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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第二章 アルフヘイム編(上)
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修行

 エリスはリリスのせいでぐったりしてしまったので、今日はアリシア先輩が御車をしている。

 とりあえず今日はエリスは休ませてあげている。

 代わりにアリシア先輩が被害に、もとい仲良くしている。


 エリスは休んでいると言っても暇そうなので私はエリスに聞いてみた。


「エリスって格好の割に純情だよね」

「? ダークエルフでは一般的な格好よ? 蓮華もその様な事を言っていた気がするわね……割にの意味が分からないけど」

「そうなのか……文化の違いと言う奴なのだろうか?」


 エリスの格好は比較的肌の露出が高めだ。だが育った環境がそうなら普通の事なのだろう。


「むむ。これは楽しみが増えたな」

「……ソニアの方が格好の割に不純よね」

「心外です! 私ほど純粋な子は稀なのです。……うん? これも文化の違いなのか」

「いや、そこは同じだと思う……」


 どう言う事だ? 何やらこんがらがってきたので他の事を聞く。


「エリスはアリシア先輩と幼馴染みなの?」


 何となく私と散華ちゃんの関係に近い気がしていた。


「うーん……まあ良いかしら」


 エリスは少し悩んで話すことにしたようだ。


「同じ孤児院で育ったのよ。いえ、孤児院というより学校に近いかしら。そのせいで学んだ事も結構、被ってしまっているのよね」

「そうか。じゃあライバルみたいなもの?」

「そう言われるとそうかもしれないわね」


 エリスは話しにくそうにしている。

 突っ込みすぎたかもしれない。彼女達はいわゆる密偵だ。話せないことも多いのかもしれない。

 エリスとこのまま話していても良いが旅は長い。

 エリスも休みたそうだ。


「エリス。悪いけど少し修行してくる。後をお願い」

「修行って識界に?」


 私は頷いた。冒険者たるもの、日々の鍛錬は欠かせないのだ。


「分かったわ。私も休ませてもらいたいし。昨日変な夢を見たのよ」


 昨夜リリスは何かしていた。というか私がさせていた……

 うむ。世の中には知らない方が良い事があるのだ。


「……そうですか。ではしばらく行ってきますのでよろしくお願いいたします」

「どうしていきなり敬語? ……ソニア何か隠してるわね?」

「……」


 私は精神を集中させる。

 馬車がガタガタと揺れるのを気にしないようにする。

 エリスが何か言っているのも気にしないようにする。


 そうして私は逃げる様に識界へと向かった。



 †



 識界。

 そこは草花が多い高原の様な場所だった。周りも山に囲まれている。

 月光天というらしい。私はあれから度々ここへ来ている。


「来たね」

「お婆ちゃんっ!」


 私はお婆ちゃんに飛びつく。

 お婆ちゃんは私達の動向が感じ取れると言っていた。なのでこうして待ってくれている事も多い。


「ソニア。毎回飛びつかなくても良いだろう」

「これは挨拶なのです」

「まったく。甘えん坊だねぇ」


 そう言いつつもお婆ちゃんはまんざらでもなさそうだ。私も自然と笑顔になる。


 私は今、お婆ちゃんに魔法を教わっている。

 以前も教わっていたが、あの頃はまだ私も幼かった。

 そして教わることは当たり前のことだった。

 それが当たり前のことでは無かった事に気づいたのは、お婆ちゃんが亡くなったからだ。

 こうしてまた教わることができるのが何より嬉しい。


 それに散華ちゃんは強くなると言った。なので私はついて行かなければならない。


「ソニア。言いつけは守っているかい?」

「うん。闇の鎧は使わないようにしてるよ。残念だけど」

「あれは強力だからね。安易に頼ると地力がつかなくなってしまうのさ」

「うん。皆にも言ってある」

「まあ、どうしても危機に陥った時は躊躇わずに使うんだよ」

「分かった」


 言われた通り、あれから私たちは闇の鎧を使っていない。まあ、特段使う必要もなかったためでもあるが。


「それと青の書なんだが、お前はまだ使いこなせていないようだ」

「そうなの?」


 そう言われても、あまりピンとこない。


「ああ。あれも強力なのには違いないが、こちらはもっと馴染ませるべきかね」

「もっと使えって事?」

「ああ。重要なのは臨機応変だよ。貸してみな」


 私は青の書を渡す。私が身に着けている物は一緒にこちらへ来ている。そう意識しているからだろうか。

 お婆ちゃんは青の書を受け取ると呪文の詠唱を始めた。


「其は蒼き炎帝の咆哮 其は青き太陰の火炎 蒼炎よ青の書の盟約に従い我が敵を滅せよ」


 青の書が輝く。

 中空に魔法陣が浮かんだ。


「『蒼炎嵐舞(ファイアストーム)』」


 私がお婆ちゃんに習った魔法だ。

 次の瞬間。


 ドオオオオォォーーン!!


 空一面が青く爆裂した!

 狙った中心から連鎖するように同心円状に炎光が広がっていく!!


 それはしばらくして収まった……


「……半端無いな。これが蒼炎の魔女……」


 身内ながら思わず感嘆する。私の魔法とは大違いだった。


「ふむ。まだ使えたようだね。ソニア。驚いているようだが、ここは魔素が濃いからね。抑えたのさ。本気じゃないよ」


 ……まだ上があるそうです。


「このくらいは出来る様になってもらわないと心配だねぇ。まあ、すぐにできるようになれとは言わないさ」

「頑張ります!」


 私はやる気です。

 お婆ちゃんは「青の書」の元所有者だ。亡くなってから私が引き継いだ。

 青の書については私より詳しい。


「しかし、まだお前は青の書との繋がりが薄いようだ」

「繋がり?」

「ああ。自分の物にしてないってことさ。私が青の書を使えたのもそのせいだ」

「そうだったのか……」


 そう言われてもどうしたら良いのかわからない。

 私が困っていると、お婆ちゃんは考えてくれていたようだ。


「先ずは何が良いかねぇ。そう言えばお前達、青薔薇ってパーティーにしたんだったね」

「うん。青薔薇(クールビューティー)です」

「良いじゃないか。お前らしいね。それにしよう」


 お婆ちゃんは青の書に手を添えると呪文を唱えた。


「それは青き枷。それは青き首輪。(いまし)めよ」


「『青薔薇の束縛(ブルーローズバインド)』」


 浮かんだ魔法陣から茨が飛び出した! 所々に青薔薇が咲いている。


 うお! 私に向かって来る!


 私は飛び退くが、捕まってしまった。


 茨が食い込んでちょっと痛い。服の上からなので怪我は無いが。


「痛いよ。お婆ちゃん」

「おお。悪いね。加減したつもりだが……」


 すぐに拘束は解けた。

 美少女を拘束したい気持ちは分からないではない。私は寛容な心で許そう。


「それで私はそれを覚えれば良いんだよね?」

「ああ。やってみな。ただし私は簡単には捕まらないよ。私を捕まえてみせな」

「分かった」


 青の書を返して貰った私はお婆ちゃんに向かって先の呪文を放つ。


「それは青き枷。それは青き首輪。(いまし)めよ」


「『青薔薇の束縛(ブルーローズバインド)』」


 茨がお婆ちゃんに向かって走った。


 があっさりと避けられた。


 もう一度同じ事をする。がやはり駄目だった。


「むう。捕まらない」

「同じ事をしても無駄だよ。工夫しな」

「はい!」


 そうは言ってもどうすれば良いだろう。

 ここは単純に増やすか。


「それは青き枷。それは青き首輪。(いまし)めよ」


「『青薔薇の束縛(ブルーローズバインド)』」


 それをもう一度同様に放つ。

 だがそれでも躱される。

 しかし、もう一度放った。

 都合三度。

 どうだ。


 捕まえた!


「惜しかったね」


 そういうとお婆ちゃんの周りに蒼炎が舞った。

 茨は一瞬にして塵と化した。


「むう。無詠唱か。捕まえたと思ったのに……」

「さて、どうする? 今日はここまでにするかい?」

「まだやります!」


 簡単に諦めたくはない。


 青の書に手を添えて考える。

 青の書が一瞬輝いた気がした。

 これは根本的な改革が必要かも知れない。

 私は呪文の構築文から見直す。

 そして組み立て直す。


「それは束縛の青き庭。 身体を縛れ。 精神(こころ)を掴め。 青薔薇よ 咲き乱れよ!」


「『青薔薇の庭園(ブルーローズガーデン)』」


 私を中心に青薔薇が広がっていく。


 それは青薔薇の咲き乱れる美しき庭園だった。


 それはお婆ちゃんをして。


「素晴らしい! ああ。綺麗だ」


 そう言わしめた。


「さあ。お婆ちゃん。もう逃げ場はありませんよ」

「ああ。参った。これ以上は本気になってしまうからね」


 うむ。それは困る。とはいえ……


「やった!」


 私は喜びを噛み締めていた。


「それにしても結構な大魔法になったものだね」

「うん。青の書が力を貸してくれた気がする」

「そうか。お前を認めたのかも知れないね。青の書もお前の仲間達と同じさ。一つずつ認められて行くんだ。大切にするんだよ」

「うん!」


 その言葉は肝に銘じておこうと思う。


「ああ、それと今回は上手くいったが、次も上手くいくとは限らない。練習は怠らないようにな」

「はい! ありがとうございました!」


 そうしてお婆ちゃんと別れると私は自分の身体へと戻った。



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