っています」


 そこへ声を掛けてきたのは華咲家執事の藤乃だ。

 今日も男装の執事服が決まっている。

 藤乃は美人だ。女学生達からの視線が熱い。一見すると美男子に見えてしまうのだ。

 だが、女だ!


 彼女は先の大会で活躍した「桜花」を率いていた。冒険者パーティー、「桜花」は華咲一門の師弟達だ。

 礼節を重んじる彼らは荒くれ者の多い冒険者達においてやや特異な目でみられる。

 だが、それ故に実力は本物だ。


 大会には藤乃は出ていない。彼女は何よりも母様と執事の仕事を優先してくれるためだ。

 彼女は姉様に並ぶ実力者だ。もし藤乃が大会に出ていたら負けていたかもしれない。

 普段は母様を護っているので彼女が華咲家の外に出るのは珍しい。

 私は念のために藤乃に確認をする。


「藤乃。本当に良いのか?」

「奥様の指示ですので。それほど奥様は心配なさっておられるのです」

「すまない。助かる。私達が母様の不安を払拭できればよかったのだが……」

「そうお思いになるのでしたら、危ない真似は控えていただきたいのですが」

「……ごめんなさい」


 静かな口調で、怒られてしまった。

 母様は先日父様が一度帰宅して以来、不安になっている様子だった。

 だから藤乃を私達の護衛につけたのだ。

 しかしながら、この援軍はありがたいのでしっかり働いてもらう事にする。


 予定では表層に半数の学生と桜花を残し、上層には残りの学生とグランさんとアンナさんで退路を確保してもらう。

 そして中層へは我々のパーティーで向かうという計画だった。

 藤乃は護衛なので私達について来る。


 姉様、ツヴェルフとも簡単な確認を終える。

 生徒会は優秀な者たちの集まりだ。私が前に立つだけで自然と整列する。

 一息つくと、私は号令を発した。


「では皆、出発する! 今回は調査と訓練だ。絶対に無理をしない様に!」


 並んだ一同を見渡しながら告げた号令に、応える声は大きい。


「「おお!!」」


 生徒会の面々は意気軒昂(いきけんこう)だった。

 そうして私達はダンジョンへと入っていった。



 †



「数は力というのをまざまざと見せつけられたわね」

「ああ。それに以前見た学生達とは実力が違う。あの大会のせいか実力も上がっているようだ」


 アンナさんとグランさんが感心していた。

 表層を難なく突破したためだ。生徒会は一般の学生とは一線を画している。

 ましてや新参の学生とは天と地ほどの差がある。その上、人数も多いとなれば当然の結果だった。

 また大会の熱気に当てられた冒険者達が今なお大勢いる。

 それは私たちも同じで、表層は手頃な狩場として人気となっていた。


「やはり一度、全生徒でこうした訓練を行うべきだったのか?」

「難しいところですね。上手く運べば良いですが、失敗すると責められますし。ダンジョンは何が起こるか分かりませんから」

「そうだな……」


 私の考えにツヴェルフは難色を示した。被害を抑えるために被害を出していては意味が無い。

 私は気持ちを切り替えて進む。


「ここからが本番だ! 残る者も進む者も皆、油断しない様に! 気を引き締めて行くぞ!」

「「おお!!」」


 私の言葉に皆が応えた。士気はまだまだ高い。


 予定通り表層に半数の生徒会と桜花を残し、我々は先へと進んだ。



 †



 上層。

 表層と同じく洞窟状の通路が続いているが、上層から下はヒカリゴケはあまり繁殖していない。

 暗くなるので数人の学生が角灯(ランタン)に灯をつける。魔導具なので火は使わない。角灯の中で魔石が輝いている。小さい物なら腰に提げられるので便利だ。

 準備が終わると慎重に進んで行く。


「うわっ!!」


 私達の後方から悲鳴があがった!

 脇道から不意に現れた魔物に学生が襲われたようだ。

 後方を見ると五匹の黒妖犬(ヘルハウンド)が一斉に襲い掛かっている。

 魔素を纏った獰猛な黒犬達が目を血走らせ涎を垂らしていた。


 私達は先頭を進んでいたので脇から現れたそれに対処出来なかった。

 狼狽した学生たちが邪魔をしてしまっているためだ。隊列の側面を突かれた形だった。


 そこで後方を守っていたグランさんが素早く近づき一匹を一刀両断する。

 グランさんと学生がが残りを牽制している隙に、アンナさんが火炎魔法を唱え残りのヘルハウンドを撃退した。

 不幸中の幸いで襲われた学生たちは軽傷で済んだ。


「今度は大人数の弱点を晒してしまったな」

「表層で調子にのってしまいましたね」


 私の反省にツヴェルフが同意する。

 その後も表層より魔物がやや強くなったため、数人の怪我人が出た。幸い軽傷だったので魔法ですぐに治療した。

 そして予定通り、上層に残りの学生とグランさん、アンナさんに残ってもらう。


「ではグランさん、アンナさん。後をよろしくお願いします」

「ああ。気をつけてな」

「ごめんね。私、デュラハンはまだ駄目みたい」


 アンナさんが申し訳なさそうにする。彼女の言った通り、中層からは首無し騎士(デュラハン)が出る。

 彼女はデュラハンによって大勢の仲間を失っている。

 彼女自身も危険な目に遭っている。無理もない。


「いえ、ここを守っていただけるだけで充分です」


 私達はあのデュラハンの事情を知ってしまった。

 特に私は直接話をしたので複雑な思いに囚われながら中層へ降りた。



 †



「これは……予想以上に数が多いな」


 私は唸らずにはいられなかった。

 中層。それもかなり奥の方だ。


 中層に降りたのは、私、蓮華姉様、ツヴェルフ、藤乃、クリスティ、アリス、リリィのパーティー。

 連携を確かめながら魔物を撃退して進み、ここまで来ていた。


 ここまで来ると他の冒険者達は居ない。下層へ降りる道から外れているためでもある。

 前方の広間には多くのデュラハン達が何かを護るように徘徊している。


「確かに何かありそうですね。ですがこれ以上は危険です。退却を推奨します」


 ツヴェルフが退却を勧める。


 以前戦ったデュラハンが特別だったとしても、数で押されれば不利なのはこちらだ。

 またこちらにはパーティーを組んだばかりで、連携に微妙なズレが起きていた。

 皆、良くやってくれてはいるが、こればかりは数をこなして慣れるしかない。

 今立ち向かうのはリスクが高かった。


「私がもっと大司教様の様にやれていれば……」


 アリスの言う大司教様とはソニアの事だ。彼女は私よりもソニアを崇拝している節がある。

 クリスティや聖女リリィもそれぞれ思うところがある様だ。 


「いや、皆良くやってくれている。何かしら思うところはあるだろうが、今後の飛躍のための糧として欲しい。では気づかれないうちに撤退するぞ!」


 皆が静かに頷いた。


「お待ちください!」


 そうして撤退しようとしたところ藤乃がそれを止めた。


「どうした?」

「どうやら気づかれた様です」

「!? この距離でか!」


 充分に距離はとっていたはず。何故だ?

 いや、今重要なのは理由ではない! どうするかだ!


「その様ですね。よほど大切なものが眠っているのでしょう」


 姉様も同意していた。それを受けてすぐに号令を出す。


「この広間では拙い。包囲されたらひとたまりもない! 後方を警戒しつつ、通路までもどるぞ!」


 私達はすぐにその場を離れるも、デュラハン達が追って来る。

 幸い守りを優先したのか総てが追って来るわけではなかったが、それでも数が多い。

 追ってくるのは二十体ほどだろうか。


「やはりダンジョンは一筋縄ではいかないな……」


 その絶望的な嘆きは誰が発したものだったか……


 通路へ後退した私達が目にしたのは魔物だった。

 それは退路を塞ぐように立っていた。

 それは一体の戦鬼(オーガ)だった。

 しかもその後方に小鬼(ゴブリン)達が控えている。


 後方からはデュラハン達が追ってきている。挟撃された形だ。


「戦うしか無いようですね」


 姉様の言葉と共に私達は戦う覚悟を決めた。



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