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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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山賊(二)

 私達はミスト将軍と共に山賊達の本隊を目指して山の中を歩いていた。

 周囲にはミスト将軍率いるエルフの軍勢が私達を囲む様に警戒をしている。


「これでは連行されているみたいだな」


 私がそう感想を漏らすとミスト将軍が言った。


「そこは護衛と言ってくれたまえよ。それで君達はどういう関係なのかな?」


 そうだった。道すがら紹介すると言う話だった。


「申し遅れました。私はソニア・ロンド。こちらは私の従者でリリスと言います」


 リリスが私の紹介にお辞儀をする。


「アリシア先輩とエリスとは同じパーティーメンバーです。いえ、むしろそれ以上です」

「それ以上では無いわ」


 私の言葉にアリシア先輩は喜んでいるがエリスが冷たく訂正する。


 フッ、遠慮しおって。


 エリスの銀髪には私があげた青薔薇がしっかりと挿してある。実は気に入っているらしい。

 あれから数日経ったが、散らずに綺麗な状態のままだ。魔法で創ったせいだろうか。

 じっとエリスを見つめてしまったのでエリスと目が合う。恥ずかしがってエリスは目を逸らした。


「そ、そうか……」


 その様子を見ていたミスト将軍は意外だったのか、目を丸くして驚いている。


「意外そうですね。二人とは知り合いですか?」


 私がそう尋ねると。


「ああ。昔から知っているよ。私のことは先ほどアリシアが大声で叫んだから良いだろう?」

「貴女のせいでしょ」


 笑いながら言うミスト将軍にアリシア先輩がむすっとして言った。


「それで何用で我が国へやって来たのかね? これは一応、一国の将としての正式な尋問だよ」


 ミスト将軍のその言葉に周囲からも警戒の色が走る。


「私達が身元は保証する、では駄目かしら?」


 エリスがそう言い、アリシア先輩も抗議の目を向ける。


「こればかりは駄目だね。特に今は」

「観光旅行では通りませんよね……ならばはっきり申し上げましょう」


 私は一呼吸置いて告げる。


「アリシアとエリスをください!」


 私の言葉にミスト将軍はまたも驚いている。


「ハハハ。これは冗談かね?」


 そして何故か笑われた。


「ソニア……はっきり言いすぎよ」

「まあ。それがソニアよね」


 アリシア先輩とエリスが呆れている。


「ふむ。本気だったのか。ならば知っているかと思うが、彼女達は()()()()()()でね。であれば私はお前たちを本当に連行しなければならない」

「別に逃げませんよ。どうせ向かう場所は同じですし」


 ミスト将軍に私は従う旨を告げた。


「そうか、剛毅だな。個人的にはお前のような奴は好きだが、私も仕事でね」


 そこでミスト将軍は良いことを思いついたと言うように。


「ああ。そうだ。山賊退治の活躍次第では傭兵として迎え入れよう。その場合もちろんこちらも相応の便宜をはかろう。どうだろうか?」

「将軍! 良いのですか? そんな勝手に……」


 副官らしき人物から抗議の声が上がる。


「犯罪を犯したわけでもない者達を捕らえる事などできまい? それに使える者は使った方がお得だろう?」


 さすが将軍にまで成った者だ。抜け目ない。副官も黙って頷くしかなかった。

 しかし、これは好機だろう。私達はその提案を受け入れることにした。


「わかりました。よろしくお願いします」


 こうして私達は仮契約の傭兵になった。



 †



 鬱蒼と木々が生い茂る山中。

 周囲を木々に隠されながらも、比較的開けた場所に山賊達は陣を構えていた。


「遅ぇな。何かあったか?」


 襲撃部隊として送った別動隊が帰って来ない。連絡もない。

 無法者達ではあるが、万一のためにそこだけは徹底している。

 それは直ぐに嫌な予感へと変わった。


「おい。お前等、場所を移るぞ。準備しろ!」

「お頭。この拠点は放棄するんですか?」

「ああ。少し長く居座りすぎた。カリスの方は大丈夫だが、アルフヘイム側はどう動いているか分からないからな。カリス側へ逃げるぞ!」


 カリス王国には内通者がいる。いや、内通者というより依頼主だ。

 仲介人からは詳しくは聞かされていないが相当に地位が高い者らしい。

 その者からの情報で王国騎士団がどう動くかわかっているためそちらは心配ない。

 むしろそうでなくてはこんな両国から狙われる様な国境沿いで活動したりなどしない。


 問題はアルフヘイム王国の方だ。

 エルフというのはプライドが高いので賄賂など通用しない。

 つまり山賊が捕まれば死刑は免れない。

 その上、ほぼ全員が魔法持ち(マジックユーザー)だ。厄介な事この上ない。


 当初、仲介人は「少し国境を荒らすだけの簡単なお仕事です。」と言っていた。

 これで報酬が悪ければぶっ殺していたところだ。


「苦労して手に入れたんだ。商品だけは絶対に忘れるなよ! 他は置いて行っても良い。さあ急げ!」

「へい!」


 頭目の指示の許、山賊達は慌ただしく移動の準備を始めた。


 逃げることに関してはもう何度も行っているため手際が良い。直ぐに準備は整った。


「お頭! 準備完了しました。何時でも移動できます! ですが、少し霧が出てきましたね。どうします? 移動しますか?」

「霧か……いや、まさかな。そんな大物が出張るはずが無ぇ」


 アルフヘイム王国の霧の将軍の話は有名だ。常勝不敗で周辺諸国を震撼させている。

 だがそんな化物が出てくるとは思いたくなかった。


 霧の中を移動するのは危険だ。しかし、移動しないのも不安だ。

 どうすべきか逡巡しているうちに霧は次第に濃くなっていく。


 するとどこからか「「ぎゃっ!」」と悲鳴があがった。

 それが次第に連続して聞こえてくる。


 ことここに至って山賊達の頭は己の失敗を悟った。もはやなりふり構わず逃げるしかない。


「くそっ! 出やがった! てめぇら逃げろぉおおお!!」


 その言葉に反応できた山賊は逃げようとした。

 しかし、何かが足元に絡まって動けない。


「何だ!? 足元に絡まって来やがる!」


 足元に絡みつくのは茨だ。所々に青薔薇が咲いている。

 その間も周囲からの悲鳴は止まらない。


 頭目は戦斧で茨を切り裂きながら遁走しようとした。

 しかし辺りはすっかり白く染まり方向感覚さえ働かない。


「逃がさんよ! 貴様が頭目だな?」


 そう言って山賊頭へと近づいて来たのは白銀の鎧を纏うエルフの女だ。

 やや儚げな印象ながらその目は強者の自信に満ちている。

 噂通りなら将軍、ミストで間違い無いだろう、と山賊頭は悟った。


「まさか……将軍自らの出陣とはな……だが逆にお前さえ殺せば勝機はある!」


 山賊頭は一縷(いちる)の望みに賭けるように言い放った。


「そんなものは無いよ。お前達はやり過ぎたのだ。殺す前に一つ聞こう。誰の差し金だ?」

「末端がそんな事知るはず無ぇだろう? 知りたきゃ自分で調べな! 証拠ぐらいならその辺に転がっているだろうさ!」

「それもそうだな。ならば死ね!」


 その言葉の応酬が戦いの契機となった。


「死ぬのはお前だぁあああ!!」


 山賊頭は死に物狂いでミスト将軍に戦斧で斬りかかる。


 戦斧は剛風と共にミスト将軍を真っ二つに切り裂いた。


「何だ? 全く手応えが無ぇ」


 おかしい。どうなってやがる? まるで影を斬った様だ、と山賊頭は不審がる。


「貴様が斬ったのはただの霧だよ」


 山賊頭が驚愕していると、後方から声がかかった。


「終わりだ」


 山賊頭は後ろを振り向くことはできなかった。


 その一瞬前に、ミスト将軍の剣が一閃し山賊頭は絶命していた。



 †



 周囲には死屍累々(ししるいるい)と山賊達の死体が転がり凄惨な状況だ。


「山賊とはいえ、嫌な手伝いをさせられたものですね……」


 私は暗鬱としていた。ある程度は分かっていたとはいえ、嫌なものだ。


「確かにソニアの「青薔薇の庭園」とミストの「霧」は凶悪な連携だったわね」

「一方的な蹂躙になってしまいました」


 アリシア先輩の感想に私は応えた。


 ミスト将軍の霧に隠れて茨で縛るただそれだけの単純な作戦だった。

 それがこうも効果的に働くとは思っていなかった。

 沈んでいる私にミスト将軍が言った。


「山賊共に奮起を促しても意味はないだろう。それが嫌で賊などになったのだろうからな」

「それはそうでしょうね」


 個々に事情はあるにせよ真っ当に生きることを選ばなかった人種だ。因果応報あるいは自業自得ではある。


「それにそれほど沈むことも無い。お前たちは彼女達を救ったのだから」


 そう言うと将軍の部下が人を連れてきた。何人もいるが皆エルフだ。

 特徴的なのはボロボロの服よりもその首元の首輪だった。


「これは……まさか……隷属の首輪!?」

「ああ。皆、危うく奴隷にされるところだったよ。お前達に感謝を伝えたいそうだ」


「隷属の首輪」とは拘束用の魔導具だ。着けられたものは魔法が使えなくなる。

 本来は牢獄で凶悪な魔法を使う犯罪者に用いられる物だが……


 皆沈んだ表情ながらも「ありがとうございます。助かりました」とお礼を言ってくれた。

 大変な思いをしただろうに凄いと思う。これもプライドの高さ故だろうか。


 当然だが、奴隷は禁止されている。しかも攫って奴隷とかあり得ない。

 同様に山賊だって禁止だ。

 だが、実情はこれだ。どこかで闇取引でもしているのだろう。


 そのとき私は怒っていたのかもしれない……

 私は一人のエルフの首元に手をやると首輪を解除してやる。

 金属が外れる音がして首輪が落ちる。そうして順番に解除していった。


「驚いたな。こうも簡単に解除できるとは」


 ミスト将軍が驚いていた。


「昔、本で調べたので……フッ。若気の至りですよ」


 私は遠い目をしながら言った。


 ミスト将軍には何を言っているんだこいつという目で見られた。


 あの時の私は若かった。散華ちゃんに使ってみたいと思って調べたのだった。

 結局手に入らず断念したのだが……いや、ほら研究は必要だと思うの。

 万一の場合に備えて? まあ、それはともかく……


 当然だが一般には流通していない。

 盗品等を闇ルートで手に入れる者もいるようだが、そんなものは知らないし値段もかなり高値だろう。


 私は捕まっていた全員の首輪を外すと改めてそれを調べた。

 見たところ錆一つ無い。新しく作られた物の様だ。


「新しく作られた物の様ですね」

「その様だな。この型はアルフヘイムでは無いな。恐らくカリスの物だろう」


 こうしたものは厳重に管理されている。そのはずだ。

 その分、その型や特徴から誰が作ったか、どこで使われていたかも分かりやすい。

 ミスト将軍ならば簡単に出所を掴めるだろう。


「後はこちらで調べよう。助けが間に合わなかった者達の捜索もあるのでな」

「……そうですね」


 既に奴隷として売られてしまった者もいるだろう。それを考えると今回は間に合って良かった。


「それではお前達はこのまま我々についてきてもらうぞ。なに、礼には礼で返そう。女王陛下への謁見までは約束しよう。もっとも、それより後は陛下がお決めになることだが……」

「はい! ありがとうございます!」


 私はミスト将軍にお礼を言った。これで当面の安全は保証された様なものだ。

 逆に言えば逃げ場も無くなったが、良い方に考えた方が良いだろう。

 プライドの高いエルフが約束を違えることはまず無い。


「では被害者達を送り届けながら帰還するぞ!」

「「おお!!」」


 ミスト将軍の号令と共に部隊は帰還の途についた。それに私達も同行するのだった。



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