武闘大会決勝戦 開始
大会三日目。
決勝戦。
青薔薇対エリュシオン。
試合開始前。闘う者達が相対している。
何故かそこで、相手の巨漢が語って来た!
巨大な盾を持っている男だ。盾役なのだろう。
「俺の名はダン。光の勇者のパーティー、エリュシオンの一員だ。あの通り光の勇者はいつもやる気がない。だから俺は思ったッ! 実は俺こそが光の勇者だったのではないかと!」
ダンはそう言うと光の勇者の方をチラリと見る。煽っているのだ!
たぶん勇者のやる気を出させるための儀式か何かだろう……
そんなことを思いながら私達は見ていた。
「良いぞ。ダン。お前こそが光の勇者だ」
だが光の勇者は普通に投げ渡された。本当にやる気がないらしい。
「お、おう。というわけだ! 今から俺が光の勇者だ!」
「なにこれ……じゃあ元、光の勇者はなんて呼べばいいんですか?」
私はなんだか可哀想になって一応、聞いてあげた。
「名前で呼べばいいだろう。確かグニャグニャしたような名前だ!」
「してねえよ! ローレンだ。どこにグニャグニャ要素があるんだよ!」
さすがにこれには元? 勇者もキレた。
それを見てダンはこちらにサムズアップしてきた。良い笑顔だ!
観客達も「いいぞもっとやれ」と爆笑している。
おお、さすが勇者パーティー。
マイクパフォーマンスまでするのか、と感心していたのだが……
蓮華姉さんとエリスさんは恥ずかしそうな顔をしていた。
大佐と呼ばれた男は関わらないようにしている。
そんな中でも、ダンはマイペースに言った。
「というわけで自己紹介だ!」
完全に観客を意識した行為だ。
こいつはエンターテイナーの方が向いているのではないだろうか?
「先ず俺。【光の勇者】ダン! そして【雪月花】蓮華! 【不和】エリス! 名前は教えてくれない、【大佐】! 最後に【元、光の勇者】ローレン!」
観客から声援が飛ぶ!
「良いぞダン!」
「蓮華様、素敵!」
「エリスたん、ハアハア……」
「大佐、渋い」
「ローレン働け!」
声援だよな?
それを気にせず、ダンが期待を込めてこちらを見ている!
そして手招きしていた! 私に返してこいと言っているのだ!
良いだろう! このまま終わったら可哀想だからな!
「こちらは先ずリーダーから、ヴォーダン魔導学園生徒会長にして【聖天使】散華! そして私はその右腕、暗黒騎士団大司教ソニア! そして左腕、聖騎士団団長ツヴェルフ! さらに真の聖女アイリーン! 星空の妖精アリシア!」
観客も乗っている!
「良いぞソニア!」
「聖天使様! 格好いい!」
「ツヴェルフたん、ハアハア……」
「アイリーン様、素敵!」
「アリシアたん、ハアハア……」
あっ……師匠から強烈なプレッシャーを感じる。激しく怒っている気がする。冷や汗が出た。
大丈夫、鎧で顔バレはしていない……はず。散華ちゃん以外は……
ただ、アリシア先輩は私に言われてちょっと照れていた。
ツヴェルフさんは不思議そうに首を傾げている。
そしてもう一人怒っている方が……
「ソニア……。お前、聖天使はあれほど使うなと!!」
散華ちゃんも怒りで震えていた。だが、私は止まらない。
師匠から話題を逸らすのだ!
「そして皆知っての事とは思うが、【雪月花】蓮華姉さんと【聖天使】散華ちゃんはあの『華咲』の姉妹だ!」
「え? そうなの? じゃあ……」と観客の中には知らなかった人も当然いる。
私は呼吸を整えて、あえて大振りの演技をつけて告げる。
「皆、刮目せよッ! 美人姉妹対決だッ!!」
観客も止まらない!
「「「うおおおおお!! 美人姉妹対決来たーーーーーー!!!」」」
散華ちゃんだけでなく、蓮華姉さんまでめっちゃ怒ってた。
「ソニア……潰します!」
「や、やるわねあの子。まさか、ダンの安い挑発に乗って来るとは!?」
エリスは驚いていた。
ダンは爽やかな笑顔でサムズアップしてくる。
こちらもそれを返してやった。
「ソニア。後でお説教ですからね」
「私からもだ」
「さ、作戦だよぉ……?」
師匠と散華ちゃんから非情な宣告を受ける。私の言い訳は全く通用していなかった……
名乗り合いが終わったところで、審判が言う。
「エリュシオンの皆さんそして青薔薇の皆さん準備はよろしいですね?」
それに応じて相手側と私達は頷く。
「それでは決勝戦。エリュシオン対青薔薇開始いたします!」
そして試合が始まった。
私は素早く状況を確認する。
元? 勇者ローレンはここにきてまだ動かない。
散華ちゃんは事前の打ち合わせ通り、蓮華姉さんへと向かって行く。
私が煽ったせいもあって、蓮華姉さんも受けて立つ構えだ。
……私が煽ったのは関係なかったかもしれないが。
エリスさんにはアリシア先輩だ。こちらもエルフ対決になっていた。
聞いてなかったが、元々二人ともそういう狙いだったようだ。
師匠には大佐を抑えてもらう。どうも大佐という男は底が見えない不気味さがある。
正直、勇者などより一番の要注意人物だ。
ダンにはツヴェルフさんが張り付く。ダンは割とどうでもいい。
私は全体を見つつ、勇者ローレンの動きを警戒する。
ここまでは予定通りだ。
ダン対ツヴェルフさんはツヴェルフさんが圧している。
ツヴェルフさんは更に強くなっていた。
ツヴェルフさんの猛攻にダンは盾を構えたまま「ぐっ……うぅっ……」と呻くばかりだ。
逆に師匠対大佐は驚くべきことに師匠の方が圧されていた。師匠はかなり苦しそうだ。
あの師匠があそこまで苦しめられるだと!?……本当に何者だ?
散華ちゃん対蓮華姉さんはやや散華ちゃんが圧されているものの、しっかりと食らいついている。
アリシア先輩対エリスさんも同じく、ややアリシア先輩が圧されつつあるが健闘している。
後方で待機している勇者ローレンはやはり動かない。
それでも全体的に見れば劣勢だった。
ならばやはり、一番苦戦している師匠の所へと思い、私は援護に向かおうとするが……
「ソニア! 来ては駄目です。この男は強い。呑まれてしまいます!」
師匠に止められたのでグッと堪える。下手をすれば足手まといになりかねない。
だから私は逆に一番優勢のツヴェルフさんの加勢に入ることにした。
先にダンを倒してしまえば一気に形勢は有利になるからだ。
ローレンはそれでもなお動く様子はない。
何かを見ながらニヤニヤしている。見ているのはどうやら蓮華姉さんと散華ちゃんの戦いだ!
あいつは何が狙いなんだ!?
私はとても苛ついたが今は耐える。そしてダンのもとへ走った。
ツヴェルフさんは終始、圧倒している。だが、ダンも粘り強く耐えていた。
ダンの大盾にツヴェルフさんの長剣がぶつかる。甲高い音を鳴り立てながら火花を散らす。
ガンッ! ガンッガンッ……!
ツヴェルフさんの剛剣による猛攻にダンはふらふらだ!
「うぐっ……どうしたオラァ! ぐはあっ……もっと来いやァ! まだまだァ! 俺は光の勇者ッ!」
それでもダンは自分を鼓舞して必死に耐えている。
だが無情にもツヴェルフさんは……
「嘘は良くないです」
そう言って更に攻め立てた!
ガガガッ! ガガガッ……! ガンッ!
とても自動人形などには見えない躍動感を持って、ツヴェルフさんの激しい連撃がダンを襲う!
「ぐうおおおおおお!!」
そう叫びながらダンは吹き飛んだ。
止めとばかりに私は追撃で魔法を放つ。
「『雷光』!」
だが大盾がそれを阻んだ。盾には魔法防御が張ってあるようだ。
弱い魔法は効かないだろう。私達の闇の鎧と同じだ。
ダンはフラフラになりながらも立ち上がった。根性だけなら勇者と言えるだろう。
「やってくれたな! 見せてやる! 光の勇者の最終奥儀!」
そう言ってダンは守りの要の大盾を捨てた!
私とツヴェルフさんは警戒して身構える。
「俺が決めて……俺が創る……」
「輝け俺! 燃えろ俺! 俺が光の勇者ッ!!」
「『炎剣』!」
独自魔法か! ダンはそれでも勇者のパーティーだった。
ダンの手元から魔素が集束すると、炎の剣を形作る。
そしてそのままダンは飛び出した。
炎の剣を持ったダンが突っ込んでくる!
ダンの身体からも炎の様なオーラが放たれている。
身体強化もされているようだ。
ツヴェルフさんはそれでも引かない。
その目からは彼女の意思の強さを感じた。
「嘘はいけません!」
振り下ろされる炎剣に合わせて、彼女の長剣が唸った!
ズドオオオオオン!!
その一撃は炎を吹き消しながら、ダンを場外へと吹き飛ばした。
ダンよ。それなりに面白い男だったぞ。あとそれは炎の勇者だろう……
私が何もせずとも、ツヴェルフさんが倒してしまった。
それを見届けると、私はすぐに視線を走らせる。
やはり、師匠がまずい状況に陥っている!
膝を屈した師匠の前には大佐が立つ。
まずい! 仕留める気だ!
「ツヴェルフさんッ!」
私が叫んだ時には彼女は走り出していた。状況は彼女も理解していたのだ。
彼女は大佐の元へ滑り込むようにして長剣を振るう!
大佐はそれを軽く躱しながら師匠達から離れた。
「すみませんツヴェルフ。助かりました」
師匠がいつになく弱気だ。それに荒い息をついている。体中の傷が痛ましい。
対して大佐は平然としている! それほどなのか大佐という男は!
八分の一になってオリジナルからは劣ったとはいえ、闇の鎧の防御力はかなり高い。
それをああまで傷つける事ができるものなのか……
それでも師匠がどうにか持ったのは、闇の鎧のおかげと彼女の技量だった。
驚愕するも私は素早く現状を確認する。
勇者ローレンはダンが倒されたというのにまだ動かない。
じっと散華ちゃんと蓮華姉さんの戦いを見ている。こちらにはまるで興味がない様子だ。
それでも何かを狙っている節があるのが不気味だった……
その蓮華姉さんには散華ちゃんが必死に食らいついている。
エリスさんとアリシア先輩の戦いも同じ状況だ。苦戦しているが何とか張り合っている。
ダンは倒したものの師匠が倒される寸前だった。
状況は全く好転してはいなかったのだ。
それどころか全体的に見れば圧されている。ダンが意外に粘ったせいだった。
だが間に合った。師匠をカバーしつつ巻き返す!
私はそう決意して師匠の許へと走った……




